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幽間世界  作者:
25/83

騒がしく、静かな夜



屋上は静かだった。人も少なく、街の音だけが遠くで低く鳴っている。


ネオンがゆっくり瞬いて、夜を塗り替えるみたいに光っていた。


添霧は柵の外側にふわりと浮かび、紗夜はその隣に立っている。


しばらく言葉はなかった。


添霧「都会ってさ、明るいのにちゃんと夜だよね!」


紗夜「ん」


添霧「墓地は暗いけど…夜って感じしなかった!」


紗夜は小さく頷く


紗夜「……分かる」


風が吹いて服の裾が揺れた。

そのまま、紗夜は何気なく……ほんとに何気なく言った。


平穏な日常の合間にふと言っちゃうような感じで


紗夜「……ねえ、添霧」


添霧「ん?」


紗夜「ずっと一緒にいられる?」


一瞬空気が止まる。


添霧「……え」


紗夜「……」


添霧「え?どのずっと!?今日!?明日!?来週!?単位欲しい!!」


紗夜は少し首を傾げる。


紗夜「…別に、深い意味じゃない」


紗夜「ただ…今みたいなのが続くか聞いただけ」


添霧は数秒固まってそれから息を吸った


添霧「うん!」


即答だった。


添霧「一緒にいられるよ!僕消える予定ないし!勝手についてくし!」


紗夜「…そ」


添霧「むしろ離れる理由ある!?」


紗夜「重くない?」


添霧「全然!!」


紗夜は少しだけ目を細める。


紗夜「……なら、よかった」


添霧はふわっと近づいた。


添霧「紗夜もさ、無理にずっとって思わなくていいよ!今日でも、今でも、一緒ならそれでいい!」


紗夜は少しだけ考えてから。


紗夜「…合理的」


添霧「褒めてる?」


紗夜「たぶん」


二人はまた夜景に視線を戻した。街の光が遠くで静かに瞬いている。


添霧「ねえ、紗夜」


紗夜「…なに」


添霧「今日、ちょっと笑ってた!」


紗夜「…錯覚」


添霧「錯覚じゃない!!」


紗夜「証拠は」


添霧「今の空気!!」


紗夜「…曖昧」


曖昧で、軽くて、確かだった。今はまだそれで十分だった。


ただ一つだけ確かなことは、二人は同じ夜景を見て、同じ時間の中に立っているということだった。


夜風は相変わらず柔らかく吹き、ネオンの光は遠くで瞬き、屋上には静けさが戻りかけていた。


紗夜と添霧は並んで夜景を見ていた。


紗夜「……」


添霧「……」


いい空気だった。ほんとに、


……何も起きなければ完璧だった。


紳漓「おい見ろ見ろ!!あの二人!!」


紗夜「……」


添霧「え?」


紳漓「完全にええ雰囲気やん!!」


昴琉「父さん、声……」


紳漓「いやこれ見守る側の正しいテンションやろ!!」


朧偈「にんにん!恋の気配を感知したでござる!!」


紗夜「……」


紫暖「ふふ、静かにね」


紫暖はそう言いながら普通に覗いていた。


添霧「ちょ、ちょっと待って!?聞いてたの!?」


紳漓「全部や!!ずっと一緒ってやつ!!」


添霧「やめて!!それ言わないで!!」


朧偈「一生の誓いでござるな!!」


添霧「軽い!!それ軽いやつ!!」


紗夜はゆっくり振り返った。


紗夜「…騒音。夜景が台無し」


全員「「「あ」」」


紫暖「ご、ごめんなさいね……」


紳漓「いやでもな!?これは親心というか」


紗夜「…関係ない。静かにして」


紳漓「はい」


即答だった。それでも……


朧偈(小声)「にんにん…あの距離感……もう夫婦でござる……」


昴琉「…朧偈、静かに」


朧偈「でも兄上も羨ましそうにしてるでござる」


昴琉「」


紳漓「無理や!!微笑ましすぎるやろ!!」


添霧「もう無理だよこれ!!」


紗夜「……帰る?」


添霧「うん……!」


紫暖「いい夜ね」


紳漓「ほんまやなぁ……うるさかったけど」


昴琉「うるさすぎでした」


朧偈「にんにん!次はもっと上手く隠れるでござる!」


昴琉「反省して」


一方その頃エレベーター前。


添霧「いや〜騒がしかったね」


紗夜「…騒がしい」


添霧「でもさ」


紗夜「……なに」


添霧「嫌じゃなかったでしょ?」


少しだけ間があって。


紗夜「…まあ、少しだけ」


添霧「やった!!」


添霧は笑った。


添霧「静かじゃない夜も、案外悪くなかったね」


紗夜はほんの少しだけ視線を外して。


紗夜「…うん」


静けさは一度壊された。


でもその代わりに、ちゃんと残ったものがあった。


それは少しだけ賑やかで、少しだけ温かい夜だった。


しんみりいい空気の為だけに区切りました

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