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幽間世界  作者:
49/83

最後の日常

夜になり、一行は簡単な食事を終えた頃全員が集まった。


紫暖「それじゃ、現状整理のために家族会議を始めるわよ」


紳漓「よっしゃ!仕切りは俺やな!」


紫暖「座りなさい」


紳漓「はい」


開始数秒で議長の座を失った紳漓を横目に会議は進んでいった。


まず話し合われたのはこの世界での今後の行動方針


紫暖「まず、無駄な戦闘は避けること」


紳漓「無駄かどうかは俺が決める」


紫暖「決めないわよ」


昴琉「父さん、この前ほぼ街ひとつ怪異扱いされてましたよね」


紳漓「誤解や!」


朧偈「完全に伝説になっていたでござる」


添霧「『夜に現れて全部なぎ倒す赤い怪異』って噂だったよ」


紳漓「尾ひれつきすぎやろ!!」


その時、おずおずと恋冬が手を挙げた。


恋冬「その…人外があまりいなかったのって、もしかして……」


添霧「紳漓(怪異)が居たからだね!」


紳漓「おい紳漓と書いて怪異と読むなや!?」


紫暖は軽く咳払いをして話を戻す。


紫暖「次。恋冬ちゃんは当面、夜刀神家で保護するわ」


恋冬「よろしくお願いします……」


紗夜「大丈夫。私が一緒にいる」


恋冬「紗夜ちゃん……」


恋冬は安心したように紗夜の近くへ寄った。その様子を見ていた添霧と昴琉は、なぜか静かになる。


紳漓「おやぁ?」


紫暖「どうしたの?」


紳漓「なんか嫉妬の気配を感じたような気ぃするなぁ?」


添霧「感じてないもん!」


昴琉「少し羨ましいだけです」


紳漓「ほらおるやん!」


紫暖「あなたは静かに」


続いて話題は添霧へ移った。


紫暖「添霧くんは、なるべく紗夜ちゃんと一緒にいてね」


添霧「任せて!」


紳漓「でも幽霊やろ?」


添霧「そうだよ!」


紳漓「飯いらん?」


添霧「いらない!」


紳漓「風呂は?」


添霧「入らない!」


紳漓は腕を組んでしばらく考えた。


紳漓「……羨ましない?」


昴琉「論点がずれてます」


朧偈「父上は幽霊になりたい期でござるか」


紳漓「なりたないわ!」


添霧「ちょっとだけなりたそうだったよ?」


紳漓「なってへん!?」


会議も終盤に差しかかった頃、紫暖は最後の議題へ移った。


紫暖「最後にあなた」


紳漓「おう!」


紫暖「あなたは少し」


紳漓「声が大きい?」


紫暖「前に出すぎなの」


紳漓「そっちかぁ……」


紫暖は呆れたようにため息をつく。


紫暖「守るのはいいけれど全部一人でやろうとしないことよ」


紳漓「うっ」


そこで恋冬が小さく口を開いた。


恋冬「でも……」


全員の視線が集まる。


恋冬「紳漓さん、怖いけど…いつも皆の前に立ってました」


紳漓「恋冬ちゃん……!」


少し感動しかけた紳漓だったが、恋冬は真面目な顔のまま続けた。


恋冬「だから怪異だと思われたんだと思います」(?)


紳漓「フォローの角度えぐない!?」


紗夜「事実」


昴琉「納得です」


添霧「うん」


朧偈「異論なしでござる」


紳漓「全会一致で刺すのやめぇや!?」


しばらくして会議は終了


紫暖「以上で家族会議を終わります」


紳漓「結局、俺は何したらええんや?」


紫暖「静かにして守る」


紳漓「一番難しいやつやん!!」


周囲から小さな笑い声が漏れるそんな中、朧偈がそっと父の隣へ寄った。


朧偈「だが父上」


紳漓「ん?」


朧偈「それが一番、父親らしいでござる」


紳漓は一瞬言葉を失って照れ隠しのように頭をかく。


紳漓「……そうか」


朧偈「にんにん!」


紳漓「ほな、頑張るわ」


その言葉に紫暖は小さく微笑み、昴琉もどこか安心したように肩の力を抜いた。


夜が静かに更けていく。


怪異扱いされた父も厳しい母も、しっかり者の子どもたちも


少しずつ形は違っても、確かに同じ家族として歩き始めていた。


朝を迎えた建物には柔らかな朝日が差し込んでいる


壊れた窓の隙間から風が入り込み、静かな空気を揺らしている中で最初に起きたのは紫暖だった。


皆の様子を確認しながら荷物をまとめていると、ほどなくして昴琉も目を覚ます。


昴琉「おはよ、母さん」


紫暖「おはよう。よく眠れた?」


昴琉「うん、襲撃とかなくてよかったね」


紫暖「…まぁ、あの人のおかげね」


なんて笑いながら言う紫暖の顔は、どこか呆れつつも嫌そうではなかった


少しして紗夜も起き上がる。その隣では恋冬がまだ眠っていた

紗夜はしばらくその寝顔を見つめたあとそっと肩を揺らして


紗夜「恋冬、朝」


恋冬「ん……」


ゆっくり目を開いた恋冬は、状況を理解すると少しだけ照れたように笑った。


恋冬「おはよう、紗夜ちゃん」


紗夜「おはよう」


短いやり取りだったがそれだけで十分だった。

二人の様子を見ていた添霧は何とも言えない顔をしている。


添霧「朝から仲良しだね」


昴琉「また始まりましたね」


添霧「僕は見守る側だからいいし!」


昴琉「昨日も同じこと言ってました」


その頃、部屋の隅ではなぜか紳漓が毛布にくるまっていた。


朧偈「父上」


紳漓「……」


朧偈「父上」


紳漓「……あと五分」


朧偈「起床でござる」


紳漓「嫌や」


紫暖「起きなさい」


紳漓「はい」


即座に起きたことに恋冬が思わず目を丸くする。


恋冬「すごい……」


添霧「妻さんには逆らえないんだよ!」


昴琉「父さんの生存本能です」


紳漓「好きでそうなったわけちゃうからな!?」


朝食を済ませ一行は出発の準備を始める。

(とはいえ準備の大半は荷物確認)


昴琉「……」


紳漓「どうした?」


昴琉「まだ炊き込みご飯残ってます」


紳漓「よし」


紫暖「よしじゃない」


添霧「何日分入れたの?」


紳漓「愛情の分だけや」


昴琉「量で表現しないでください」


恋冬は思わず小さく笑う。


少し前までならこんなやり取りを見ても笑えなかっただろうと紫暖が優しく声をかけた。


紫暖「行けそう?」


恋冬は一瞬だけ周囲を見渡した。


恋冬「……はい」


その返事は昨日よりもずっとしっかりしていた。


やがて全員の準備が整い建物から一行は外へ出た。

紳漓は大きく伸びをする。


紳漓「さて!」


紫暖「張り切りすぎない」


紳漓「まだ何もしてへんやろ!?」


朧偈「毎回その台詞から始まるでござる」


添霧「今日は怪異扱いされないといいね!」


紳漓「もうやめてくれへん!?w」


昴琉は思わず苦笑し、恋冬も口元を押さえながら笑っている


紗夜はそんな二人を見てほんの少しだけ表情を和らげた。


こうして一行は再び歩き始める。何が待っているのかも分からない。


それでも一人ではなく隣に誰かがいるからきっと前へ進める。


朝日に照らされながら夜刀神家と仲間たちの旅は続いていくのだった。


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