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幽間世界  作者:
75/83

残された静寂

耳鳴りだけが残っている

先程まで世界を揺らしていた轟音も花の鼓動も、根の軋む音も消え去った代わりに白い煙だけがゆっくりと流れている


崩壊した戦場の上を全てが終わった場所の上を漂うように流れ続ける煙の向こうで瓦礫が崩れる小さな音だけが響いている


紗夜がゆっくりと瞼を開くと視界は霞み、頭は重く、全身には鈍い痛みが残っていたが意識だけは不思議なほど鮮明だった


最初に見えたのはどこまでも広がる空

あの巨大な花に覆われていた世界では決して見ることのできなかった綺麗な景色だった


そして次に紗夜はゆっくりと身体を起こしたとこでようやく自分の周囲に人影があるという状況を理解する


六人全員が誰一人欠けることなく、しかも偶然ではない形で紗夜を中心に爆発から庇うように、人間である彼女を守る壁となるように倒れている


紗夜は何も言わずただ静かにその光景を見つめる。やがて最初に動いたのは添霧だった。苦しそうに顔をしかめながら身体を起こし


添霧「いゃう……」


その声に続くように昴琉もゆっくりと目を開き、周囲を確認すると紗夜へ視線を向けた


昴琉「無事ですか……」


掠れた声で問いけると静かに頷く

さらに朧偈も頭を押さえながら


朧偈「拙者、分身の術で助太刀にんにんなのでござる……」


意味の分からないことを口にしたその瞬間、紳漓が無言で朧偈の頭を軽く叩いて


紳漓「お前ははよ起きぃ」


(ぺしっ)


朧偈「にんっ」


紫暖も静かに身体を起こし、周囲の様子を確かめるように視線を巡らせて真っ先に紗夜へ目を向ける


紫暖「……紗夜ちゃん?」


優しく呼び掛けるが紗夜は返事をしなかった


ただじっと前を見つめているその様子に全員の視線が自然と同じ方向へ向けられたのだが、そこには何も無かった


巨大な花も無数の根も世界を埋め尽くしていた花弁もない


あれほど異形に満ちていた景色は跡形もなく消え去り、残されているのは砕けた大地だけだった


更地となった戦場の上を風が吹き抜け、白い煙が静かに流れていく

その景色を見つめながら添霧がぽつりと呟く


添霧「……終わったのかな?」


昴琉「えぇ。終わったのでしょう、」


その言葉を否定する者はいなかった。花は消え、世界は崩壊した


あの不気味な鼓動も全てを縛り続けていた力も、もうどこにも残っていない。戦いは確かに終わったのだ


それなのに紗夜だけは動かず視線を逸らさない。何も無い場所を見つめ続け、刀を握る手からは力が抜けて肩は震えていた


誰一人として声を掛けなかった中で紗夜はゆっくりと唇を開く


紗夜「…恋冬……」


その名前は風に溶けるように消えていく

呼び掛けても待ち続けても返事はもう返ってこない


それでも紗夜は何も無いその場所を、最後に恋冬と虚が立っていた場所をただ静かに目を逸らさず見つめ続けていた


そこに残された何かを探すように、二人の存在を忘れまいとするように


重たい沈黙がある中誰も動かない。誰も次の言葉を見つけられないまま更地となった大地を吹き抜ける風の音だけが静かに響いている


そんな中不意に添霧が


添霧「……待って」


昴琉「どうしました?」


添霧が答える代わりに前方を指差した仕草につられるように全員の視線が向かう


そこは先程まで巨大な花が存在していた場所だった、何もかも消え去り更地となったはずの空間


しかしその中心には空間そのものが割れたような、不自然な裂け目が世界へ深々と傷が刻まれたような異質な亀裂だった


それを見た紳漓は目を丸くしたかと思うと次の瞬間には少し明るい声を上げる


紳漓「お!まさか帰れるんとちゃう!?」


紫暖「はしゃぎすぎないの」


紳漓「いやでもやな!」


紫暖「戦闘後よ」


紳漓は肩を竦めるが、確かにその場の空気は終わったと思われた場所に新たな変化が現れたのだから変化した


だがその中で紗夜だけは違うものを見ていた


紗夜「違う」


静かな一言に全員が振り返り朧偈は不思議そうに首を傾げた


朧偈「にん?」


紗夜「その奥……」


一同は改めて亀裂の向こうへ視線を向ける。最初は何も分からなかったが、注意深く見つめるうちに誰もが異変へ気付く


裂け目の向こう側で景色が歪んでいた。空間が揺れているようにも見えたが

それは違う…消えていた


昴琉「……あれは」


空の一部が崩れ落ち遠くの地面が粒子となってほどけていく

瓦礫も大地も空気さえも、少しずつ存在そのものを失っていた


紫暖「そうよね、」


それは当然だった。この世界は元々存在していた世界ではなく誰かが生み出した世界

そしてその中心であり、この世界の全てを支えていた核は既に消滅した


ならば導き出される結論は一つしかない。

紗夜は崩れゆく景色を静かに見つめながら呟いた


紗夜「終わる」


中枢を失った世界はその役目を終えたのだ

維持する理由もなければ維持する力も残されていない為終焉へ向かって崩れていく。


空間の亀裂はゆっくりと広がり続ける。その向こうには見覚えのない光が揺らめいていた


出口なのかそれとも別の場所へ繋がっているのかは誰にも分からないが、この世界に残された時間はもう長くないという確かなことがあった


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