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終結保留都市——断罪未満

黒髪を靡かせながら靴音共に現れたのはマリィだった。


「案外居心地良さそうね 皆」


「あ〜あ〜なんとでも言え

 そもそもなんでお前は自由の身なんだよ」


すかさずイエナは愚痴をこぼす。


マリィは表情を変えないまま、わざとらしく一拍置いてから口を開いた。


「私は特別だから 

それより貴方達の釈放の件、話をつけてきたわよ」


「本当に?」


「ええ。なぜ疑うのかしら」


「いや、疑ってる訳じゃないんだけども」


こういう時、いつものマリィならまず、人を試すような笑みや視線を向けてくる筈なんだけど。


やけに行動が早いというからしくないというか


「イエナ、ネリュス準備なさい」


言葉と同時に、後ろから看守が一人歩み出る。


無言で鍵を差し込み、鉄格子を開けた。


ガチャリ、と重い音。


「……マジで開いた」


イエナが眉をひそめる、ネリュスも戸惑いを隠せないまま、檻の外へ出た。


「では帰りましょうか」


「え」


「ちょっちょっと待ってマリィ?  

あの……俺は?」


マリィはほんの一瞬だけ視線を向ける


「貴方もすぐに出られるわ」


「……本当に!?」


「ええ」


何かを測るように


「生きていられたら、だけど」


「へ」


その瞬間ガチャッと重い音が反響して俺の牢の扉が開いた。


「対象を移動する」


低い声。


振り向く間もなく、大柄な魔族の兵士が三人、無駄のない動きで入ってくる。


竜のような角と鱗。


無言。


躊躇も、感情もない。


「ちょ、待——」


言い切る前に、身体が持ち上げられた。


拘束具は外されない。


そのまま、台車に乗せられる。


無造作に。


まるで——


「出荷?……」


思わず漏れる。


「誠一郎!!」


イエナの声。


振り返る余裕もないが、顔は見えた。


不安げな顔。

また心配かけちゃうな……本当にごめん。


ネリュスは何か言いかけて——やめた。


その奥。


マリィだけが、いつも通りの無表情でこちらを見ている。


けど。


「……大丈夫」


聞こえたのか、頭に響いたのか分からない声。


小さすぎて、曖昧で。


「尋問されるだけだから」


一拍。


「——拷問に近いかしら」


「それって全然大丈夫じゃないよねえぇぇ!?」


叫びが、廊下に引きずられていく。


鉄の軋む音と、足音にかき消されながら。


運ばれる。


ただ、それだけなのに。


やけに長く感じた。


石造りの廊下。


湿った空気。


規則正しく響く足音と、台車の軋む音。


視線だけは動かせる。


天井。


壁。


すれ違う影。


——誰も、目を合わせない。


「……どこなんだよここ」


呟くが、やっぱり返事はない。


代わりに、別の音が混じった。


ガコン。


重い扉が開く音と共に視界が、開ける。


「——っ」


思わず息を呑む。


広い。


いや、広すぎる。


円形の空間。


天井は高く、闇に溶けて見えない。


床は滑らかな黒い石で出来ていて、中央だけがわずかに窪んでいる。


まるで——


「闘技場……」


「審刃円環だ。

断罪闘円とも呼ばれている。」


初めて、兵士が口を開いた。


相変わらず感情のない声。


「ここで貴様の判定を行う」


「は、判定って一体何の?」


聞き返す間もなく台車が止まり、拘束具を外される。


手首に血が戻る感覚が、妙に生々しい。


「中央へ」


「いや、もう少し説明を——」


押されて、よろめきながらも足が前に出る。


逃げ場はない。


円の中心へ。


一歩。


また一歩。


「対象、配置完了」


背後で扉が閉まる。


重い音。


完全に、隔離された。


「……」


その時。


がしゃり、と。


鉄と鉄が擦れ合った様な音が響いた。


静かに。


確実に。


視線を向ける。


闇の奥から——


現れたのは、3mはあるかと思える巨大な鎧武者。


角が突き出た面付き兜、巨大な大太刀を握り、まるで不動明王が如く佇んでいた。


けどその正体は火を見るよりも明らかだ。


俺は彼女を知っている。


何度もマコトの記憶に出てきた彼女を見紛うはずがない


「ゲルヘナ様……ですね」


「そうだ。」


即答。

重く圧のある声が響く。


ならばまず俺がすべき事は一つだけ。


「仲間達を救って下さり、有り難うございました。」


深々と頭を下げる


彼女の迅速な対応のおかげでネリュスの命が助かったから

魔王国での暮らしに慣れないイエナを導き寄り添ってくれたから

赤ん坊だったマリィに魔障を与え、元の姿に戻してくれたから


魔王代理という枠組みを超えて動いてくれたから魔王国での俺達がある。


「仲間達から話は伺ってます。

 とても良くしてくださったと」


「礼は不要。

全て魔王様の指示あってのものだ」


対照的に短く、切り捨てる。


「我は役目を果たしたに過ぎん。

 飛行艇を撃墜したのもまた同じだ」


一拍。


「必要であったから、そうした」


「——だが」


空気が、変わる。


これは純粋なる殺意……。


空気が研ぎ澄まされ、全身の産毛が逆立つ


「貴殿は“例外”だ」


大太刀が、わずかに持ち上がった。


「故に——斬る」



「——待ってください!!」


反射的に声が出た。


構えた大太刀が、ぴたりと止まる。


「……何だ」


低い声。


だが、斬る意思は消えていない。


「さっき言ってましたよね」


一歩、踏み出す。


足が震えてるのが自分でも分かる。


「“判定”って」


ゲルヘナの目が、わずかに細まる。


「……ほう」


「なら、いきなり斬るのはおかしくないですか」


喉が乾く。


それでも、言葉を止めない。


「排除が目的なら“処刑”でいいはずだ。

 でもこれは違う。“判定”って言った」


間。


静寂。


巨大な鎧の奥から、視線だけがこちらを射抜く。


「……貴殿」


わずかに、興味が混じる。


「言葉を拾うな」


「拾いますよ。死ぬかもしれないんで」


苦笑が漏れる。


この状況、自分でもよくこんな事言えるなと思う。


「判定ってことは、合格か不合格があるって事ですよね」


一歩。


さらに距離を詰める。


「なら——」


拳を、軽く握る。


「俺がただ“斬られる側”って決まったわけじゃない」


沈黙。


数秒。


やがて——


「……良い」


ゲルヘナが、わずかに構えを変えた。


それだけで空気が変わる。


先ほどまでの“処刑”の構えじゃない。


「理解しているようだな」


大太刀が、ゆっくりと正面に下ろされる。


「その通り、これは尋問だ。

だが、言葉ではない」


一歩、踏み出す。


床が、軋む。


「刃で問う」


圧が、増す。


「危険か、否か」


呼吸が、重くなる。


「制御されているか、否か」


そして——


完全に間合いに入る。


「——生かす価値があるか、否か」


ゾクリ、と背筋が粟立つ。


「判定は、我が下す」


大太刀が、わずかに傾く。


それだけで、死が具体的な形を持ち始める


「「ゆえに我を」


一瞬の静止。


「殺しに来い」


次の瞬間。


「——さもなくば、測れぬ」


空気が裂けた。


視界から、鎧武者の姿が消える。


「——ッ!」


反射で前に出る。


背後ではない。


そう判断した瞬間——


「ぐぅッ!!」


視界の“前”に、いた。


振り下ろされる大太刀。


速いんじゃない。


最初からそこにいたみたいな斬撃。


咄嗟に身体を反らすと共に左足が悲鳴を上げる。


それでも——


刃は、紙一重で空を裂いた。


「……ほう」


低い声。


「避けたか」


軽く言っているが、圧は増している。


「機動、判断……下級冒険者としては上出来だ」


一歩、踏み込まれる。


「だが——」


刃先が、わずかに俺に向く。


「“それだけ”では足りん」


来る。


そう思った瞬間、俺は迷わず——


自分の影に手を突っ込んだ。


「——ッ」


齧る。


ぐに、と。


現実じゃない感触。


噛み千切った瞬間——


世界の“重さ”が消えた。


足が、床から浮く。


音が遠のく。


自分がどこに立っているのか、輪郭が曖昧になる。


「……それが件の」


ゲルヘナの声だけが、妙に鮮明に響く。


「影喰い、か」


大太刀が、静かに持ち上がる。


「面白い」


その一言。


——次は、本気で来る。


そう確信した瞬間、空気が、沈んだ。


「——来るぞ」


言葉にするより先に、身体を動かす


横へ。


跳ぶ。


同時に——


「遅い」


横から。


「——ッ!?」


衝撃。


腹に、重い一撃。


空気が強制的に吐き出される。


「が……っ!」


身体が浮いた。


いや、吹き飛ばされた。


床を転がる。


肺が、うまく動かない。


「ガッ…ぐる…し」


「影で軽くなったか」


淡々とした声。


「だが、軽いだけだな」


立て。


そう言われている気がした。


歯を食いしばって、立つ。


来る。


今度は——


真正面。


大太刀。


振り下ろし。


「——ッ!」


影に手を突っ込む。


引き抜く。


鉄。


未精製の、歪な刃の即席剣。




金属音と火花が散りすぐさま右手に伝わる衝撃。


腕が、痺れる。


「く……っ!」


受けた。


いや——


受けただけだ。


次の瞬間。


「防いだつもりか?」


腹に、二撃目。


蹴り。


「ぐぁっ!!」


後ろに吹き飛ぶ。


着地できない。


転がる。


立て直す前に——


影。


視界から消える。


「——ッ!」


反射で振り向く。


遅い。


拳。


頬に叩き込まれる。


「がっ……!」


視界が揺れ、地面が近づく。


「刃しか見ていない」


冷たい声。


「だから、それ以外に反応できぬ」


蹴り。


脇腹。


骨が軋む。


「ぐ……ぅ……!」


立て。


立て。


まだ——


「貴様の殺意は、その程度か」


息が詰まる。


「そのなまくらで、何が斬れる」


また来る。


大太刀。


振り上げ。


——間に合わない。


影に手を突っ込んで引き抜く。


今度は——


より“形”を意識する。


剣。


先ほどよりも強靭な刃。


直線。


防ぐための——


「——ッ!!」


ガキン!!


なんとか逸らす。


が——


「浅い」


踏み込み。


至近距離。


「——ッ!?」


肘。


顎。


視界が弾ける。


完全に、対応が遅れている。


「逃げるな」


低く。


近く。


「来い」


その一言。


——分かってる。


でも。


身体が踏み込めない。


「……こうなったら」


震える手。


影が、揺れる。


何かを、掴む。


今度は——


剣じゃない。


もっと単純で、分かりやすい“殺す道具”。


握る。


引き抜く。


金属音に冷たい感触。


回転式拳銃。


「……動かないで下さい」


静寂。


銃口を、向ける。


震えている。


分かっている。


これが——


自分の“殺意”。


「……それか」


ゲルヘナの声。


失望でも、嘲笑でもない。


ただ、事実を確認するように。


「それが、貴様の殺意の象徴か」


一歩。


近づく。


「なら——」


視界から、消えた。


「弱い」


「——ッ!?」


反応、できない。


気づいた時には——


目の前。


「遅い」


閃光一線。


何かが、宙を舞った。


「——え」


遅れて。


痛み。


理解。


「——ぁ」


右腕が。


ない。


切断面から、血とも違う黒い液体が噴き出す。


「があああああああああああああああああああ!!」


遅れて、絶叫が喉を裂いた。

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