消えない夜が蘇る
ご飯はとっくに食べ終わり、みんなはすっかり寝静まった深夜
紳漓「……っは、!!」
紳漓は息が詰まるような感覚で目を覚ました。
額には汗が滲んでいる。
暗い部屋の中を見回しても見慣れた天井しかない。
紳漓 (……またか)
悪夢の内容はいつも同じだった。
まだ能力を使ったことがない頃、双子は今よりずっと小さくて、紫暖も少し若かった。
紫暖「ちゃんと前見て歩きや」
紳漓「はいはい」
笑いながら返事をして、二人で子どもたちを抱えて歩いていた。
夜道だったがあの頃は怖くなかった。
……けれど、その時だった。
空気が変わったと同時に前方に立つ影を見た瞬間、嫌な予感が全身を走った。
紳漓「……紫暖」
自然と声が低くなる。
紳漓「子ども連れて先行って」
紫暖「で、でもあなた」
紳漓「先行き。」
紫暖は一瞬だけ迷ったがすぐに頷いた。
紫暖「…必ず戻ってきて」
紳漓「当たり前や」
そう言って笑ってみせたが
……その約束は守れなかった。
人外は強く、何度立ち上がっても叩き伏せられ、気付けば地面に膝をついていた。
それでも諦めるつもりはなかった。
なのに次の瞬間、影は紳漓を無視するように背を向けた。
向かった先は紫暖たちのいる方角
紳漓 (待て、!)
そう叫んだつもりだったけれど声は出ないまま、紳漓の意識は落ちた
意識が戻った時、夜は不気味なほど静かだった。
紳漓「……紫暖」
震える声で名前を呼びながら走る。
走って、辿って、時に崩れそうになりながらも辿り着いた
…そこにあったのは、倒れた妻と傷ついた息子たちの姿だった。
紫暖は動かない。
紳漓「……なんで…」
抱き起こしても返事はない。
紳漓「……起きてや、」
何度呼んでも揺すっても返ってこない。
その瞬間、胸の奥で何かが壊れた。
守れなかった。
奪われた。
後悔も怒りも恐怖も、全部が一気に溢れ出したその時、
__初めて、能力が応えた。
兵たちが現れ影を追い詰める。
紳漓も必死で立ち上がり大剣を振るった。
勝ったのかどうかも分からないほど。
けれど戦いが終わって振り返った時も、紫暖は戻ってこなかった。
紳漓「……っ、はぁ……」
夢から覚めた紳漓は、強く拳を握り締めた。
今は違う。紫暖はいる。子どもたちもいる。
…それでも胸の奥の傷は消えない。
その時襖の向こうから小さな足音が聞こえた。
紗夜「起きてる?」
紳漓「…起きとる」
紗夜「……夢?」
紳漓「まあな」
それ以上は聞いてこない。紗夜は少し考えてからぽつりと言った。
紗夜「…今日の斬り方、怖くなかった」
紳漓は小さく目を細めた。
紳漓「……そうか」
紗夜「教えてくれて、ありがとう」
紳漓「…こちらこそや」
短い沈黙が流れ、やがて紗夜は静かに続ける
紗夜「…守れなかった過去があっても、今誰かに教えられるなら」
紳漓「……?」
紗夜「それは意味があると思う」
紳漓は思わず息を吐いた。
紳漓「…ほんま君は、大人みたいなこと言うな」
紗夜「……事実」
小さく笑いが漏れる。
夜はまだ深いけど、過去は確かに今へ繋がっていた。
家の中は静まり返っていて、時計の針の音だけがゆっくりと時間を刻んでいる。
紳漓は居間に一人で座っていた。
灯りは落としてあるのにどうしても目を閉じることができない。
夢の残滓がまだ胸の奥に引っかかっているような感覚
紳漓「……」
静寂の中で息を吐いたその時だった。
紫暖「……起きてたのね」
背後からやわらかな声が聞こえる。
振り返ると紫暖が立っていた。夜の光を受けたその姿は昼間よりもずっと静かで穏やかに見える。
紳漓「ああ」
紫暖「…夢、見たでしょう」
その問いかけに紳漓は否定しない。
紫暖はゆっくりと歩み寄り、音も立てずに隣へ腰を下ろした。
紫暖「…同じ夢?」
紳漓「何回目やろな」
紫暖「何回でも見るわよね」
紫暖は少しだけ微笑む。
紫暖「だって…あれは、あなたが一生忘れられない夜だもの」
その言葉の後に訪れた沈黙は決して重苦しいものではない
けれど紳漓の肩はわずかに強張っている。紫暖はそっと手を伸ばして
…そして迷いなく、紳漓を抱き寄せる。
紳漓「……っ」
驚くほど温かかった。
紫暖の体温や心臓の鼓動は、確かに今ここにいる存在。
紫暖は優しく背中をさすりながら、静かな声で言った。
紫暖「大丈夫」
落ち着かせるように…ゆっくりと
紫暖「私は、今ここに居るから……」
その言葉に紳漓の喉が小さく鳴る
紳漓「…今度は……」
声が低く震える。
紳漓「絶対、守り抜くから…」
紫暖は一瞬だけ目を伏せ、少し呆れたように笑う
紫暖「はいはい。無理しない事ね〜」
その軽い口調はいつもの紫暖だった。
けれど、抱きしめる腕だけは決して緩めない。
紫暖「あなたはね、守る人が多すぎるの」
紳漓は何も言わない
紫暖「だから、全部一人で背負おうとする」
そう言って背中を軽く叩く
紫暖「私は、もう守られるだけの存在じゃないわ」
紳漓「……」
紫暖「それに」
少しだけ顔を上げて、紫暖は続けた。
紫暖「あなたが今守ってるのは、私の代わりじゃない。今ここにいる、ちゃんと生きてる子たち」
紳漓「…ああ。分かってるつもりや」
紫暖「つもり、じゃだめ」
即答だった。
紫暖「ちゃんと、分かって」
紳漓は黙ったまま視線を落とす。紫暖はそっと額を寄せた。
紫暖「あなたはもう、間に合わなかった人じゃない」
紫暖「今、守れている人よ」
その言葉は静かだけれど深く胸へ染み込んでいく。
気づけば、紳漓の肩から力が抜けていた。
紳漓「紫暖」
紫暖「なあに」
紳漓「……ありがとう」
紫暖は答えずただ優しく背中を撫で続ける。
夜はまだ終わらない
失ったものを忘れたわけではない
傷が消えたわけでもない
それでも今は隣に温もりがある
確かに失われたはずのものが確かにここにある。
その事実だけでこの夜は少しだけ優しく感じた
私はこういう愛のある夫婦大好きです
それはさておきありがとうなのかおおきになのか分からなくてとりあえず標準語にしてしまいました




