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幽間世界  作者:
50/83

黒い空の先へ

本格的にします

拠点を出てからしばらく一行は人気のない通りを歩いていた。


崩れた建物荒れ果てた道路や人の気配のない街並みは相変わらず不気味な世界だった


紳漓「今日は平和やな」


紫暖「その台詞、毎回不穏なのよ」


朧偈「父上が言うと特にでござる」


昴琉「否定できませんね」


紳漓「なんでや」


その時ふと風が止まる


添霧「……あれ?」


紗夜が足を止める


紗夜「何か変」


空気が重く嫌な予感がする。まるで遠くから何かがこちらを見ているような感覚に紫暖も周囲を見渡して


紫暖「みんな、少し待って」


全員が鳥の声も風の音も無い静寂に立ち止まる


その異様さに恋冬がそっと紗夜の袖を掴んだ。


恋冬「……怖い」


紗夜「大丈夫」


そう言いながらも紗夜自身も警戒を強めて木刀を構えていた。


やがて朧偈が空を見上げる。


朧偈「父上」


紳漓「ん?」


朧偈「空でござる」


全員が同じ方向を見て気付いた。

空の一部がまるで巨大な墨を流したように黒く染まり、光が失われていた


添霧「うわ」


紗夜「……気持ち悪い」


恋冬「空が……壊れてるみたい」


昴琉は目を細める。見ているだけで胸の奥がざわつき、本能が警鐘を鳴らしている


紳漓は腕を組んだまま珍しく冗談を言わない。


紳漓「あれやな」


紫暖「ええ」


紳漓「ろくでもないやつや」


紫暖「間違いなくね」


朧偈「かなり大きな力を感じるでござる」


添霧「幽霊の僕でも分かる」


紗夜「近づきたくない」


あの黒い空を見ているだけで寒気がしたのか恋冬は無意識に身を縮める。


しばらく沈黙が続いた後、紳漓が一歩前へ出て


紳漓「ほな」


紫暖「行くのね」


紳漓「行かなあかんやろ」


昴琉も頷いた。


昴琉「放置できる感じではありません」


朧偈「同感でござる」


紗夜「どうせ避けても巻き込まれる」


添霧「それはある」


恋冬だけが少し不安そうに空を見ていた。

すると紫暖がそっと肩に手を置く。


紫暖「大丈夫」


恋冬「……」


紫暖「怖いなら怖いままでいいわ。でも一人にはしない」


恋冬はゆっくり頷いた。


恋冬「…はい」


進路が決まると、一行は黒い空の広がる方角へと歩き始めた。


近づくにつれて空気は次第に重くなり、吹きつける風も肌を刺すような冷たさを帯びていく。


足元には黒い染みのような影が増え、その不気味さは一歩進むごとに濃さを増していた。


だがそのとき誰も気づいていなかった。


黒く染まった空の中心から、無数の視線が自分たちを見下ろしていることに。


それは獲物を待ち続けていた存在の眼差しにも似ていた。


まるで「ようやく来た」と告げるかのように。


そして、たどり着いた場所は人外たちの気配が明らかに異常だった。


数が多いわけではない。むしろ何かに引き寄せられるように一か所へ集められている……そんな不自然さがあった。


一行が辿り着いたのは朽ちた街の中心部だった。


本来なら建物が密集しているはずの場所に大きな空白が広がっている。そして、その中央には巨大な建造物がそびえ立っていた。


高層ビルでもなければ城でもない。


強いて言うならそれは世界そのものを詰め込むために作られたような歪で巨大な箱…みたいな


その異様な姿に昴琉は思わず息を呑む。


昴琉「でかすぎませんか……」


添霧「うわぁ…僕でも嫌な感じがするよ」


朧偈は建物を見上げながら静かに告げた。


朧偈「核、でござるな」


紫暖も小さく頷く。


紫暖「ええ。おそらくここがこの世界の中心よ」


その言葉を聞いても紳漓は何も言わなかった。いつもの軽口も冗談もなくただ鋭い目で建物を見据えて短く言う。


紳漓「……行くで」


その一言に一行の空気が引き締まった。


建物の入口は扉ではなく、空間そのものが裂けたように歪みんではそこから生温い風が中から流れ出している。


周囲にいた人外たちは恐れているのかそれとも何かに従っているのかその場所へ近づこうとしない。


理由は分からなかったがまともな場所ではないことだけは確かだった。


紫暖「離れないで」


昴琉「はい」


朧偈「父上、前に出すぎでござる」


紳漓「前は俺の仕事や」


そう言って紳漓は真っ先に裂け目へ踏み込み、続いて紫暖、昴琉、朧偈、添霧が後に続く


だが最後にいた紗夜はふと足を止めて振り返った。


恋冬はその場から動けずにいた。


怖いがそれだけではなく本能がここは近づいてはいけない場所だと警告をしていた


恋冬「……大丈夫。大丈夫だから」


その言葉は、まるで自分自身に向けられたもののようにも聞こえた。


紗夜は何か言おうとして唇を開きかける。


守りたい。その想いに嘘はないけれど、この場所ではそれだけでは足りない。そんな気がしていた。


そのとき背後から低い声が響く。


「やっぱり、ここにいた」


聞き覚えのある声に恋冬は振り返った。


そこに立っていたのは、碧春によく似た面影を持つ少年、虚。


以前とはどこか違い、病そのもののようだった禍々しい気配は薄れ、代わりに生命らしい空気をまとっている。


恋冬「っ碧春!!」


虚「……その呼び方にはまだ慣れてないけど」


虚も無理に笑おうとはせず、ただ静かに隣へ並んだ。


虚「怖いよな」


恋冬「……うん」


その一言だけで、不思議と胸の力が少し抜けた。虚もまた巨大な建物を見上げる


虚「でもさ」


恋冬「?」


虚「恋冬がここまで来たってことは、逃げる気ないんだろ」


恋冬は黙ったまま前を見て小さく頷いた。


恋冬「……行かなきゃ、きっと終わらないから」


虚「そっか」


短く返したあと彼は前へ歩き出した。


虚「じゃあ、一緒に行こう」


恋冬「……え?」


虚「大丈夫。今の俺は少なくとも恋冬を傷つけない」


恋冬はその言葉に安心し、一歩前へ踏み出す。


恋冬「……うん」


二人は並んで裂け目の前へ立つ。内部からはまるで世界そのものが脈打っているかのように低い鼓動のような音が響いていた。


恋冬は入口を見つめながら小さく


恋冬「……碧春」


その名前を聞いた虚は少し固まって


「……大丈夫だ。恋冬」


それがどちらの声かは分からない。だが恋冬は世界の核へと続く裂け目の中へ足を踏み入れる。


巨大な心臓の内部へ飲み込まれるように、その姿は闇の向こうへ消えていった。


ただ前作で戦闘描写に使う語彙力失ったもので…迫力出せるかな……

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