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幽間世界  作者:
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届けなければならない声

世界そのものを揺らす鼓動が空間を震わせる度、恋冬と虚の身体へ絡み付いた白い根と黒い根が深く食い込みその奥にある記憶や感情を貪るように吸い上げていく。


虚は苦しげに息を吐きながらも下を見た。遥か下では紗夜達がなおも戦っている。伸び続ける根を斬り払い、人外を押し返し、それでも諦めずこちらへ辿り着こうとしている


核は花ではなく自分達なのだと気づき、忘れる前に今すぐ伝えなければならない

虚の叫びが空間へ響き渡る


虚「おい!!聞け!!」


その声に最初に顔を上げたのは添霧だった。続いて昴琉が反応し、朧偈も視線を向ける。紗夜もまた刀を握ったまま静かに顔を上げて花の中心に囚われた虚を見据えていた。


虚は全身を黒い根に締め上げられながらも必死に声を張り上げる。


虚「核は、!」


だがその瞬間巨大な花が拒絶するように脈打つ。同時に虚へ絡み付いていた黒い根が一斉に締まり、全身の骨が軋む音が響いた。


虚「がっ……!?」


肺から空気が強引に押し出され言葉が途切れる


添霧「虚くん!?」


昴琉「何か言おうとしていました!」


紗夜は何も言わずただ黙ったまま花を睨み続ける。その様子はまるで花自身が虚へ語らせまいとしているようだった。


いや、実際にそうなのだろう。真実を知られれば終わることを花は知っているからこそ必死に隠している。


虚は苦しそうに息を吐きながらも再び顔を上げた。


虚「っ……聞け……!」


再び叫ぼうとするが今度は黒い根だけではなかった。巨大な花弁が震えては壁を覆う根が蠢き、空間全体が不気味に脈動し始める。


そして世界そのものが声を発した


『返さない』


紳漓「ほんま鬱陶しい花やな……!」


『返さない返さない返さない』


それは怒り、恐怖、執着であり、重なり続ける声は次第に狂気へ変わっていく。


今まで感情を持たない存在のように見えていた花が初めて剥き出しの意思を晒している


紫暖「隠しているのね、知られたくない何かを」


その時虚の隣から微かな声が聞こえる


恋冬「……伝えなきゃ」


虚が顔を向けると恋冬の瞳は既に酷く霞んでいた。何かを思い出そうと、何かを忘れまいとしているのに確実に失われ続けている。


恋冬「忘れちゃう…みんなを……」


虚「恋冬」


ゆっくりと視線を下へ向けたそこには大切な仲間達が確かにそこにいる。

しかしその輪郭は曖昧になり始めていた。名前が消えかけ、思い出も薄れている。


それでも助けたいという想いだけは消えていない


恋冬「……あ」


ふと恋冬は気付く。自分の身体から伸びる白いその根は花へと繋がり、さらに無数の繊維となって世界中へ広がっていた。


恋冬「これ……」


虚も同じものを見ていた


恋冬「繋がってる……」


花は世界を覆っているならば、その中心にいる自分達もまた世界と繋がっているということになる。恋冬はゆっくりと目を閉じた。


白い根が脈打つ次の瞬間、紗夜達は異変を感じる。

頭や心の奥に誰かの声が直接響いてくる


添霧「っ……!?」


昴琉「これは……!」


恋冬の声が聞こえることに紗夜も僅かに目を見開いた

だが巨大な花が激しく震える


恋冬『聞いて』


『やめろ』


恋冬『お願い』


『黙れ』


恋冬『聞いて』


今にも消えてしまいそうなほど掠れた弱々しい声だったが確かに届く


恋冬『花じゃない』


添霧「え……?」


昴琉「花じゃない……?」


花が絶叫した


『黙れ!!』


無数の根が恋冬へ食い込みその身体を大きく震わせるが、恋冬は止まらない


恋冬『核はっ、』


だがその言葉は途中で途切れた。白い根がさらに強く締め上げ、恋冬の口から苦しげな息が漏れる


恋冬「っ……!」


紗夜の瞳が僅かに揺れたその時、今度は低く苦しげでも確かな意志を宿した別の声が響く


虚『俺達だ』


世界が静止したかのような沈黙が訪れる


添霧「…え?」


昴琉「今、」


朧偈「虚殿達……?」


虚『花じゃない。俺達だ。この世界は俺達を中心に成り立ってる』


その言葉が響いた瞬間花は今までにない絶叫を上げる


『違う、違う!違う!!!』


それは否定に似た恐怖の必死な抵抗だった。しかしもう遅い。隠し続けていた真実は知られてしまった


添霧は呆然と花を見上げ、昴琉も言葉を失い朧偈も黙り込んでいた。

紳漓だけが苦々しく笑う


紳漓「……最悪やな」


紫暖「そういうことだったのね、」


そしてその場にいた誰よりも早く前へ出たのは紗夜だった。

紗夜は巨大な花を見上げ、そして静かに刀を握り直した


紗夜「なら」


迷いは一切ない


紗夜「助けるものは決まってる」


花でも世界でも核でもない。紗夜の視線は真っ直ぐに二人へ向けられていた


紗夜「待ってて」


というたった一言の言葉だけは花の怒号が響き渡る空間の中でも不思議なほどはっきりと全員の耳へ届いた

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