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幽間世界  作者:
51/83

守る者、進む者

建物の内部は外から見た構造とはまるで違っていた。


足を踏み入れた瞬間、まるで別世界へ放り込まれたような感覚が全身を襲う。


天井は見えないほど高く、壁は脈打つように微かに揺れている。生き物の体内にも似た不気味な空間だった。


先頭を歩いていた紳漓は周囲を見渡しながら眉をひそめた。


紳漓「気持ち悪い場所やな……」


紫暖「この世界そのものが集約されてる感じね」


添霧「うわぁ…ほんっとうにいやだ、」


朧偈「人外の気配も濃いでござる」


昴琉「ですが、こちらへ向かって来る気配はまだありませんね」


その言葉通りだった。


外にいた人外達とは違い、内部にいる存在達は皆どこか焦点が合っておらずまるで何かを待っているように立ち尽くしている。


その時後方から足音が聞こえて全員が振り返る。そこには恋冬と虚がいた。


恋冬「みんな……!」


添霧「恋冬ちゃん!」


紗夜「……来れたんだ」


恋冬は少し息を切らせながらも頷く。


恋冬「うん」


その隣に立つ窕を見た瞬間、空気が少しだけ張り詰めた。


朧偈は反射的に警戒し、昴琉も静かに視線を向ける。


昴琉「……虚」


虚「なんだよ」


昴琉「いや、別に」


虚「なら見るな」


紳漓「誰かわからへんがめっちゃ機嫌悪いやん」


虚「元からだし、」


添霧「否定できないね!」


虚「お前は黙れ幽霊」


添霧「理不尽!」


恋冬は慌てて二人の間に入った。


恋冬「け、喧嘩しちゃだめだよ!?」


虚「してない」


添霧「してないらしいよ!」


紗夜「してる」


紫暖はそんなやり取りを見ながら小さく笑った。


紫暖「とりあえず無事でよかったわ」


恋冬「……はい」


優しい声に少しだけ安心したのか恋冬の肩から力が抜ける。


だがその直後、建物全体がまるで巨大な心臓が鼓動したような音と共に低く震えた。


全員の表情が変わる。


朧偈「今のは……」


添霧「嫌な予感しかしない」


紫暖「近いわね」


紳漓は刀に手を添えた。


紳漓「どうやら歓迎してくれるらしいで」


昴琉「歓迎というより警告でしょう」


天井の見えない暗闇を見上げるその瞳に一瞬だけ、不自然な揺らぎが走った。


恋冬「虚……?」


虚「……いや」


ほんの僅かだったが確かに体の奥で病気の虚としての能力が動いた。


眠っていたはずのそれが世界の核に近付いたことで再び目覚め始めている。

虚は誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


虚「…」


巨大な通路の最奥ではまるでこの世界そのものが生きているかのように闇の中で何かが脈打っている。


世界の核へ続く通路は、どこまでも続いているように見えた。

脈打つ壁、歪む空間、耳の奥で響き続ける鼓動


だがその異変よりも先に気付いたのは紫暖だった。


紫暖「……なるほど」


紳漓「なんや?」


紫暖は周囲を見渡す。


紫暖「この世界、人外を基準にできているのね」


昴琉「人外を…?」


紫暖「ええ。この世界での当たり前は人外」


添霧「だから?」


紫暖は紗夜と恋冬を見る。


紫暖「だから逆に、この二人は狙われていなかった」


恋冬「え……?」


紗夜「……」


紫暖「人間だから」


その言葉に全員が静かになる。

人外が当たり前の世界だから人間は例外、だからこそ今まで無事だった。


添霧「じゃあ今まで襲われなかったのって……」


昴琉「人間だから」


虚「……」


恋冬は少しだけ手を握る。


恋冬「守られてた……みたいな、?」


紗夜「そういうこと」


世界の核へ続く通路を進む中、不意に建物全体が大きく脈打った。


まるで巨大な心臓が鼓動したような音が響き渡り空気が一変する。


嫌な予感が全員を包み込み、添霧と朧偈はほぼ同時に反応した。


添霧「……来る」


朧偈「来るでござる」


次の瞬間、通路の奥だけではなく壁、天井、床とありとあらゆる場所から人外達が這い出てくる。


数十、数百では到底足りない。見える範囲だけでも膨大な数だった。その瞳にあるのは純粋な殺意だけ。


狂ったような叫び声が空間中に響き渡り、人外達は一斉にこちらへ顔を向けた。


恋冬「っ……!」


昴琉「これは……!」


紗夜は反射的に刀へ手を伸ばしたがその前

ドンッ、と重い音を立てながら紳漓が一歩前へ出る。


紳漓「お前ら」


妙に静かな声だった。それだけで人外達の動きが一瞬止まる。

紳漓は肩を回しながら口元を吊り上げた。


紳漓「子供らの前で暴れんなや」


その瞬間殺意が爆発し、雪崩のように人外達が襲いかかってくる。


紫暖「行きなさい」


昴琉「母さん!?」


紫暖「早く」


紳漓「俺らが止める」


添霧「でも!」


紳漓「行け言うてるやろ」


低く強い声の一言だけで全員が理解する。ここは自分達の戦場ではない。

ここは守る立場の者達の戦場だと


紫暖は穏やかに微笑みながら、子供達一人一人を見た。


紫暖「大丈夫。ちゃんと追いつくから」


恋冬は唇を噛み締める。不安は消えないけれどその時、紗夜が手を差し出す。


紗夜「行くよ」


恋冬「……うん」


迷いながらもその手を取った。


添霧「僕も行く!」


昴琉「了解です!」


紗夜「……死なないで」


紳漓「誰に言うてんねん」


朧偈「父上でござるな」


紳漓「おい」


紫暖「ふふっ」


僅かな笑い声が響く。そして子供達は走り出した。

世界の核の奥へと振り返ることも止まることなく。

残されたのは紳漓と紫暖の二人だけだった。


……はずだった


朧偈「にんにん!」


夫婦「!?」


紳漓「ちょ、お前何してん!?」


紫暖「行きなさいって言ったでしょう!?」


朧偈「2人を守りたいと思ったでござる!」


紳漓「……ま、もう遅いしな」


紫暖「えぇ。また3人ね」


朧偈「父上」


紳漓「今度はなんや?」


朧偈「怪異と化さないでくだされ」


紳漓「」


紫暖「ふふっ」


そしてその前には押し寄せる無数の人外達。紳漓はゆっくりと大剣を抜き肩に担ぐ。


押し寄せる殺意を前にしても誰一人として動揺していなかった。


紳漓は人外達を見渡しながらいつものように


紳漓「……さて」


大剣を肩に担ぎ、その目に鋭い光を宿した。


紳漓「守る仕事、始めよか」


その瞬間轟音が響き渡る。最初に飛び出した人外が一刀のもとに吹き飛び、戦いの火蓋が切られた。


世界の核へ向かう子供達のその背中を守るため、夜刀神家はこの世界の人外全てを相手取る


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