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第3話 夢の果てに・4

 水面を見上げると、家々の屋根の上に、取り残された人が助けを求めて集まっているようだった。

 みなもは急ぎたいと思った。ここから純亡の家までは泳ぐと結構な距離がある。泳ぐスピードをあげなくちゃならない。

 そしてみなもは泳ぎながら、アクア・コンパクトとアクア・チャームを取り出した。チャームを掲げて叫ぶ。


「ドレスアップ!」


 コンパクトを開き、そこにチャームをセットした。コンパクトから青い光がほとばしり、みなもの身体に魔法少女サファイアマーメイドドレスのコスチュームが装着されていく。最後に、ポニーテールが解かれ、長く伸びた髪が青く染まる。そしてコンパクトがポシェットに収納された。

 みなもは尾びれで水をかいて、純亡の家へと急ぐ。


 見つけた。純亡の家の広い庭が見える。そしてそこに、深海獣の姿もあった。深海獣はなぜか、庭にある灰の山をかき集めている。

 深紅の色をした、ヒトデを無理やりに人型にしたような見た目の深海獣だった。


「ヒトデ深海獣だな!」


 イルが言う。


「純亡ちゃんは、どこに!」


 みなもは周囲を見回す。しかし人の気配はない。純亡の家の窓が開いていた。みなもはそこから家の中へと入る。

 階段の下に、気を失った女の人がぷかぷかと浮いていた。年齢からいって純亡のお母さんだろうか。しかし、純亡の姿は家のどこを探してもなかった。

 みなもはとりあえず純亡の母親をかつぐと、家の外に向かって尾びれをかいた。そしてまだ水没していない家の屋根の上へと、純亡のお母さんを引き上げる。

 だがそこで、ヒトデ深海獣が水面から飛び出してきた。


「えっ……」


 みなもは咄嗟にマイクセイバーを召喚し、セイバーモードでヒトデ深海獣の攻撃から身を守る。しかしヒトデ深海獣の攻撃により、みなもの身体は水中へと落下した。

 さらにヒトデ深海獣は、純亡の母親の身体を物のように投げて、みなもの身体にぶつけてくる。みなもは純亡の母親の身体を支えきれずに、ふたりして水底へと落下する。


「そんな……助けないといけないのに!」


 普通の人間がこんな長時間水中にいたら、命に関わる。だから純亡の母親はなんとしても水の上に引き上げないといけない。純亡ちゃんのためにも。

 ヒトデ深海獣が向かってきた。

 ものすごい突進力だった。みなもはマイクセイバーで防御するものの、守りきれずに後退する。今度は庭の木に背中が叩きつけられた。


「誰だか知らないけど……」


 とヒトデ深海獣は言葉を発した。女の人の声だった。


「その女を助ける必要はないわ! その女は、この水中で、自分がした行動を後悔して死んでいくべきなのよ!」

「何があったのかはわかんないけど……」


 とみなもはヒトデ深海獣を睨みつけた。


「死んでいい人間なんて、この世にひとりもいない!」

「あなたは幸せ者だからそんなことが言えるのよ! 不幸の味も知らないで……。生まれながらの幸せ者のくせに!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 みなもは尾びれをかいた。そしてヒトデ深海獣に向かってマイクセイバーをぶつける。ヒトデ深海獣はその突きの攻撃をくらって、水底を何度もはねた。

 みなもはふたたび純亡の母親の身体を捕まえると、水面に向かって泳いだ。

 そして今度こそ純亡の家の屋根に母親の身体を引き上げる。

 みなもは息を切らしながらも、水中に飛び込んだ。あとはあのヒトデ深海獣をどうにかするだけだ。純亡がどこにも見当たらないのが気になるけど、でも……。

 あっ、そうだ。もしかしたら純亡ちゃんは占いが得意だから、あらかじめ危険を予知して逃げたのかもしれない。きっとそうだ。そうなんだ。だから彼女の姿はどこにもなかったんだ。

 ヒトデ深海獣が立ち上がり、こっちに向かって泳いできた。みなもは深海獣の攻撃をかわすと、マイクセイバーを深海獣の身体に叩き込む。

 だがそこで、ヒトデ深海獣が両腕を使ってみなもの身体にパンチを打ってきた。

 みなもはそのまま水底へ落下する。

 さらにヒトデ深海獣はみなもの身体に馬乗りになる。


「魔法少女の話は聞いていたわ」


 ヒトデ深海獣は言った。


「でも大したことないみたいねぇ。私の復讐を、この世界への復讐を邪魔するのなら、この場で死んでもらうわ!」


 ヒトデ深海獣が拳をみなもにぶつけてきた。みなもはマイクセイバーでその攻撃を防御する。


「復讐復讐って……何をそんなに復讐したいのかわからないけど……でも、幸せになれる方法なら他にもいっぱいあるはずだよ! だから……目を覚まして!」


 みなもはヒトデ深海獣に呼びかけた。相手の心の壁を崩さない限り、歌の力は通用しない。そして相手は誰だかわからないけど人間だ。人間を殺すわけにはいかない。


「呪いよ!」


 ヒトデ深海獣は何度も拳をみなもに叩きつけてくる。


「私が受けたのは、呪いなのよ! 逃げることもできない……呪いなの!」

「そうやって決めつけて……」


 とみなもは歯を食いしばる。


「自分の未来を閉ざしてきたのは自分自身じゃないのかーっ!」


 みなもはマイクセイバーを振り払った。ヒトデ深海獣の肩口が大きく斬り裂かれた。水中に、赤黒い血が広がる。

 しまった……やりすぎた! 相手に怪我をおわせてしまうなんて!


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ヒトデ深海獣は肩口を抑えながら後退した。

 そして、周囲の水が消えていく。アクア・ドームが消滅する。

 みなもはポシェットからコンパクトを取り出すと、二回押して、アクアドレスへとドレスチェンジをした。

 みなもは待った。ヒトデ深海獣の正体があばかれるのを。

 やがてヒトデ深海獣は肩口を抑えたまま、人間の姿へと戻った。その姿に、みなもは息を飲んだ。

 肩の傷口を抑えて立っていたのは、純亡だった。


「純亡……ちゃん?」


 みなもは思わずそう呟く。


「何……? あなた、私の知り合い?」

「あっ、えっと……」


 みなもはコンパクトを開いて、チャームを引き抜き、変身を解除する。

 魔法少女サファイアから星乃みなもの姿へと戻る。


「そう……」


 純亡は笑みを浮かべた。


「なんだ……そういうことだったのね……」

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