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幽間世界  作者:
73/83

全員集結

紗夜の刃によって刻まれた傷は確実に花そのものを蝕み始めていた


外側からの破壊と内部からの崩壊両方を同時に受けた巨大な花は、もはや最初の姿を維持できなくなっている


白い根も黒い根も脈動を弱め、拘束していた力が少しずつ失われ始めていたのを恋冬と虚はそれを確かに感じ取っていた


終わりが確実にあと少しのところまで来ている

だがその時


鼓動なのだが、その音はどこか異質だった


弱っているはずなのに、消えかけているはずなのに、まるで最後の力を振り絞るような死に際の叫びのような鼓動だった


虚「まずい」


虚の表情が僅かに険しくなると同時に恋冬も異変へ気付いていた。花が残された力を最後の一撃のために収束させている


突然


"ドォォォォォォンッ!!!!"


中心部から凄まじい衝撃波が全方向へ放たれた。花弁が吹き飛び根が裂けて世界が揺らぐ


あまりにも強烈な爆発に、あと一歩のところまで迫っていた紗夜達の身体が一斉に弾き飛ばされた


添霧「うわぁぁぁ!?」


昴琉「っ!」


足場や支えていた根も千切れ、身体が宙へ投げ出される。あと少し、本当にあと少しのとこに目の前には恋冬達の姿がある

…それなのに届かない


添霧の顔から血の気が引く


この高さ、この距離。このまま落ちれば、ここまで積み上げてきた全てが無駄になるかもしれない。また最初からになるかもしれない。そんな絶望が脳裏を過る


添霧「くそっ……!」


必死に身体を捻り紗夜を受け取めようとする。昴琉も咄嗟に魔術を展開しようとするが先程までの激戦による消耗が大きすぎた。


紗夜も空中で姿勢を整えるが足場は無く届かないと察した



……その時、崩壊した花の内部から三つの影が飛び出した



紳漓「何落ちとんねん!!」



轟音と共に現れた紳漓が空中で添霧の襟首を掴みそのまま引き寄せる


添霧「うわっ!?」


紳漓「アホ面しとる場合か!」


添霧「僕どんな顔してるの!?」


怒鳴りながらもその腕はしっかりと添霧を支えている


その直後、別の影が昴琉の身体を抱き止める


紫暖「おっと、大丈夫?」


昴琉「母さん!?」


紫暖「そうよ」


言葉を聞いた瞬間、昴琉は思わず息を呑んだ。確かに無事でちゃんと生きていた

そして最後の一人、紗夜へ向かって伸びた手があった


朧偈「捕まえたでござる!」


紗夜の腕を掴んだのは朧偈だった…が勢いが強すぎて二人の身体はそのまま空中で激しく回転を始めた


朧偈「にんにnぁああああああ!?」


紗夜「……」


朧偈「回るでござるー!!助けるつもりが回るでござるー!!」


紗夜は何も言わないで冷静に近くの根へ刀を突き刺したことで二人の身体が強引に停止する


朧偈はしばらく宙吊り状態のまま固まっていたがやがて大きく息を吐いた


朧偈「助かったでござる…本当に危なかったでござる……」


紗夜「そう」


短い返事だったが手は離さない

添霧は目を見開き、昴琉も呆然としていた。

…本当に追い付いてきた



あの花の内部へ取り込まれた三人がまたこうして再び目の前へ現れたのだ


紳漓は近くの根へ着地すると大剣を肩へ担ぎながら周囲を見渡した。紫暖も静かにその隣へ降り立つ。(一方朧偈はまだ紗夜にぶら下がったままだった)


紳漓「何しとんねんお前」


朧偈「捕まっているでござる」


紫暖「見れば分かるわ」


紳漓「助けるとこやろ」


朧偈「安全確認中でござる」


紗夜「……」


紫暖は思わず小さく笑い添霧は呆れたように肩を落とした


花は崩壊して世界は揺れている。それでも今この場所には全員が誰一人欠けることなく揃っていた


その先には未だ白と黒の根に拘束された恋冬と碧春の姿がある


紳漓「待たせたな」


その言葉に恋冬は小さく笑い、碧春も静かに息を吐いた

もう誰も欠けていない。仲間達は全員ここにいる


それは花にとって最悪の状況だった

そして同時に、彼らにとっては勝利へ辿り着くための最後の条件が揃った瞬間でもあった


本当の意味で最後の局面が始まろうとしている


そして、崩壊はもはや誰にも止められなかった。花の内部は次々と砕け、巨大な外殻は裂け悲鳴のような軋みを響かせ続けている。


それでもなお巨大な花は生きていた。恋冬と虚を縛る白と黒の根もまた執念深く二人を離そうとしない。しかしその場にいる全員が終わりは近くあと一歩だと理解していた


紳漓は肩に担いでいた大剣をゆっくりと下ろし紫暖も静かに呼吸を整える


昴琉は完成した魔法陣を再展開し添霧は言霊を紡ぎ始めた


朧偈もまた忍刀を構えいつでも飛び出せるよう身を低くする


そして紗夜だけは何も言わず、ただ恋冬と虚を見上げていた。


恋冬と虚はここまで来た理由であり助けると決めた相手、二人はまだ拘束されているからここで終わるわけにはいかなかった


花の鼓動は焦りと恐怖だけで無理やり身体を動かしているかのように既に弱々しい


『返さない』


それが恋冬へ向けられたものなのか虚へ向けられたものなのか、それともこの場の全員へ向けられたものなのかは分からない。


その言葉へ返事をする者はいない代わりに紳漓が一歩前へ出た


紳漓「ほな、終いや」


低く告げると同時に大剣が持ち上がる。そして次の瞬間、轟音と共に振り抜かれた一撃が花弁と根をまとめて斬り裂いた


紫暖「私もね」


その衝撃に続くように紫暖も能力を解放する。見えない力が空間を歪ませて拘束を維持していた根の流れを乱していく


添霧「吹っ飛べぇぇぇ!!」


添霧の叫びと共に放たれた言霊が炸裂し白い根の一部を吹き飛ばした。


昴琉「俺も、!」


さらに昴琉の魔法陣が重なり、幾重にも展開された光輪が一点へ収束して拘束の中心へ向かって撃ち込まれる


朧偈「助太刀でござる!」


朧偈も迷わず飛び出した。忍刀が鋭く閃き裂け目の入った周りの根をさらに切り裂く


無数の攻撃が一つの場所へ叩き込まれていくことに花が悲鳴を上げ、空間が激しく揺れる


そして…ついに白い根が砕け、続いて黒い根も軋みを上げる


今までどれほど傷付けても即座に再生していた拘束が初めて再生へ追いつけなくなったのだ


恋冬の腕を縛りつけていた根が音を立てて千切れ、虚の肩へ深く食い込んでいた拘束もまた崩れ落ちていく。


それを見た花は絶叫した。その叫びは怒りであり恐怖であり、そして失うことへの激しい拒絶だった。


残された全ての力を拘束へと注ぎ込み再生させ繋ぎ止めようとする。決して離すまいと必死にもがく……が、その瞬間だった


紗夜が静かに一歩前へ出ると自然と道が開かれていく。その場にいた誰もが紗夜の背中を見つめていた。


全てを託すように、そして必ず成し遂げると信じているかのようだった


紗夜は静かに刀を握り直す。その視線の先にあるのは恋冬と虚、そして二人を繋ぎ止める最後の拘束だけだ


ゆっくりと息を吐き迷いなく踏み込んだ瞬間…世界が揺れた。紗夜の動きは一切止まらない事へ花が悲鳴のような声を上げた


振り抜かれた刀は一筋の軌跡を描いた。それはこれまで放たれたどの斬撃よりも静かでありながら確実な一閃


白と黒の根が交差する中心、恋冬と虚を縛り続けていた根幹へ向けて刃は真っ直ぐに届く


そして…激しい破砕音が響き渡った。巨大な亀裂が走り花全体が激しく震える。


白い根は崩れ落ち、黒い根は裂け散り、そして恋冬と虚を拘束していた全ての根が一斉に力を失った


止められていた腕が、指が、身体が動く。まだ完全ではないけど、もう以前とは違っていた。2人はもう人形でも花に操られるだけの存在でもない


恋冬はゆっくりと目を開き、虚もまた静かに顔を上げる。二人は初めて自らの意思で自由に身体を動かした。


長く続いた束縛は終わりを告げ、本当の意味での解放が訪れた


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