集う厄災
通路の先に広がっていたのは…人外の大群だった。
先程まで戦っていた数とは比較にならない。壁際、床、天井に人外達が溢れ返っている。
その全てが同じ方向へ向かっている姿はまるで巨大な濁流だった。紳漓は眉を顰め
紳漓「なんやこれ……」
紫暖「集まってるわね」
朧偈「尋常ではない数でござる」
奥へ奥へと進んでいく先の目的地は一つしかない。紗夜達のいる場所だ
再び建物が脈打つ。その鼓動に呼応するように人外達の動きが加速した。紳漓の顔から笑みが消え
紳漓「走るで」
紫暖「えぇ」
朧偈「にん!」
瞬間、三人は同時に地面を蹴った。人外の流れを逆走するように駆け抜ける。
一刻も早くあの子達の元へと行くために
その頃、紗夜たちはすでに限界へ近付きつつあった
刀が迫る人外の腕を斬り落とし、その勢いのまま胴を断つ。
しかし一体倒しても二体、二体倒しても三体と新たな人外が押し寄せてくる終わりの見えない戦いに、紗夜の呼吸は徐々に荒くなっていた。
添霧「右!」
紗夜「っ!、?」
添霧の叫びに反応して紗夜は反射的に身体を捻った直後、鋭い爪が横を掠めるように通り過ぎた。
ほんのわずかでも反応が遅れていれば直撃は避けられなかっただろう
添霧もまた言霊を放ち続けている。幽体が幸いして体力の概念はないが、焦りが分かりやすく浮かんでいる
昴琉も魔術を維持し続けていたものの、連続使用による消耗は明らかだった。
昴琉「数が……!」
添霧「多すぎるって!」
二人の叫びは決して大袈裟ではなかった。人外たちは止まるどころか増え続けている。
巨大な花に呼び寄せられた存在たちが濁流のように絶え間なく押し寄せている
恋冬たちを追って今すぐあの穴の先へ向かいたいが前へ進めないまま立ち止まることすら許されない。
少しでも隙を見せればこの大群に飲み込まれるという事実に紗夜は歯を食いしばりながら刀を構え直した
紗夜「絶対に……」
待ってて…その言葉を最後まで口にする前に人外の群れが一斉に襲い掛かる。
四方八方からの完全な包囲だった。
昴琉「紗夜さん!!」
添霧「紗夜!!!」
無数の攻撃を前に人間体での回避は間に合わない…誰もがそう思った
その瞬間轟音が響いて空気そのものが裂けたかのような衝撃が通路を駆け抜ける。
次には人外たちの身体がまとめて吹き飛んだ
凄まじい衝撃が通路全体を揺らして壁や床を震わせる。紗夜は思わず目を見開いた。
目の前を埋め尽くしていた人外たちが一瞬で消し飛んでいた。
いや、まるで巨大な刃で薙ぎ払われたかのように正確には斬り飛ばされていた。
飛び散る人外たちの向こう側には立ち込める煙の中から一人の男がゆっくりと姿を現す。
巨大な大剣を肩へ担ぎ、呆れたような笑みを浮かべながら。
紳漓「お前らちょっと目ぇ離しただけで何やっとんねん!」
紗夜「……っ!」
昴琉「父さん、!」
煙の向こうには紳漓だけではない。後ろには紫暖が立ってさらに朧偈も姿を見せていた。
朧偈「追いついたでござる!」
紫暖「間に合ったみたいね」
紗夜は一瞬だけ言葉を失う。安堵と驚きで張り詰めていた緊張が少しだけ緩んだ
その隣では添霧が堪えきれず(でも満面の笑みで)叫んでいた
添霧「遅い!!」
紳漓「無茶言うなや!?」
そう返しながらも紳漓は迷うことなく大剣を振るう。放たれた一撃は通路そのものを薙ぎ払うように突き進み、前方に群がっていた人外たちをまとめて吹き飛ばした。
続けて紫暖が能力を展開する。
広範囲へ放たれた力が人外の動きを封じて戦場を制圧していく。
朧偈もまた印を結びながら前へ出た。
朧偈「ここからは反撃でござる!」
分身体たちが次々と現れて人外の群れへ飛び込んでいく。三人が加わった瞬間、それまで押し込まれていた戦線は一気に押し返された。
濁流のようだった人外の群れが初めて足を止める。紗夜は小さく息を吐いた。
その時ふと脳裏を過ったのは別れ際の紫暖の言葉
"大丈夫。ちゃんと追いつくから"
あの言葉は嘘ではなかった。本当に追いついてきて、本当に助けに来た。
紗夜はほんの少しだけ口元を緩める。
しかしその場にいる誰一人としてこの再会が束の間の安堵でしかないことに気付いていなかった。
この合流が嵐の前に与えられた最後の休息であることを。
彼らが必死に戦線を押し返しているその頃、巨大な花の中心では恋冬と虚がなおも核へ引きずり込まれていた。
世界を歪め続けた元凶、後悔と喪失を喰らう存在…その中心部では今まさに世界そのものを巻き込む最終局面が静かに始まろうとしていた。




