第六章 モンスターカスタマー
二週間後の新幹線のデッキ。
浅見は電話を耳に当てていた。相手はヴァルカン社の城山綾乃だった。
「以前の仕様と違う? そんなのは状況で変わるのよ。理解できてる?」
城山の声の奥に、どこか追い詰められたような震えがあった。
浅見は短く返事をした。
「いやしかし、仕様が定まらないとプログラムとしては……」
車窓の外を流れる風景が、ただ灰色に見えた。
◇ ◇ ◇
出張先のビジネスホテル。
深夜だろうと関係なく電話が鳴った。
「仕様決めたわ。今から口頭でいうから。間違えちゃダメよ」
城山の突然の電話に、浅見はあわててメモを取った。
浅見が大急ぎでキーボードを叩く。
「よし……これでできあがり」
やっと安心しかけた時、また電話が鳴った。城山からだった。
「さっきの仕様は取り消し。これから別の仕様を言うから。急いでメモして。口頭でいうから」
城山の声は、いつも追い立てる側でありながら、いつも追い立てられているような雰囲気も感じられた。
浅見がまたメモをはじめる。
◇ ◇ ◇
電話を切ると、どっと疲れが押し寄せた。
浅見はメモを見返した。そこには五種類の仕様が並んでいた。
どれも「最新」と言われたものだ。
どれが正しいのか、精査するまで確定しない。
……まるで量子の仕様書だ……。
浅見はそう思いながら目を凝らして、メモを読み直した。
浅見が精査の後に、最も確からしい仕様を見出し、キーボードを叩き始めた。
そして、ほぼ完成したところで、また電話がかかってきた。
「ああ、このプログラムだけど、もういいわ。この機能なしにするから」
ガチャリと一方的に電話が切れた。
浅見は、ぐったりと椅子に崩れ落ちた。
しばらく身動きができなかった。




