(バグった)家族愛
歪んだ世界の一角。小休止を取っていた夜刀神家では、紳漓が珍しく正座したまま難しい顔をしていた。腕を組み、眉間には深いしわが刻まれている。
紫暖はそんな姿を見て呆れたように声をかけた。
紫暖「まだ考えてるの?」
紳漓「考えるに決まっとるやろ。昴琉やぞ?長男やぞ?」
朧偈「父上、どうか落ち着きを」
紳漓「落ち着けるか!あれから一度も連絡来とらんのやぞ!」
紫暖「さっき差し入れを転送したばかりでしょ」
紳漓「差し入れとは」
紫暖「鍋ごと送った人が言わないの」
その言葉に紳漓は押し黙った。少しの沈黙の後彼は再び腕を組む。
紳漓「もしやで」
紫暖「また始まったわね」
紳漓「もし昴琉が『父上、重すぎます』言うて倒れとったらどうするんや」
紫暖「倒れないわよ」
朧偈「その場合戦犯は父上でござる」
紳漓「せやけど栄養は必要やろ!」
紫暖「その理屈で全部食べ物に繋げるのやめなさい」
朧偈も苦笑しながら頷いた。
朧偈「兄上は十分強いでござる」
紳漓「それとこれとは別問題や!」
即答。紫暖は肩をすくめる。
紫暖「ほんと過保護ね」
その時紳漓が何かを思いついたように立ち上がる。それを見た紫暖は即座に嫌な予感を覚えた。
紫暖「やめなさい」
紳漓「まだ何も言うてへんやろ」
紫暖「どうせろくでもないことだから」
紳漓は真面目な顔で宣言した。
紳漓「今回は手紙だけ送る」
紫暖「絶対だけじゃない」
朧偈「父上、落ち着きを」
紳漓は全く悪びれず頷く。
紳漓「伝えたいことがあるんや」
紫暖「ちなみに内容は?」
紳漓は指を折りながら数え始めた。
紳漓「無理するな。ちゃんと飯食え。寒ないか。靴下足りとるか。父はここにおる。以上や」
紫暖「長いし重い!」
朧偈「とても手紙一枚とは思えぬでござる」
しばらくした紳漓は、珍しく何も口にせずただぼんやりと夜空を眺めている。
紫暖はそんな姿を見て小さく首を傾げた。
紫暖「……本当に珍しいわね」
朧偈は湯呑みを差し出す。
朧偈「父上、お茶でござる」
紳漓「ああ……」
受け取った茶を一口飲み、それでも表情は晴れない。
紳漓「…昴琉は、今頃ちゃんと休めとるやろか」
紫暖「たぶんね」
紳漓「寒ないやろか」
紫暖「心配しすぎよ」
紳漓は肩を落とした。
紳漓「傍におらんいうんは、こんなにも落ち着かんもんなんやな……」
普段なら騒がしいほど元気な彼が今夜は本当にしんみりしている。
朧偈「父上……」
紫暖「今日はそっとしておくのよ」
二人がそう話したその時だった。闇の奥から草木をかき分ける音が響く。
ガサッと不穏な気配と共に数体の人外が姿を現した。
人外A「……人の匂いだ」
人外B「力もありそうだな」
人外C「奪えばいいな」
紫暖「あ」
朧偈「……」
紳漓「…………」
ゆっくりと立ち上がった紳漓は静かに振り返る。
そして
紳漓「今しんみりしとる最中やろがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
人外達「!?」
次の瞬間地面が爆ぜた。
ドンッ!!
人外A「な、なんっ」
バキィッ!!
人外B「ぎゃあっ!」
ズドォン!!
人外C「待っ!!!?」
ドゴォ!!!
紳漓「邪魔するな!!父親の情緒を!!踏み荒らすなやぁ!!」
紫暖「八つ当たりが酷いわね」
朧偈「父上、加減を」
紳漓「しとるわ!!」※してない。
ほんの数十秒後。そこには見事に積み上がった人外の山だけが残っていた。(恐怖)
夜風が静かに吹き抜ける。
紳漓は袖を払って息を整えると何事もなかったかのように座り直した。
紳漓「落ち着いた」
紫暖「どこがよ」
朧偈「大丈夫でござるか?」
紳漓「ああ……少しな」
そう答えながらも視線は遠く
紳漓「……昴琉に会いたいわ」
紫暖「知ってる」
朧偈「にんにん……」
しばらく沈黙が流れた後、紳漓はぽつりと呟く。
紳漓「次に邪魔する奴が来たらな」
紫暖「来たら?」
紳漓「泣く」
紫暖「うわ最悪」(辛辣)
朧偈「それは困るでござるな」
夜刀神家の空気は少しだけ和らいだ。
――その頃。
遠く離れた歪んだ世界では昴琉がふと顔を上げていた。
昴琉「…今、誰か怒鳴りませんでした?」
添霧「気のせいじゃないかな!…たぶん!」
紗夜「でも、なんとなく聞こえた気もする」
恋冬「……すごく強い人なんだね」
昴琉は何とも言えない顔で苦笑した。
昴琉「ええ。強いですよ。色々な意味で」
こっちサイド
つい先ほどまで暴れていた人外たちは今や見事な山となって地面に転がっていた。
辺りは静まり返り、夜風だけが吹き抜ける。
紳漓は腕を組んだままその山をじっと見つめていた。
紫暖「……やめてよ?」
紳漓は返事もせずゆっくりしゃがみ込む。
紫暖「本当にやめて?」
紳漓「いや、この人外共に聞けばな」
紫暖「やめなさい」
紳漓「昴琉の居場所くらい分かるんとちゃうか思って」
紫暖「や め な さ い」
しかし紳漓は聞いていない。近くの人外を指先でつつく
紳漓「なあ俺の息子知らへん?」
紫暖「 や め て 」
もちろん返事はない。紳漓は首を傾げた。
紳漓「答えてくれへんなぁ」
紫暖「聞こえてないのよ」
今度は別の人外をつつく。
紳漓「昴琉いうんやけどな。真面目でな、無理しがちでな」
紫暖「説明まで始めないで」
その横で朧偈がしゃがみ込み人外たちの様子を確認していた。
そして数秒後静かに顔を上げる。
朧偈「……父上」
紳漓「ん?」
朧偈「この人外達、息をしておらぬでござる」
紳漓「……」
朧偈「……」
紳漓「……あ、ほんまや」
紫暖「気づくの遅すぎるわ」
紳漓はしばらく黙り込み、それでも諦めきれない様子で人外の山を見つめる。
紳漓「いや、でもな?」
紫暖「でもじゃない」
紳漓「魂とかそういう感じで何か残っとるかもしれへんやん」(?)
紫暖「残ってないわ」
朧偈「情報収集は失敗でござるな」
紳漓は見るからに肩を落とした。
紳漓「…昴琉……」
紫暖「はいはい」
紫暖は苦笑しながら背中を軽く叩く。
紫暖「そのうち会えるわよ」
紳漓「ほんまに?」
紫暖「ええ」
紳漓は少しだけ安心した顔を見せたものの、次の瞬間にはまた妙なことを言い出した。
紳漓「ほな次は、生きとる人外に聞くか」
紫暖「やめなさい」
朧偈「それはただの尋問でござる」
紳漓「……差し入れ…転送するか」
紫暖「事故になるからやめなさい」
朧偈「前回の被害を忘れたのでござるか」
紳漓「今回は手紙だけや」
紫暖「その台詞を信用できると思う?」
紳漓「……」
何も言い返せなかった。
その頃、遠く離れた歪んだ世界の片隅で昴琉がふいに肩を震わせた。
昴琉「……なんでしょう」
恋冬「どうしたの?」
昴琉「今、妙な寒気が……」
添霧「父親レーダーじゃないかな!」
紗夜「そんなものあるの?」
添霧「あるよ! たぶん!」
昴琉は遠い目をした。
昴琉「否定しきれないのが嫌なんですよね……」
恋冬は小さく笑う。
恋冬「すごく大切にされてるんだね」
昴琉「…まあ、それは否定しません」
そして同時刻に夜空を見上げていた紳漓は、なぜか盛大なくしゃみをした。
紳漓「え"ーっくしゅ!!!」
紫暖「だから考えすぎなのよ」
朧偈「にんにん」
父の愛は今日も重かった(ふたつの意味で)
ネタ系が続くのが苦手な方は「やっとの再会」や「初めて思えた」辺りまで飛んでいただければ!




