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幽間世界  作者:
19/83

狙われた理由と追跡



玄関の戸を開けた瞬間


紳漓「はぁ!?紗夜一人で出たって!?」


紳漓の大声が家中に響き渡る。


紫暖「ちょ、あなた落ち着いて」


すぐに紫暖が前へ出たがその視線は真っ先に紗夜へ向いている。


紫暖「それより怪我は大丈夫?」


紗夜は靴を脱ぎながら淡々と答えた。


紗夜「…ない」


紫暖「本当に?」


紗夜「…見ての通り」


言葉を聞くより早く、紫暖は紗夜の肩や腕、首元を確かめる。


触れ方は優しいけれど決して適当ではない。本当に怪我がないか一つ一つ確認している。


紫暖「……良かった」


その声には、心からの安堵が滲んでいた。


朧偈「兄上も添霧殿も心配していたでござる!」


少し遅れて朧偈が顔を出す。


朧偈「にんにん…無事で良かったでござるね!」


添霧「ほんとだよ!」


添霧も大きく頷く。


添霧「めちゃくちゃ焦ったんだからね!?」


昴琉は少し離れた場所に立ったままだった。表情は硬い。


昴琉「……俺の判断ミス、」


紫暖「昴琉」


静かな声がそれを止める。


紫暖「今は責める時間じゃないわ」


昴琉は何も言わず唇を結んだ。


紳漓は怒りを抑えるように大きく息を吐く。


そして真っ直ぐ紗夜を見た。


紳漓「……で。何があった」


居間には全員が集まっていた。

紗夜は必要なことだけを順番に話す


夜道を歩いていたこと、現れた人外、拘束されたこと


……昴琉と添霧が助けに来たこと。誰も口を挟まないで最後まで聞いていた。


紗夜「…その人外」


少しだけ間を置く。


紗夜「私のことをそう言った」


紳漓の眉がわずかに動いた。


紳漓「…ほう」


紗夜「それから」


紗夜は視線を落とす。


紗夜「…次は、一人の時を選ぶって」


部屋の空気が重くなった。添霧は思わず拳を握る。


添霧「…僕たちが来たから引いたんだ」


紗夜「うん。」


昴琉が低い声で続ける。


昴琉「狙いは最初から紗夜さん個人かと。偶然じゃないです」


紫暖も静かに頷いた。


紫暖「人間が希少だから…それだけでは説明がつかないわね」


紗夜は少し考えてから言った。


紗夜「…利用価値があるってことかもしれない」


紳漓の表情が険しくなる。


紳漓「……厄介やな」


家族を守る者の声だった。

しかし次の瞬間には紗夜へ向き直る。


紳漓「せやけど、一人で背負う話やない」


紗夜は答えなかった。代わりに小さく視線を伏せる。


紗夜「……私、巻き込んでる」


その言葉に、紫暖がすぐ返した。


紫暖「違うわ」


迷いのない声だった。


紫暖「助けを必要とすることは、迷惑じゃない」


紗夜は顔を上げる。


紫暖「それを迷惑だと思わせる世界の方が間違っているの」


朧偈は勢いよく立ち上がって


朧偈「その通りでござる!」


添霧「びっくりしたあ!?」


朧偈「紗夜殿はもう家族でござる!にんにん!」


添霧も前へ出る。


添霧「さな、」


紗夜がじっと見る。


添霧「…っあ、…紗夜」


すぐに言い直した。


添霧「ごめん、でもさ!一人で行かないって約束したよね!」


紗夜はしばらく黙って、それから小さく頷く


紗夜「……うん」


その返事に添霧はようやく安心したように笑った。


話し合いが終わる頃には時計の針もかなり進んでいた。


家の中には確かな温もりがある。紳漓は腕を組みながら言った。


紳漓「……明日からや」


全員の視線が向く。


紳漓「外出は必ず二人以上。護身も続ける」


紗夜「…ごめん」


紳漓「ここは謝罪じゃなく了承するとこや」


紗夜「……わかった」


その返事は以前より少し柔らかかった。

命令だから従うのではなく、心配してくれていることを理解した返事だった。


紫暖はその様子を見て静かに微笑む。


紫暖(……この子は、少しずつ変わっている)


誰かに守られることを受け入れ始めて、誰かを頼ることを覚え始めている。


遠くで風が鳴った。あの人外はまだどこかにいる。


危険は終わっていないけれど今は違う。

帰る場所が、待ってくれる人がいる


そして何より…紗夜はもう一人ではなかった。




夜刀神家が眠りに落ちた頃、家の中は静まり返り、時計の針の音だけが規則正しく響いていた。


添霧は廊下付近に浮いている。眠る必要のない彼にとって、夜はいつも活動する時間だ。


最初は本当に些細な違和感だった。空気が少しだけ重い。添霧は壁に手を当てる。


添霧「……ん?」


冷たいがそれだけではない。


添霧(……冷たすぎる?)


幽霊である彼が感じ取るのは温度ではない。生と死と境界の重なり方だった。


添霧「……これ」


ゆっくりと廊下を進む。居間を通り、庭へ続く縁側へ向かう。


目に見える異常は何もない。それでも確信だけがあった。


添霧……いる


添霧は静かに外へ出た。


月明かりに照らされた庭。その端にある木の影だけが、不自然なほど濃く沈んでいる。


声を出さず近づくと、そこには姿こそないものの確かに何かの痕跡が残されていた。


添霧(闇の匂い?)


さらに感覚を研ぎ澄ませる。


添霧(…でも、あの時と違う)


眉をひそめる。


添霧(……あれ?これ、さなに向いてる)


残された気配は無差別ではなかった。まるで紗夜がいた場所を追うように細く長く伸びている


添霧「……」


胸の奥がざわついた。


添霧(……追ってるんだ、今も)


その時だった。


紗夜「……添霧?」


背後から小さな声が聞こえる。

振り返ると少し大きめな寝巻きを来た眠そうな紗夜が立っていた。


紗夜「…どうしたの」


添霧「起こした?」


紗夜「…目が覚めただけ」


添霧は一瞬だけ迷った。しかし何も言わないわけにはいかなかった。


添霧「ねえ、さな」


紗夜「紗夜」


添霧「あ、ごめん!」


慌てて言い直す。


添霧「……でもさ」


声を落とす。


添霧「もう今後は外出ないで」


紗夜「…わかってるけど、なんで」


添霧「まだ言えない」


紗夜はしばらく添霧を見つめ、それから静かに頷いた。


紗夜「……わかった」


その素直な返事に、添霧はかえって不安を覚えた。


紗夜が部屋へ戻っていく背中を見送りながら添霧は夜空を見上げる。


月は何も知らないように静かに輝いていた。


添霧(…まだ始まってないけど、もう見られてる)


あれはもはや偶然の遭遇ではなく追跡だ。

添霧は拳を握りしめた。


添霧(……次は、絶対に一人にさせない)


夜は何事もない顔をして続いていく。


しかし、その静けさの裏で確かな変化が始まっていた。


異変は、もうすぐそこまで来ていた。



ちょっと怒ってる紳漓さんの書き方が分からなかった…


怒鳴らせすぎると毒親になるし楽観視しすぎるのは違うなって

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