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三話『告白と旅立ち』

 宴会は始まりみんなが騒いでいる間にあたしは荷造りを済ませた。


 院長先生やヒリアには黙って出ていくつもりだ。


 冷たいと思うかもしれないが、あたしは変にふたりに話すと覚悟が薄まってしまう気がしたからだ。


 このまま村にあたしが居続ければ、必ず院長先生もヒリアも魔族に殺されてしまう。


 村のみんなにも被害が出るだろう。あの魔族はまだ弱かったから良かったが、もっと強い魔族が出てきたら、みんなを守り切れる自信がないのだ。


 あたしはみんなを守るためなら、多少恨まれてもいいと思っている。


 それでみんなが平和に暮らすことができるのなら、それで本望だ。


 もう迷いはない。


 ないはずなのだが、どうしてもヒリアの顔が浮かんでしまう。


 本来来年になってから、一緒に冒険者として活動しながら旅をする約束だった。


 その約束を破ることにどうしても罪悪感を抱いてしまう。


 それでも仕方ないことだ。


 ヒリアを守るためなのだから。


 あたしは荷造りを終えて、黒い冒険者服に身を包むと孤児院を出て、騒いで飲んでいる村のみんなをそっと見送った。


「みんなさようなら……」


 ふと頬に雫が流れ出た。

 どうして人生ってこうも思い通りに行かないことばかりなのだろうか。


 自分が面倒なことに巻き込まれてしまった運の悪さを恨み、村を後にして駆け出した。


 これでよかったんだ。


 そう思って村の裏門へ向かうと、そこに青い髪を下して、ヒーラーの髪飾りをして、白いローブを着たヒリアが待ち構えていた。


「どうしてここにヒリアがいるの?」


 ヒリアは悲しそうに笑いながら答えた。


「何年親友やっていると思っているんですか。リベルの考えそうなことなんてお見通しですよ」

「そ、そっか……」


 どうやらバレバレだったようだ。普段天然でポンコツに見えて、ヒリアは妙に鋭いところがあるから油断できない。


 あたしはなんて声をかけたらいいか迷っていると、いきなりヒリアが抱き着いてきた。


「嫌ですよ。リベルがわたしの前からいなくなるなんて。絶対に嫌です……」

「ヒリア……」


 そして、ヒリアは泣きながらはっきり告げた。


「あと成人したら一緒に冒険者として旅に出る。それでわたしたちを捨てた両親の手がかりを探すって約束したじゃないですか? あれは嘘だったんですか?」

「そ、それは……」


 どうも素直に理由を言えないでいた。だって泣くなんてずるい。そんな顔されたら言い出し辛くなるに決まっているのに。


 あたしはそれでもヒリアのためだと割り切って事の真相を語り出した。


「あのね? ヒリア……。実はあたしは魔族たちに命を狙われているんだ……」

「それってリベルがこの村にいる限り。また魔族が襲ってくるってことですか?」

「うん。そういうこと……」


 どうやら片言で伝わったみたいだ。


 やはりヒリアは空気を読める優しい子だ。


 これでわかってくれたかなと思っていると、ヒリアはさらに強く抱きしめてきた。


「だったらわたしも連れて行ってください」


 そう来たか。


 でもここははっきりさせておかないと後悔することになる。


 あたしはきっぱりと言い切った。


「ダメ」


 あたしの発した拒絶を聞いて抱きしめるヒリアの手が震えた。


「それはわたしが足手纏いになるからですか?」


 その言葉に胸が痛んだが、あたしは彼女を守るためにもきちんと伝えた。


「うん。正直。もっと強力な魔族が出てきたら、ヒリアを守り切れる自信がない……」


 あたしは上手く説得したつもりだったけど、当然のようにヒリアは拒絶した。


「そんなの嫌です。わたしはもっとリベルと一緒に居たいです。別れるなんて絶対に嫌です」

「でもそれじゃヒリアにもしものことがあったら、どうするのさ? 死ぬかもしれないんだよ?」


 ヒリアは少しだけ間を置いて語り始めた。


「わたしは幼い頃からリベルに追いつくことが目標でした。だってずっと守って貰ってばかりで、いつも狩りの時なんかに隣に立つことができなかったから……」

「ヒリア……」


 少し言いよどんだあと、ヒリアは言葉を続けた。


「それだけじゃありません。わたしはリベルと一緒に居るだけで楽しかったんです。毎日が特別で、キラキラしていて、特別な時間でした……」


 そうか。ヒリアもそう考えていてくれたんだ。あたしも嬉しくなり、その言葉に同意した。


「それはあたしも同じ気持ちだよ……」


 ヒリアは更に言葉を重ねた。


「知っています。でもわたしの気持ちはそれだけじゃないんです。リベルといるとドキドキするんです。胸の奥がちくりを痛くなって、一緒に居ると心が満たされるんですよ……」

「ヒ、ヒリア?」


 どくんと胸が昂ぶった。それってつまり。ヒリアはあたしのことを――。


 そこまで考えた時に、ヒリアの口からその続きを聞かされた。


「だから。わたしはリベルのことを愛しているんです。一人の女性として。だから……だから……どうかわたしを捨てないで……」

「ヒ、ヒリア。その。えっとそれは。その……」


 肩越しにヒリアの嗚咽が聞こえる。ここで逃げたらダメだ。彼女は本気で告白してくれたんだ。あたしも正直な気持ちをヒリアに打ち明けた。


「あたしもヒリアのこと大好きだよ。でもそれは親友としてなんだ。でも気持ちは嬉しいよ。ありがとう……」


 すると、ヒリアは更に自らの覚悟を打ち明けた。


「はい。知っています。でもいつか必ずリベルを振り向かせます。だから……だから――ッ!」


 ヒリアはあたしから少し体を離して、きっちりと真っすぐな瞳でこちらを見据えた。


「わたしをリベルのそばに置いてください。最初は足手纏いになるかもしれないですけど、努力して、必ずリベルの隣に立てるように強くなりますから!」


 ヒリアの言葉を受けて、あたしも覚悟を決めた。


「そこまで言うなら分かったよ。一緒に行こう。そして、一緒に強くなって、あたしの母さんが何者なのか。ヒリアを捨てた両親はどうなったのか。答えを探しに行こう。もちろん魔族の野望も止めるために!」


「はい! リベル。これからよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくヒリア……」


 そのあと、あたしたちは手を繋いで裏門から飛び出した。


 そして。村の方を振り返り、あたしは少し口ずさんだ。


「院長先生。みんなごめんなさい。行ってきます……」


 こうして、あたしたちの長い旅路が始まりの鐘を告げた。


 今後は一日から三日以内の間で更新します。どうしても無理な予定が入った場合は活動報告でお知らせいたします。今後とも拙作をよろしくお願いします。

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