表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽間世界  作者:
8/83

ここじゃない


夜に部屋の灯りを落としてから、紗夜は布団に入ったまま目を閉じていた。


眠れないわけじゃない。ただ意識が浅い。


紗夜「……」


そわそわ…ふよふよ…もぞもぞ


暇なのか、隣で添霧が動く気配がする。いつもより落ち着きがない。


紗夜「添霧」


添霧「ん?」


紗夜「…うるさい」


添霧「あ、ごめ……」


一瞬静かになる


添霧「ねえ、さな」


紗夜「…紗夜」


添霧「今日さ」


声が少し落ち着いている気がする。


添霧「この宿の人たち優しかったね」


紗夜「…うん」


添霧「でもさ」


少し間のあと


添霧「優しすぎる気がする」


紗夜は目を開けて


紗夜「…なにが」


添霧「んー」


添霧は言葉を探すみたいに天井を見る。


添霧「泊まっていいじゃなくて、いてほしいって感じ?」


紗夜「……」


添霧「悪い意味じゃないよ!ただ…さなが人間だからって理由がちょっと大きすぎるきがする!」


紗夜は布団の中で手を動かす。


紗夜「…珍しい、希少って言ってた」


添霧「うん」


紗夜「…それだけ」


添霧「だったらいいなぁ」


添霧はそれ以上言わなかった。


深夜、紗夜はふと目を覚ます。


紗夜「……」


部屋は暗く、時計の秒針だけが微かに音を立てている。


紗夜「……添霧」


返事はない。


「……」


上体を少し起こして見渡すと、添霧は窓際に浮いて外を見ていた


紗夜「…何」


添霧「ねえ、さな」


振り向かないまま言う


添霧「この街さ……」


紗夜「……」


添霧「夜になると、気配が増える」


紗夜「…?」


添霧「人じゃない何か、というか…人外が起きてくる感じする」


紗夜「当たり前」


添霧「そお?」


紗夜「ほぼ人外しかいないし」


紗夜は窓の外を見る。見た感じの街は普通で、街灯も建物も変わらない。


紗夜「…見た感じは分からない」


添霧「だよね」


添霧は少しだけ笑って


添霧「だから言わなかった!」


紗夜「……」


添霧「さな怖くなっちゃうから」


その言葉に紗夜は少しだけ胸が詰まる。


紗夜「…私は」


添霧「?」


紗夜「もう少しここにいてもいいと思ってた」


添霧「…」


紗夜「……でも、大切にされる理由が分からない場所は」


添霧は頷きながら聞く


紗夜「少し、嫌」


添霧はゆっくり振り返って


添霧「そっか!」


紗夜「…うん」


添霧「じゃあ」


添霧はいつもの明るさを取り戻して


添霧「朝になったら出よっか!」


紗夜「…急だね」


添霧「こういうのはさ!」


紗夜「……?」


添霧「嫌かもって思った時点でもう合わなくなり始めてる!」


紗夜は少し考えてから


紗夜「……同意」




朝になると、カーテンの向こうが明るかった


紗夜はあれからちゃんと、昨日よりも深く眠れた気がした

起き上がって支度をする。


紗夜「…本当に、出る?」


添霧「うん!」


紗夜「…別に追い出されてないけど」


添霧「だからだよ!」


紗夜「?」


添霧「追い出される前に出るのが逃げ方として正しい!」


紗夜「…よく分からない理屈」


添霧「でしょ!」


荷物は少ないというか、ほとんど何もない。

フロントに行くと昨日のスタッフがいた。


「あ……」


一瞬名残惜しそうな顔。


「もう、出られるんですか?」


紗夜「…(こくり)」


「よろしければ、もう少し……」


紗夜は少しだけ首を振って


紗夜「…ここは、悪くない」


「……」


紗夜「でも、今の場所じゃないきがした」


スタッフは少し困ったように笑って、それから深く頭を下げた。


「お気をつけて」


紗夜「…ありがと」


外に出ると朝の空気は澄んでいた


紗夜「……ねえ」


添霧「なに?」


紗夜「ここ、いい宿だった」


添霧「うん!」


紗夜「…また、来ることあるかな」


添霧「分かんないね!」


紗夜「…そう」


2人は歩き出す。平和は確かにあった。

████はまだ続いている。


紗夜と添霧は、ここじゃない場所へ静かに進んでいくことを選んだ。


そして、宿の前を離れて少し歩いたところ


「待ってください!」


後ろから足音がして紗夜が振り返ると、宿のスタッフが小走りで来ていた。手には小さな紙袋。


紗夜「…?」


「これ……!」


息を整えながら差し出される。


「お菓子と飲み物です!道中何かあったら……」


袋の中からは甘い匂いがした。


紗夜「……いいの」


「はい」


声は柔らかい。


「この街迷いやすいですから…無理しないでくださいね」


紗夜は少しだけ迷ってから受け取る。


紗夜「…ありがと」


スタッフはほっとしたように笑って


「気をつけてね」


追いかけては来ないし、引き止めもしない。

ただ、優しい。


紗夜が歩き出すのをその場で見送ってくれた。


紗夜「…いい人だった」


添霧「うん!」


紗夜「……ちょっと、惜しい」


添霧「だね!」


でも後悔はなかった。


知らない街をまた歩く。


朝から昼

昼から夕方


道は入り組んでいて、古い建物と新しい建物が混ざっている。


紗夜「…この店、何」


添霧「分かんない!」


紗夜「全部、分からない」


添霧「それが楽しいんだよ!」


商店街を抜けて、川沿いを歩いて、橋を渡る。


途中でベンチに座ってお菓子を食べる。


紗夜「…甘い」


添霧「いいでしょ!」


紗夜「…量、多い」


添霧「心配してくれたんだね!」


紗夜は少しだけ口元を緩めて


紗夜「…添霧」


添霧「なに?」


紗夜「…昨日より、疲れない」


添霧「歩いてるのに?」


紗夜「うん」


添霧「それはね!」


得意げに


添霧「心がちょっと休んでるから!」


紗夜「根拠、薄い」


添霧「でも当たってるでしょ!」


紗夜は否定しなかった。


少しして、人の少ない通りで紗夜はふと足を止める。


紗夜「……」


添霧「どうしたの?」


紗夜「変?」


添霧「え、また世界歪んだ!?」


紗夜「…違う」


紗夜は辺りを見回す。


紗夜「誰も見てない」


添霧「……?」


紗夜「…私を」


人が通り過ぎていくが視線が引っかからない。添霧は少し考えてから言う。


添霧「…この街、人間が少ないから?」


紗夜「わかんない」


添霧「珍しすぎて、逆に目に入らないとか!」


紗夜「…矛盾してる」


添霧「この世界、だいたいそう!」


そのままふたりは歩き出す


夕方からも時間が経ち、空がゆっくり色を変える。


紗夜「もう夜か、」


添霧「早いね!」


紗夜「…今日、何したか分からない」


添霧「いっぱい歩いた!」


紗夜「それだけ」


添霧「十分だよ!」


橋の上で立ち止まり見下ろすと、川に星が映る。


紗夜「…ねえ」


添霧「なに?」


紗夜「この街、悪くないと思った」


添霧「うん!」


紗夜「…でも、住む感じじゃない」


添霧「さな厳しい!」


紗夜「…正直」


添霧「でもそれすごく大事だよ!」


添霧は楽しそうだった。


紗夜「ここじゃないって分かるの!」


紗夜は少しだけ考えて


紗夜「…どこかは、まだ分からないけど」


添霧「それでいい!」


紗夜「……そう」


もうすっかり夜。街灯が点き、人の気配が減る。


昼に歩いた道が少し違って見える。


紗夜「…今日どこで寝よ」


添霧「えーっと!」


添霧は空を見上げる。


添霧「まだ決めてない!」


紗夜「…予想通り」


添霧「えへへー!」


紗夜「……まあ」


添霧「お?」


紗夜「…また、考えればいい」


添霧はぱっと笑って


「うん!!」


知らない街の知らない夜でも、拒まれない一日を過ごした後の夜は、少しだけ怖くなかった。


紗夜と添霧は並んで歩く。今日もどこにも属さない。

でもちゃんと前に進んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ