やっとの再会
昴琉たちは明らかに異様な空間へ足を踏み入れていた。
建物も道も存在しているが、空気だけが不自然なほど重い。まるで何か巨大な存在が、この一帯を覆っているようだった。
添霧「ここ、父上の存在圧と同じ匂いがする」
昴琉「そんな匂いで例えないでください?!」
恋冬「怖いけど…どこか優しい感じもする?」
紗夜「矛盾してる」
昴琉は胸元に手を当てた。妙な確信があった。
昴琉「近いですね」
紗夜「何が?」
昴琉「父上です」
紗夜「即答しないで」
その直後、ドォン!!!と遠くで爆音が響き、建物の壁が派手に崩れ落ちる。
添霧「わあ、建築基準法が死んだ音」
恋冬「ひっ……!」
昴琉は即座に断言した。
昴琉「父上だ」
紗夜「だから確信しすぎでしょ」
その頃、紳漓は瓦礫の山の中央で仁王立ちしていた。周囲には気絶した人外たちが転がり、惨状だけを見れば完全に怪異側だった。
紫暖「やりすぎよ」
朧偈「父上。街の人外たちが『昴琉を呼ぶと怪異が来る』と学習したでござる」
紳漓「学習すな!!」
紳漓は額を押さえた。
紳漓「ちゃうねん…俺はただ昴琉に顔見せたいだけや」
朧偈「重いでござる」
紳漓「親心や!!」
だが次の瞬間三人は同時に表情を変えた。空気が変わったのだ。
紫暖「来たわね」
朧偈「完全一致でござる」
紳漓も顔を上げ、そして小さく呟いた。
紳漓「……おる」
昴琉たちも感じたのか境界の曲がり角で足を止める。
紗夜「今度は何?」
昴琉「父さんがいます」
添霧「うん。そこ曲がったらいるね」
紗夜「添霧まで」
恋冬も胸を押さえた。
恋冬「心臓が…うるさい……」
昴琉は静かに前へ進む。
昴琉「間違いありません」
そして…曲がり角の向こうから聞き慣れた声が響いた。
紳漓「昴琉ーーー!!!」
全力疾走父、猛ダッシュ。
昴琉「父さん!?」
同時に背後から悲鳴が飛ぶ。
紫暖「あなた止まりなさい!!」
朧偈「父上ぇええ!!!抑制でござる!!」
しかし止まるわけがなかった。
紳漓「会えへんか思て!!」
昴琉「待っt」
次の瞬間親子は真正面から衝突し、揃って吹き飛んだ。
添霧「うわぁ、親子再会の音じゃない」
紗夜「物理」
恋冬「だ、大丈夫ですか!?」
数秒後、瓦礫の中から二人が同時に起き上がる。
昴琉「父さん」
紳漓「昴琉」
しばしの沈黙に紫暖は頭を抱えた。
紫暖「最悪の再会ね」
朧偈「感動が粉砕されたでござる」
昴琉は深いため息をつく。
昴琉「父さん怪異扱いされてませんでした?」
紳漓「なんで知っとるんや」
昴琉「街中の掲示板に貼ってありました」
紳漓「なんでこっちにもあんねん消してこい」
添霧「消しても増えるタイプだよそれ」
そんな中、恋冬が恐る恐る前へ出た。
恋冬「その…お父さん……?」
紳漓は初めて恋冬へ視線を向ける。
紫暖「この子ね、気配は」
朧偈「父上、敵意はまったくないでござる」
紳漓はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりしゃがみ込んだ。
そして優しい声で尋ねる。
紳漓「怖かったな」
恋冬「!」
恋冬は目を見開いた。
恋冬「…うん」
紳漓「そらそうや。こんな街怖いに決まっとる」
その言葉に恋冬は少しだけ安心したように頷いた。紫暖は静かに微笑んで
紫暖「相変わらずね」
その様子を見ていた昴琉はようやく肩の力を抜いた。
昴琉「父さん」
紳漓「ん?」
昴琉「来てくれて、ありがとうございます」
その言葉に紳漓は一瞬だけ目を丸くして照れ隠しのように鼻を鳴らした。
紳漓「当たり前やろ」
少し間を置いてぽつりと続ける。
紳漓「……もう二度と離れへん」
添霧「重いなぁ!」
朧偈「父上、抱きつくのは段階を踏むでござる!」
紳漓「なんで止めるんや!!」
こうして、怪異扱いされていた父は無事に息子と再会した。
騒動もひと段落し、ようやく落ち着いた空気が流れ始めていた。
昴琉は少しだけ安心した表情で父を見る。
昴琉「…父さん、落ち着きました?」
紳漓は腕を組みながら頷いた。
紳漓「……あぁ」
紫暖「よかった」
朧偈「父上、深呼吸でござる」
促されるまま紳漓は大きく息を吸った。その様子に全員が安堵しかけた、のだが
紳漓「……でも」
紫暖「でも?」
紳漓「我慢できへんのやぁあああああ!!!!!!」
地面を蹴り砕く勢いで飛び出した紳漓は一直線に昴琉へ突撃した。
昴琉「父さん!?」
紳漓「昴ぁああああ!!!!」
むぎゅーーーーーー!!!!
全力の抱擁(もはや抱擁というより拘束)
昴琉「ゔ!!?父さん!?父さーーん!!?苦しいです!?!!?!」
骨が軋む音
添霧「うわ、圧縮事故だ」
紗夜「人が潰れる音してる」
恋冬「だ、大丈夫!?」
朧偈「父上ぇぇぇ!!力加減!!」
紫暖「あなた!!本当に殺す気!?」
しかし紳漓は離さない。むしろさらに強く抱き締めた。
紳漓「だってなぁ!?昴琉の顔見えへんままどんだけ心配したと思てん!!」
昴琉「それは分かりますけど!!まず離してください!!」
紳漓「能力まで出てくんねんぞ!?!」
昴琉「それは知りませんよ!?!!」
紳漓「飯食っとるか気になるし!寝とるか気になるし!怪我しとらんか気になるし!」
昴琉「全部分かりましたから!!肋骨!!肋骨が危険です!!」
添霧「幽霊でもこれは止めた方がいいやつだね」
紗夜「誰か止めて」
ついに紫暖が動いた。
紫暖「……はい、そこまで」
次の瞬間、紳漓の姿がふっと浮き上がり昴琉から強制的に引き剥がされた。
紳漓「え」(空中で固定される父)
紫暖は呆れた顔で言う。
紫暖「抱きしめるのは一日一回まで」
紳漓「制限厳しない?」
紫暖「破ったら次は首」(!?)
紳漓「ごめんなさい」
即謝罪
朧偈「母上最強でござる」
添霧「即落ち二コマだ」
解放された昴琉はその場に膝をつく。恋冬が慌てて駆け寄った。
恋冬「だ、大丈夫……?」
昴琉「…生きてます……多分……」
紗夜「耐久力すご」
昴琉「褒め言葉に聞こえません……」
添霧はどこからか小さな瓶を取り出した。
添霧「そんな昴琉にこれあげる」
昴琉「何です?」
添霧「精神安定用、線香味ラムネ」
昴琉「用途が謎すぎる」
添霧「効くよ!」
昴琉「何にですか!?」
その頃、空中で拘束されたままの紳漓は少しだけしょんぼりしていた。
紳漓「……でもな」
紫暖「まだ言うの?」
紳漓「ちゃんと育っとってよかったなぁって思うんや」
その声だけは妙に静かだった。昴琉も思わず言葉を失うが少しの沈黙の後ふっと笑った。
昴琉「……父上」
紳漓「ん?」
昴琉「今度は、普通に抱きしめてください」
その場の空気がふっと柔らかくなる。紳漓は目を丸くし、それから照れ臭そうに鼻をすすった。
紳漓「……次は優しくするわ」
昴琉「それでお願いします」
朧偈「父上、次は“むぎゅ”禁止でござる!」
添霧「次は“ふわっ”で!」
紗夜「擬音で決めないで」
恋冬はその光景を見つめながら、小さく呟いた。
恋冬「……家族、なんですね」
紫暖は優しく恋冬の頭を撫でる。
紫暖「ええ。うるさいけどね」
紳漓「聞こえとるぞ」
紫暖「聞こえるように言ったの」
添霧「仲良しだ!」
紗夜「どこが?」
笑い声とツッコミが飛び交う中、ようやく全員の表情から緊張が消えていった。
少し騒がしくて、少し重たくて、けれど確かな家族の時間が流れていた。
個人的「精神安定用、線香味ラムネ」が好きすぎてwwなんかパッと思いついた単語がそれなんですよねw




