動き出す終幕
その頃紳漓たちがいる戦場ではなおも激しい戦闘が続いていた。
轟音が響き渡り、剣戟と爆発が絶え間なく交錯しては無数の人外と召喚兵たちが入り乱れ、通路はすでに原形を留めていなかった。
紳漓の大剣が振るわれるたびに人外たちは吹き飛ばされ、紫暖の能力は広範囲を制圧し続ける。
さらに朧偈が生み出した分身体たちが縦横無尽に駆け回り、戦場をかき乱していた。
紳漓「どないしたどないしたァ!!さっきまでの勢い無いやないか!!」
朧偈A「にんにん!!」
朧偈B「押しているでござる!!」
朧偈C「勝利目前でござる!!」
(以下略)
紳漓「お前らテンション高いな!?」
紫暖「元気ねぇ……」
戦況だけを見れば明らかにこちらが優勢である。しかしその均衡はあまりにも唐突に崩れた
突如として人外たちの動きが止まったのだ。紳漓が大剣を振り下ろそうとした瞬間目の前の人外がぴたりと静止する。
その後ろにいた個体も、さらに奥にいた個体も…まるで示し合わせたかのように同時に動きを止めていた。
紳漓「…あ?」
紫暖「何……?」
朧偈達「「「「「「「にん?」」」」」」」
先程まで強烈な殺意を向けていた存在たちがまるで操り人形の糸を切られたかのようにその場で固まっている。
誰も動かず誰も襲いかかってこない、誰が見ても異様で不気味な静寂だけが戦場を包み込んだ…
…瞬間、ドクンッと建物全体が大きく脈打つ
紳漓「っ!?」
紫暖「また……!」
先程から感じていた振動だが今度は明らかに質が違っていた。建物そのものが巨大な生命体となり心臓を鳴らしているかのような鼓動
ドクンドクンドクンという脈動に呼応するように人外たちが一斉に振り返る。
向いた先はただ一つ、紗夜たちが進んだ通路の奥であり、世界の核が存在する方向だった
紳漓「おいおいおい……」
朧偈「嫌な予感でござる」
紫暖「同感ね」
すると今度は通路そのものが動き始める。壁が震えて左右へと割れ、正確に言えば通路が開いたのだ。
これまで閉ざされていた奥への道が巨大な生物の口のようにゆっくりと姿を現していく。その先に広がるのは深い暗闇であり、さらに奥へと続く一本道だった。
直後、人外たちは一斉に走り出す
紳漓「……は?」
誰一人として紳漓たちを見ようとしない。今まで命を削って戦っていた相手を完全に無視してただ一つの場所を目指して駆け出していく。
その様子はまるで何かに呼ばれているか、あるいは抗うことのできない命令を受けた兵士のようでもある。
数百や数千にも及ぶ人外たちがただ奥だけを目指して流れていく。
紫暖はその光景を見つめながら静かに呟いた。
紫暖「集められてるわね」
紳漓「やな」
朧偈「全員でござる」
通路を埋め尽くしていたその全ての人外が王が招集をかけたかのように同じ場所へ向かっている。
それを見つめる紳漓の表情からいつもの軽薄な笑みが消える。
紳漓「……昴琉」
紫暖もまた同じ方向へ視線を向けた。
紫暖「紗夜ちゃん達ね」
嫌な予感しかしなかった。あまりにも露骨に何かが起きた。だからこそ全てが集められている。それも世界の核に近い場所で
朧偈は周囲を埋め尽くしていた分身体たちへ視線を向けて小さく忍者ポーズをとる
朧偈「解散でござる」
ボフンッと白煙が次々に上がり大量に存在していた朧偈たちは瞬く間に消えていく。最後に残った本体だけが静かに術を解除した。
紳漓もまた足元に展開していた軍勢へ視線を向ける。
紳漓「お前らも帰還や」
その命令と共に騎兵も歩兵も弓兵も、召喚された全ての戦力が光となって戦場から姿を消した。
残されたのは紳漓、紫暖、朧偈の三人だけだがその場に迷いはなかった。
紳漓は大剣を肩へ担ぎ直す。その顔に浮かぶのは戦士の表情ではなく、子を心配する父親の顔だった。
紳漓「行くで」
朧偈「にん!」
紫暖「えぇ」
人外たちの流れを追うように紗夜たちが向かった先へ…そして世界の核へ三人は同時に駆け出した。
建物の奥深くへと消えていく三人の背後でなおも鼓動は何かの誕生を待ち望むかのように鳴り続けていた。
そしてその頃、さらに奥深くでは__




