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観測者専用ログ:舞台裏/閲覧制限

遡る事一週間前。

飛行艇墜落から、二日後。


廃棄区画第一層――墓標圧縮帝都、その中心地。


崩れ落ちた瓦礫と、圧縮された屍の気配が沈殿するその場所に、

一匹の黒猫が紛れ込んでいた。


足音を殺し、

気配を溶かし、

影から影へと滑るように進む。


ただの野良ではない。


何かを――確かめに来ている。


やがて辿り着く。


旧魔王城、地下神殿最深部。


かつて祈りが捧げられていたであろう場所は、

今や祈りとは程遠い“何か”に占有されていた。


その中心。


闇よりも濃い存在が、そこにいる。


「やっぱり……貴方が最初なのね」


声が、落ちる。


空気が震えたわけでもない。

だが確かに“届く”声。


黒猫は――止まる。


理解はしている。


言葉も、意味も。


だが。


その姿。

その圧。

その“在り方”を前にして。


ほんの一瞬だけ、言葉を失った。


「獣に堕ちて、言葉まで失ったのかしら」


くすり、と。


嘲りとも、興味ともつかない響きと見下ろすような気配。


けれど――


黒猫は、退かない。


一歩も。


むしろその瞳には、確信があった。


そして。


わずかに――哀れみ。


すべてを見てしまった者の、どうしようもない理解。


やがて、黒猫は口を開く。


落とすように、短く。


「……なるほど、そういうことか」


沈黙。


その一言で、何かを見抜かれたと理解したのか。

“ソレ”の気配が、僅かに揺らぐ。


黒猫は、続ける。


「……あの結末を、まだ受け入れていないんだな」


静かに。


だが、逃がさない声音で。


「だから——続きを用意した」


返答は、即ち肯定だった。


「終わりを、無かった事にする為に」


黒猫の瞳が、細くなる。


一拍。


ほんのわずかな間。


そして——


「……随分手の込んだお人形遊びだな」


落とされた言葉は、冷たかった。


感情ではない。

断じるでもない。


ただ事実として、切り分けるような響き。


空気が、止まる。


今度は明確な沈黙。


先程までの余裕が、ほんの僅かだけ削がれる。


「……随分と、辛辣じゃない。

付き従ってきた貴方がそれを言うのね」


“ソレ”は笑う。


だがその笑みには、わずかな歪みが混じっていた。


「けど、許しましょう。」


「実際私は認めていないのだから」


その声には、確かな意志があった。


歪であっても。

世界を捻じ曲げてでも。


貫くと決めた者の声。


黒猫は、それを否定しない。


ただ、見ている。


見届ける者の目で。


やがて。


黒猫は静かに頭を垂れた。


忠誠か。

あるいは確認の完了か。


どちらとも取れるその所作。


――筋書きは、変わらない。


そう理解しているからこそ。


――この先にある結末が、

どれほど歪で、

どれほど救いがないものであろうとも。


それでも。


黒猫は、進む。


それを選ぶ。


いや――


その上でなお、選び直すために。


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