変わらない日常
ネタだったかもしれねぇ……()
そして、朝には壊れかけた建物の窓から差し込む薄い光が仮拠点の中をゆっくり照らしていた。
最初に目を覚ましたのは恋冬
恋冬「……」
ぼんやりとした意識のまま視線を動かし、そこで違和感に気づく。
近い。あまりにも近い。目の前に紗夜の顔
恋冬「」
数秒間完全に停止する。やがて状況を理解し始めた恋冬は恐る恐る視線を下へ向けた。
自分の腕はしっかりと紗夜に絡みついて額同士が触れそうなほど近い。
恋冬「え」
そして
恋冬「っ!?」
勢いよく飛び起きようとして布を引っ張り、逆に紗夜との距離を縮めてしまった。
恋冬「さ、紗夜ちゃん!?近い!近いよ!」
その声で紗夜も目を覚ます。
紗夜「ん……」
ゆっくり瞼を開き、まだ半分眠そうな顔で恋冬を見る。
紗夜「何?」
恋冬「何じゃないよ!」
紗夜は状況を確認するように視線を動かし、そして特に気にした様子もなく答える。
紗夜「寒かったから」
恋冬「そうだけど……!」
顔を真っ赤にしながら慌てる恋冬とは対照的に紗夜は落ち着いたまま
しばらく考えたあと紗夜は首を傾げる。
紗夜「嫌だった?」
恋冬「」
その問いに恋冬は言葉を詰まらせる。
嫌だったわけではないし安心して眠れたからこそ返答に困る。
恋冬「……嫌じゃないけど!」
紗夜「ならいい」
恋冬「よくないよ!?」
恋冬の抗議に、紗夜は本気で不思議そうな顔をした。
少し離れた場所でそのやり取りを見ていた添霧と昴琉は、同じような表情で固まっていた。
添霧「……朝から強いね」
昴琉「距離感が壊滅していますね」
添霧「完全に自然体なんだよなぁ……」
昴琉「本人たちに自覚がないのが余計に」
二人は同時にため息をついた。
そこへ、ちょうど起きてきた紳漓が現れる。
紳漓「おはよーさん」
恋冬「!」
紗夜「……おはよ」
紳漓は二人の距離を見るなり、意味深に口元を緩めた。
紳漓「ははぁ〜ん」
昴琉「父さんその顔やめてください」
紳漓「添霧」
添霧「なに!」
紳漓「昨日、嫉妬してたやろ」
添霧「してない!」
紳漓は腕を組みながら
紳漓「顔に書いてあったで」
添霧「かいてないよ!」
紳漓「あるある。心の文字や」(?)
昴琉「理論が雑すぎます」
紳漓は今度は昴琉へ視線を向けた。
紳漓「昴琉もや」
昴琉「……」
紳漓「ちょっと羨ましかったやろ」
昴琉は数秒沈黙したあと、小さく息を吐く。
昴琉「……否定はしません」
添霧「認めた!」
恋冬「え、えぇ……?」
紗夜「何の話?」
添霧「気にしなくていいよ!」
恋冬「気になるよ!?」
紳漓は満足そうに頷いた。
紳漓「若いってええなぁ」
紫暖「あなた」
紳漓「なんや」
紫暖「余計なこと言わない」
紳漓「はい」(驚くほど素直)
昴琉「父上、母上には弱いですね」
紳漓「勝てるわけないやろ」
朧偈「真理でござる」
少しして、恋冬はまだ赤い顔のまま隣にいる紗夜を見た。
恋冬「その……」
紗夜「?」
恋冬「また寒かったら…くっついても、いい?」
紗夜は少しだけ考えていつも通りの調子で答える。
紗夜「別に」
恋冬「っ」
再び顔が真っ赤になる。紗夜はその反応の意味がよく分かっていない。
その様子を見ていた添霧がぽつりと呟いた。
添霧「ずるい」
昴琉「これは…ずるいですね」
紳漓「ほら見ぃ嫉妬や」
紫暖「だから黙りなさい」
紳漓「はい」
二度目の即答だった。
そうしてるうちに朝の空気もすっかり和らぎ、仮拠点ではそれぞれが身支度や見回りを始めていた。
そんな中、紳漓だけは妙に機嫌が良かった。
紳漓「いや〜しかし、恋冬ちゃんも罪な子やなぁ」
腕を組みながらニヤニヤと笑う紳漓に恋冬は首を傾げる。
恋冬「え?」
紳漓「寝起きであの距離感はあかんでぇ。無自覚に人たらしなんは一番怖いんや」
恋冬「ち、違います……!」
慌てて否定する恋冬だったが紳漓はまったく止まらない。
紗夜「人たらし?」
恋冬「違うよ紗夜ちゃん!」
添霧「そうだよ!恋冬ちゃんは純粋なだけだよ!」
昴琉「父さん、からかいすぎです」
それでも紳漓は楽しそうに肩をすくめた。
紳漓「いやいや?紗夜にぴったりくっついて、添霧に嫉妬されて、昴琉には羨ましがられてるんやで?これはもう将来大変やなぁ」
恋冬「うぅ……」
恋冬の顔はみるみる真っ赤になる。紗夜は状況をよく理解していない様子で恋冬を見た。
紗夜「恋冬困ってる」
紳漓「それがええんやん?」
その瞬間だった。
紫暖「あなた。」
紳漓「んー?」
振り返った紳漓の前には笑顔の紫暖が立っていた。
(だがその笑顔は家族全員が知る「怒っている時の笑顔」)
紫暖「年下の子をからかって楽しい?」
紳漓「え、いや、その……」
紫暖「しかも守られる側の立場の子を追い詰めるなんて、最低ね?」
一歩近づかれた瞬間紳漓は即座に地面へ額をつけた。(土下座)
紳漓「ごめんなさい」
朧偈「父上の見事な土下座でござる」
昴琉「反応速度が異常だな」
添霧「完全に条件反射だよ!」
紫暖はため息をつきながら恋冬の前に立った。
紫暖「ごめんなさいね。この人調子に乗ると止まらないの」
恋冬「い、いえ……」
紫暖「次やったらどうなるかわかる?」
紳漓「消される」
紫暖「正解」
あまりにも即答だったためその場の空気が少し和らぐ。恋冬はしばらく迷った後小さく口を開いた。
恋冬「あの…でも、悪気がないのは分かります」
紳漓「恋冬ちゃん……!」
感動したように顔を上げる紳漓だったが、
紫暖「甘やかさないで」
紳漓「はい……」
再び沈んだ。その様子を見ていた紗夜はそっと恋冬の手を引いて
紗夜「気にしなくていい」
恋冬「ありがと、紗夜ちゃん」
添霧「僕も守るからね!」
昴琉「俺も協力します」
恋冬は少し照れながらも小さく笑った。その光景を見ていた紳漓はしみじみと呟く。
紳漓「家族増えてきたなぁ……」
紫暖「その前に反省文を書きなさい」
紳漓「紙あるん?」
朧偈「父上、反省する気が感じられぬでござる」
添霧「まず題名は『恋冬ちゃんをからかってしまいました』だね!」
昴琉「原稿用紙十枚くらい必要では?」
紳漓「重ない!?」
久しぶりに響いた笑い声に、恋冬も思わず吹き出した。
そして、即席の机代わりに積み上げられた瓦礫の上には紙とペンが置かれている
その前で正座しているのは紳漓
紳漓「……なんで俺がこんなことに」
紫暖「反省文」
たった一言で紳漓は黙った。
昴琉「父さん、ちゃんと書いてください」
添霧「証拠を残しておかないと、またやるでしょ?」
紗夜「やる」
恋冬「……やるかもです」
紳漓「家族全員敵やん!?」
完全包囲の状態で、紳漓はしぶしぶペンを走らせ始めた。
紳漓「えーっと……『このたびは私、夜刀神紳漓は――』」
すると隣から朧偈がひょいと覗き込む。
朧偈「父上」
紳漓「ん?」
朧偈「文字がもう反省してないでござる」
紳漓「文字に罪ある!?」
朧偈「この“漓”の跳ね、完全に調子に乗ってるでござる」(?)
紳漓「そこなん!?」
添霧「言われてみればそう見える」
昴琉「確かに勢いがありますね」
紳漓「お前らまで!?」
紫暖「書き直し」
紳漓「はい……」
早くも一枚目に修正が入った。気を取り直して紳漓は再び書き始める。
紳漓「『私は年下の方々に対し――』」
朧偈「父上」
紳漓「今度は何や」
朧偈「“方々”は逃げでござる」
紳漓「逃げェ!?」
朧偈「具体性がない。つまり反省してないでござる」
昴琉「なるほど」
添霧「論理的だ……」
恋冬「すごい……」
紳漓「なんでみんな納得してるんや」
朧偈は真面目な顔で胸を張った。
朧偈「日頃の観察の成果でござる」
紫暖「それで?」
紳漓は観念したようにため息をつく。
紳漓「……『恋冬ちゃんを煽りました』」
恋冬「はい、」
紗夜「認めた」
添霧「第一歩だね!」
昴琉「大きな進歩です」
紳漓「なんやこの公開裁判……」
それでも書き進める。
紳漓「『また、紗夜に対しても――』」
朧偈「父上」
紳漓「まだあるんか!?」
朧偈「“も”は軽いでござる」
紳漓「助詞まで!?」
朧偈「誠意が足りぬでござる」
震える手で書き直す紳漓。
紳漓「『紗夜さんの尊厳を――』」
紗夜「尊厳」
添霧「紳漓さん、それはそれで変だよ」
昴琉「自爆してますね」
恋冬「ちょっと重いかも……」
紫暖「続けなさい」
紳漓「はい……」
数分後、紙は修正跡で真っ黒になっていた。
もはや反省文というより、何度も推敲された学術論文である。
紳漓「もう反省文やなくて論文や……」
朧偈「最後の締めが必要でござる」
紳漓「『二度とこのようなことはしません』」
朧偈「弱い」
紳漓「まだ弱いん!?」
朧偈は少し考えたあと真顔で提案した。
朧偈「『次にやったら紫暖様に処される覚悟です』」
紳漓「それ脅迫文やろ!」
紫暖「いいわね」
紳漓「良いんかい!!」
こうして幾度もの添削を経て、ついに反省文は完成した。
朧偈「提出でござる」
紫暖は受け取った紙を静かに読み始め、紳漓は固唾を呑む。
紳漓(終わった……)
そんな心境で結果を待っていると、紫暖は紙を丁寧に畳み、一言だけ告げた。
紫暖「次は行動で示しなさい」
紳漓「はい……」
その返事は今日一番素直だった。恋冬は少しだけ紳漓を見て小さく
恋冬「……大変ですね」
紗夜「でも、ちゃんとしてる」
添霧「反省はしてると思うよ」
昴琉「たぶん」
紳漓「なんでたぶんなんや!?」
朧偈「信用は積み上げ式でござる」
紳漓「お前が一番厳しいわ!!」
周囲からの笑い声に包まれながら紳漓は修正だらけの反省文を見つめて肩を落とした。
こうして夜刀神家史上もっとも添削された反省文は無事提出され、紫暖による評価は「可もなく不可もなく」だった
ここ辺りからやりにくいタブレットで作業してるので色々ミスってるかもしれないです
あとスマホと違って画面広いから文字数多くなりそう……




