押される背中
その空間の亀裂を見つめていた一行だったが不意に添霧が何かに気付き振り返った瞬間、思わず息を呑む
添霧「……やばい」
全員が後ろを向いたとこにあったのは崩壊だった。
遠くの景色が消えて大地が崩れ、それも前方で起きている崩壊よりも遥かに速い速度でこちらへ押し寄せていた
昴琉「まずいですね……」
紫暖「予想以上に早いわ」
紗夜は何も言わずただ前方の亀裂と背後から迫る崩壊との距離を見比べていた。残された時間はあまりにも少ない
紳漓は大剣を肩へ担ぐと
紳漓「走るで」
誰も異論を挟まなかった次、一行は一斉に崩れる大地を蹴り消えゆく空間を駆け抜け、砕ける瓦礫を飛び越えながら前へ進む
背後から迫る崩壊は容赦なく距離を詰めていた。少しでも足を止めれば呑み込まれる危機的状況
添霧「急げ急げ急げー!!」
朧偈「忍者走りー!!!」
やがて一行は亀裂の目前へ辿り着いたが、その場にいた誰もが思わず足を止める
添霧「……え」
そこにあった光はあまりにも小さかった。確かに出口らしき穴は存在しているが人一人通れるかどうかというほど狭く、しかも今なおゆっくりと縮み続けていた
昴琉が歯を食いしばり朧偈もおどおどするそんな中、紳漓と紫暖が前へ進み出た
紗夜の胸の奥には嫌な予感
紳漓「ほな広げるか」
添霧「え?」
紫暖「時間が無いもの」
二人は同時に亀裂へ手を伸ばして無理やり引き裂こうとするかのように裂け目を掴むと、亀裂が軋み光が激しく揺れる
紳漓の腕には血管が浮かび上がり紫暖も苦しげに眉を寄せる。それでも二人は力を緩めない
花の悲鳴に似た不快な音を響かせながらも出口は少しずつ広がっていった
しかし広がったとしても全員が通れる大きさにはならないということに添霧は気付いてしまう
添霧「待ってよ」
紗夜「何してるの」
紫暖「……二人とも、行きなさい」
添霧「えっ…嫌だ、!」
紗夜「行かない」
紳漓「ほんま似た者同士やな」
添霧「当たり前でしょ!?」
紗夜「全員で帰る」
地面が消えて空が砕け、残された時間はもうほとんど無い。崩壊は刻一刻と迫っていた
それでも添霧と紗夜は動かなかった。添霧は出口の前へ立ち塞がり紗夜もまた決して離れようとしない
だが崩壊がすぐ背後まで迫ったその時
紳漓「さっさと行け!!!」
聞いたこともない怒鳴り声が空間を震わせ、それに重なるように紫暖も叫んだ
紫暖「いきなさい!!!」
その声が響いた瞬間
添霧「えっ__」
紗夜の瞳が大きく見開かれた瞬間、昴琉と朧偈が背中を押し、2人に衝撃が走った
昴琉「いってください!」
朧偈「行くでござる!」
添霧「待っ__!!」
紗夜「やめ_」
叫びは最後まで届かない。身体は前方へ投げ出され、急速に光へ近付いていく。必死に伸ばした手は空を掴むだけだった
最後に見えたのはいつもと変わらぬ笑みを浮かべる紳漓、静かに微笑む紫暖の姿、そして自分達を送り出した昴琉と朧偈の姿だった
そして、添霧と紗夜の身体は眩い光の中へと呑み込まれていった




