第三章 幕間
翌日の昼休み。
浅見が昼食のコンビニ袋を持ったまま、ふらふらした足取りで開発室に戻ってきた。自席にコンビニ袋をドサッと置き、席に崩れるように座る。
隣の席の宮本優奈が、自席で弁当を広げていた。
ネオリンクス社は小さな会社で、食事用の部屋などない。
優奈は浅見の疲れ切った顔を見ると、眉を寄せた。
「どうしたの、浅見君。間に合ったんでしょ」
浅見は苦笑した。
「間に合いました。でもまだ大変で……」
浅見はコンビニの袋を広げ、サンドイッチを取り出した。
「あちこち調整が出て、今日も徹夜になりそうです」
優奈は首を振った。
「代償は大きかったのね」
彼女は弁当をつつきながら、ふと思いついたように言った。
「ところで、昨夜、何か見なかった?」
「何かって、何をですか?」
機械的にサンドイッチを頬張る浅見を見ながら、優奈はおどけた表情で両手を前に垂らし、幽霊の仕草をした。
「ここ、出るらしいよ、ふふふ」
浅見は何も答えられなかった。
彼は、机の端に置かれた黒猫の写真に目をやった。
◇ ◇ ◇
二日後。会議室。
高木部長の前でプレゼンテーションの二度目の練習が行われていた。
浅見は、高木と優奈の前でスライドを映した。
「コンピュータの速度は年々向上していますが、いずれ限界を迎えます。そこで、この新しい量子コンピュータが必要になります」
高木が言った。
「そこは詳しく説明した方がいい」
浅見はうなずいた。
彼がキーボードを叩くと、新たなスライドが次々に表示された。
「従来のコンピュータは1と0だけを扱います。しかし量子コンピュータは、その1と0の重ね合わせ状態を扱えます。そのため巡回セールスマン問題のような計算では、速度の飛躍的な向上が期待できます」
優奈が笑顔で言った。
「よくなったと思う」
高木も満足そうにうなずいた。
「よし、これで明日は万全だな」
疲れ切った顔のまま、浅見が笑った。




