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幽間世界  作者:
45/83

怪異爆誕

路地裏では人外たちが普段では考えられないほど小声で集まっていた。

この辺りでとんでもない噂が広まっていた


人外Aが周囲を警戒しながら口を開く。


人外A「……なぁ、聞いたか?」


人外B「あれの話だろ……?」


人外C「見た奴、全員無事じゃねぇらしい」


その場の空気がさらに重くなる。


人外A「質問してくるらしいぞ。息子を知らないかって……」


人外B「答えると殴られるんだろ?」


人外C「答えなくても殴られるらしい」


全員が黙り込んだ。


人外A「もう怪異だろ、それ……」


人外B「人型してるだけの災害だ」


紳漓「誰が災害や」


全員「ひぃぃぃぃ!!」


人外たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。残された紳漓は納得がいかない顔をしている。


紳漓「なんでや!?普通に探してるだけやろ!?」


紫暖は呆れたように肩をすくめた。


紫暖「普通の定義を見直しなさい」


朧偈も真面目な顔で頷く。


朧偈「父上、もはや都市伝説でござる」


少し離れた別の路地では人外Dが角から顔を出し、慎重に周囲を確認していた。


人外D「……いないな。よし」


紳漓「おるで」


人外D「ぎゃああああ!!」


真後ろから声をかけられ人外Dは飛び上がった。紳漓はしゃがみ込みできる限り優しい声を出そうとする。


紳漓「なぁ」


人外D「すみませんすみません!!」


紳漓「まだ何も言うてへん!」


人外D「殴らないでください!!」


紫暖「ちゃんと学習してるじゃない」


紳漓は少し傷ついた顔になった。それでも気を取り直し、穏やかに尋ねる。


紳漓「俺の息子な、昴琉って言うんやけど」


人外D「来た!!」


紳漓「最後まで聞けや!」


人外D「知りません!! 本当に知りません!!」


紳漓が黙り込む。その沈黙だけで人外Dの顔色が真っ青になった。


人外D「殴る前の間だ!!」


紳漓「だからまだ殴ってへん!!」


朧偈「信頼残高がゼロでござる」


そこへ別の人外Eが全力疾走で駆け込んできた。


人外E「や、やめろ!!そいつに近づくな!!」


人外D「知り合い!?」


人外E「昴琉を探す怪異だ!!目を合わせるな!!」


紳漓「名前ついとる!?」


紫暖「正式名称まで付いてるわね」


紳漓「怪異ちゃうわ!!」


人外E「聞いたぞ! 息子の名前を呼ばれると精神汚染されるって!」


紳漓「誰やそんな設定盛ったん!!?」


朧偈「尾ひれどころか本体より大きくなっておるでござる」


さらに街中では掲示板にまで注意喚起(???)が貼られていた。


・褐色軍服の男型怪異に遭遇した場合


・答えても答えなくても殴られる


・逃げても追いつかれる


・発見した場合は祈ること


その内容を見た紳漓は本気で頭を抱えた。


紳漓「めっちゃ具体的やん!!」


紫暖「全部実績があるからよ」


朧偈「対処法が祈るしかない時点で怪異でござる」


紳漓は深いため息をついた。


紳漓「……俺、そんな怖いか?」


紫暖「うん」


朧偈「はい」


二人とも即答だったその時、遠くの方から悲鳴が聞こえてくる。


人外F「来たあああああ!!」


紳漓は反射的に振り返る。


紳漓「どこや!?」


そして勢いよく駆け出した。


紫暖「やめなさい!」


朧偈「父上、それ完全に怪異の動きでござる!」


だがもう遅く人外たちの間では新たな伝説がまた一つ更新されることになる。



一方その頃(N回目)


昴琉たちは比較的安全な場所で休憩を取っていた。

今日は妙に静かだと昴琉は周囲を見回しながら首を傾げる。


昴琉「今日は街が静かですね」


紗夜「そう?」


添霧は苦笑いしながら答えた。


添霧「静かなんじゃなくて、みんな息を潜めてるんだと思うよ」


恋冬も不思議そうに空を見上げる。


恋冬「なんだろう……誰か、すごく強い存在が近くにいる気がする」


昴琉は嫌な予感しかしなかった。


昴琉「……父上?」


添霧「たぶん当たり!」


昴琉は遠く離れた場所で自分の父親が新たな都市伝説になっていることなどまだ知らない。


こうして歪んだ世界には、新たな怪異(?)が誕生した


『昴琉を探す父性怪異』

人外たちの間で、その名は急速に広まっていくことになる

(なんで?)



人外たちの街は異様なほど静まり返っていた。


風が吹いても誰も振り向かず、瓦礫が崩れる音がしても悲鳴ひとつ上がらない。皆が息を潜め、物陰に身を隠している。


その理由はただひとつだった。


人外「来るぞ……」


誰かが震える声で呟く。


人外「昴琉を探す怪異だ……」


その言葉が広がった瞬間周囲の人外たちに緊張が走った。

そして建物の影から当の本人が現れる。


紳漓「なぁ」


人外たち「!!!!」


紳漓「ちょっと聞きたいことあんねんけど」


その一言で人外たちは一斉に逃走した。紫暖は額に手を当てる。


紫暖「もう完全に怪異じゃない」


紳漓「なんでや!?納得いかへんわ!」


朧偈も真面目な顔で頷いた。


朧偈「父上、存在圧が強すぎるのでござる」


紳漓「存在圧ってなんやねん!」


しかし、その抗議が届く相手はもう誰も残っていなかった。


しばらくして路地裏の奥で震えている人外を見つける。紳漓はできるだけ威圧感を消そうとしゃがみ込んだ。


紳漓「安心せえ。ちょっと聞きたいだけや」


人外「その台詞が一番怖いです!!」


紳漓「傷つくわぁ……」(割とほんとに傷ついた顔)


それでも気を取り直し本題を切り出す。


紳漓「俺の息子知らへん?」


人外「知らないです!!」


紳漓「昴琉って言うねん」


人外「聞きました!!その名前聞くと呪われるって!!」


紳漓「誰がそんな噂流したんや!!」


紫暖「あなた自身よ」


朧偈「実体験に基づいた情報共有でござるな」


紳漓「理不尽すぎるやろ……」


そこへ別の人外が全力疾走で飛び込んできた。


人外A「大変だ!!」


人外B「また出たぞ!!」


人外C「昴琉って名前を連呼しながら迫ってくる怪異が!!」


紳漓「連呼してへんやろ!!」


しかし人外たちは既に大混乱だった。


人外D「昴琉を差し出せば去るんじゃないか!?」


紳漓「差し出すな!!」


紫暖「それ本人の前で言ったら泣くわよ」


朧偈「父上、今この街で最も警戒されている存在でござる」


紳漓「俺が!?」


本人だけが状況を理解できていなかった。


一方その頃(N回目)昴琉たちは静まり返った通りを歩いていた。


普段なら徘徊しているはずの人外もほとんど見当たらないことに昴琉は妙な違和感を覚えていた。


昴琉「誰かに呼ばれている気がするんですが」


紗夜「また?」


添霧は腕を組みながら頷く。


添霧「今回は気のせいじゃないと思うな」


恋冬も小さく目を閉じる


恋冬「優しい感じがする。でもすごく必死」


昴琉は数秒考えたあと、即答した。


昴琉「父上ですね」


紗夜「早い」


添霧「納得しかないね」


恋冬は少し笑った。


恋冬「本当に大切にされてるんだね」


昴琉は照れたように視線を逸らす。


昴琉「……まあ、それは否定しません」


その瞬間、遠くの方角から大きな地響きが響いた。

ゴゴゴゴゴ……


添霧が遠くを見つめる。


添霧「あれ、多分紳漓さんだ」


昴琉「やっぱりですか!?」



再び紳漓たちの側。

人外たちを追いかけ回しながら紳漓は必死に叫んでいた。


紳漓「だから聞いてるだけやって!!」


紫暖「説得力が皆無よ!!」


朧偈は近くの掲示板を見上げる。


朧偈「むむ!怪異掲示板が更新されているでござる」


そこには新たな注意書きが追加されていた。


黒髪・父性過剰・息子連呼型怪異

視認即逃走推奨、会話は非推奨

情緒が不安定なため予測不能


紳漓「俺そんな扱いなん!?」


紫暖「だいたい合ってるわね」


紳漓「合ってへんわ!!」


そう反論した瞬間、不意に紳漓の表情が変わる。

紫暖も朧偈も同じ方向を見る。三人とも同じ気配を感じていた。


紳漓「……近いな」


紫暖「ええ」


朧偈「かなり近付いているでござる」


紳漓の今までの焦りが少しだけ落ち着く。昴琉が無事だと確かに分かったから


紳漓「よっしゃ」


紫暖「珍しく落ち着いた顔してるわね」


紳漓は小さく笑う。


紳漓「昴琉に会うまでは我慢したる」


朧偈「成長でござるな」


その背後では、人外たちがこそこそと様子を窺っていた。


人外A「去った……?」


人外B「怪異が落ち着いたぞ……」


人外C「やっぱり昴琉って存在が関係してるんじゃ……」


認識が定着していく。もちろん当の昴琉本人はそんなことを知る由もない。(というか知らない方がいい)



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