普通な家へ
紳漓「ほな、行こか」
紳漓は大剣を肩に担いだまま歩き出した。
紗夜「どこに」
紳漓「俺の家」
添霧「え、い、家!?」
紳漓「せや」
あまりにも軽い。
添霧「えっと……」
紳漓「怪しいやろ?」
添霧「……はい」
紳漓「正直でよろしい」
紳漓は声を上げて笑う。
紳漓「でもな、君と同年代くらいの双子の息子もおんねん」
紗夜「……」
紳漓「あと妻もな」
添霧「奥さんいるんだ!?」
紳漓「おるおる」
添霧「家族持ちだったんだ!」
紳漓「さっき言うたやろ」
添霧「あ、ほんとだ!」
紳漓「普通の家族や」
添霧は少しだけ紗夜を見る。
添霧「どうする?」
紗夜「…行く」
迷いはない
添霧「即決だ」
紗夜「……ここに残る理由、ない」
紳漓「やな!」
満足そうに頷く。
紳漓「ほな決まりや」
夜道を三人で歩く。
街灯の下を抜け、細い路地を曲がり、少し広い通りへ出る。
静かな夜だった。
……添霧が喋らなければ。
紳漓「しかし君、幽霊のくせに元気やな」
添霧「えっ、そう!?」
紳漓「さっきまで必死やったのに切り替え早すぎや」
添霧「いや〜!守らなきゃって思うとテンション上がるんだよね!」
紳漓「それ、父親目線やと微笑ましいけどな」
添霧「えっ、僕お父さん!?」
紳漓「将来性あるで」
添霧「ないない!!」
紳漓は楽しそうに笑った。その横で紗夜は黙って歩く。
会話には入らないが、離れもしない。
紳漓「お嬢ちゃん、喋らんけどしんどない?」
紗夜「……大丈夫」
紳漓「ほなええわ」
それ以上は聞かず無理に踏み込まない。
その距離感が紗夜にとっては楽。
不意に、前方の闇が揺れた。
紳漓「……来るで」
足が止まる。
街灯の届かない場所から黒い影が這い出してきた。
先程の人外ほど強くはないが明らかに普通ではない何か。
添霧「またかぁ!」
紗夜の前へ出るように浮かぶ。
添霧「さな、下がって!」
紗夜「……」
言われる前に一歩下がる。
紳漓「歩兵、前」
空間が揺らぎ、甲冑の兵士が現れて迷いなく前進する。
人外が飛びかかった瞬間剣閃が走り、一体が霧のように崩れる。
もう一体は反転して逃走。
紳漓「弓兵、頼むわ」
放たれた矢が夜を裂く。
影を貫いた瞬間、人外はそのまま霧散した。
静寂が戻る。
添霧「相変わらずすごい……」
紳漓「慣れや慣れ」
紳漓は何でもないことのように言った。
紗夜「…早い」
紳漓「この辺、夜は治安悪いねん」
紗夜「…昼は普通だった」
紳漓「夜は本音出るからなぁ」
紗夜「……人外も?」
紳漓「せや」
軽い声だったけれど妙な重みがあった。
再び歩き出す。
添霧「そういえばさ!」
紳漓「ん?」
添霧「双子って似てるの!?」
紳漓「似とるようで似てへんな」
添霧「へぇー!」
紳漓「兄の方は真面目」
添霧「うんうん!」
紳漓「弟の方は少しアホっぽい忍者や」
添霧「かわいそう!!」
紳漓「事実やからしゃーない」
添霧「本人に怒られるよ!?」
紳漓「そんなことないでw」
そんなやり取りを聞きながら歩いていると、紳漓がふと思い出したように言う。
紳漓「そういや君、名前なんて言うん?」
添霧「僕?添霧!」
紳漓「ちゃう」
添霧「え?」
紳漓「さっきの人間の子や」
添霧「あっ」
慌てて振り返る。
添霧「さ、さな!」
紗夜「…私、紗夜」
添霧「ごめん!また間違えた!」
紗夜「……いつもの」
紳漓が吹き出した。
紳漓「君ら、ええコンビやな」
添霧「えっ、そう!?」
紳漓「一人はうるさくて」
添霧「うん!」
紳漓「一人は静か」
紗夜「……否定しない」
紳漓「せやろ?」
しばらく歩くと景色が変わる。
住宅街だった。
灯りのついた家々が並び、どこか安心するような夜の匂いがする。
添霧「おぉ……」
紗夜も少しだけ周囲を見る。
さっきまでの物騒な路地とはまるで違う。
紳漓「ほら、あそこ」
指差された先に一軒の家があった。
添霧「普通だ」
紗夜「…普通」
紳漓「せやで」
どこか誇らしげに笑う。
紳漓「普通が一番や」
家の前で足を止める。
紳漓「ここが俺ん家や」
振り返り二人を見る。
紳漓「今日はここで休み」
添霧「……」
紗夜「……」
紳漓「文句あったら朝に言ってええ」
紗夜「……分かった」
添霧「ありがとう!」
深々と頭を下げる。
添霧「命の恩人や!」
紳漓「大げさやなぁ」
そう言いながら鍵を取り出す。
玄関の灯りが夜に浮かんでいた。
紳漓「ま、家族紹介はー」
ちらりと時計を見る。
紳漓「次やな」
鍵が回る音がする。
夜はまだ終わらないけれど、今度は帰る場所の灯りが目の前にあった気がした。
関西人の人怒らせるんじゃないかと少し怯えながらセリフ書いてます




