同じ1つの終着点へ
巨大な花の脈は明らかに不安定になりつつある
世界そのものが崩れかけているかのような歪みが広がっていたが花は止まらない。中心に囚われた恋冬と虚を離すまいとただひたすらに脈打ち続けている
その時
「__二人共!」
恋冬と虚は同時に顔を上げた。その声は聞き慣れたもの。根と花弁を足場にしながら駆け上がってくる三つの影
いずれも満身創痍で衣服は破れて呼吸も荒いが倒れてはいなかった。ここへ来るまでに何度も限界を超えたはずなのにそれでもなお前へ進み続けている
添霧「やっと見えた!」
昴琉「もう少しです!」
恋冬は思わず目を見開く
本当に、本当にここまで辿り着いた。何度でも引き返せたはずの道を誰一人として選ばなかった
その事実が胸の奥をじんわりと熱くする
だが花がまた激しく脈打ち、同時に二人を拘束していた白と黒の根が一斉に蠢いた
恋冬「いっ、」
虚「またかよ、!」
根が締まり全身に食い込むような痛みが走る
あと少しで届き、奪われると花は理解していた。だからこそ最後の抵抗を選ぶ
無数の根が周囲から引き裂くように、押し潰すように、すべてを拒絶するように現れ紗夜達の進路を塞ぐ
添霧「まだ来るの!?」
言霊が炸裂し迫る根を吹き飛ばすが別の根が補うように伸びてくる。昴琉の魔法陣が展開されるが花もまた全力で押し返してくる。
追い詰められた獣のように世界を使って抵抗していた。だが紗夜は止まらず真っ直ぐに恋冬を見ている。
本当にあと少しなのだが、その少しが途方もなく遠い
離さない
返さない
終わらせない
その執念だけで動いているかのようだった。
恋冬は苦しげに息を吐くが視線は逸らさない
そして虚もまた静かに下を見つめるとそこには必死に手を伸ばし続ける仲間達がいた
ここまで来てくれたならば、今度は自分達が応える番だ
花の鼓動はもはやただの悪あがき。
そしてその鼓動の中で恋冬と虚は静かに互いの存在を感じながらゆっくりと目を閉じた
そして花の内部は先程までの圧倒的な拘束力は確実に弱まっている。その変化を紳漓も紫暖もはっきりと感じ取っていた。(そして何より朧偈が元気だった)
朧偈「父上!届いたでござる!」
紳漓が視線を向けると、タワーをよじ登りいつの間にか自分達の近くまで辿り着いている息子の姿があった
紳漓「ほんまに来とる……」
紫暖「来たわね……」
しかもよく見なくても朧偈は分身を使い、それを崩れないように下で支え合わせながら登ってきている。
紳漓「見んとこ、考えたら負けや」
朧偈はそんな父の心境など気にせずめちゃくちゃ真面目な顔で二人の周囲を助けるために何が必要かを探る目で見回していた
朧偈「父上」
紳漓「なんや」
朧偈「これ全部繋がってるでござる」
朧偈が指差した先には二人を拘束する根とは別に存在する異様に太い根の束があった。
それは一本ではなく何本もの根が集まりまるで巨大な樹木の幹のように束ねられている。そしてそれは二人を縛るだけでなくこの空間全体へと伸びていた。
朧偈「ここだけ脈打ち方が違うでござる」
確かに違う。周囲の根とは明らかに性質が異なり、中心から全体へ命令を送る神経のように脈動している
紳漓「…なるほどな」
紫暖「気付いたの?」
紳漓「あぁ」
紳漓は血の滲む腕を動かしながらその太い根を見上げる
紳漓「これ拘束そのものやない」
朧偈「にん?」
紳漓「支えや」
朧偈が首を傾げる中紳漓は顎でその束を示した
紳漓「俺らを縛っとる根は別や。せやけどこいつは全部まとめとる」
一本を切っても意味はないが中心を壊せば全体が崩れる構造はまるで蜘蛛の巣の中心
紫暖「全体が崩れるのね」
紳漓「せや」
朧偈「斬ればいいのでござるな!」
紳漓「単純で助かるわ」(ほんとそう)
だがその時紫暖の表情がわずかに変わる。彼女は周囲の根をじっと観察する。脈動や流れ、振動のすべてを静かに読み取っていた
紫暖は花の奥の見えないはずの先を見据えるように視線を上げる
紫暖「繋がってるわ」
紳漓「何がや」
紫暖「外と中よ」
朧偈「にん?」
紫暖「さっきから振動の流れが一致してるの。外で何かが起きるたびにここも揺れる」
確かにそうだった。恋冬達がいる中心部の動きとこの内部の揺れは明らかに連動している
紫暖「つまり、外で戦っているあの子達と私達は同じ花の中にいる」
紳漓「ほう」
紫暖「ここを壊せば外も揺れる。向こうが動けばこっちも揺れる」
朧偈「おお」
紫暖「全部繋がってるのよ、一つの巨大な花の中で」
紳漓「ほんなら話は早いわ」
血の滲む腕にさらに力を込めて
紳漓「向こうも頑張っとる」
紫暖「えぇ」
朧偈「では拙者達も行くでござるな!」
紳漓「せやな」
花の中心では恋冬達が戦い続け、外では紗夜達が道を切り開き、そしてこの場所では夜刀神家が立ち上がる
それぞれは離れているようで、確かに同じ一つの終着点へと繋がっていた




