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涼子は嘆息すると、美鈴に目を向ける。美鈴がうなづくと、涼子は小春のほうに視線を戻した。
「いろいろ言動は面倒そうですが、あなたの実力が本物なのは聞いています。今日はよろくしお願いしますね、小春さん」
「よろしく頼むわ」
パーティを組む仲間として、涼子と美鈴が挨拶をしてくる。
二人から声をかけられて小春は面食らっていたけど、すぐにニパ~と笑顔になった。
「はい、よろしくお願いしますね。二人ともミヨリちゃんとパーティを組むのは怖いかもですけどぉ、そこは遠慮せずにビビりちらかしていいですよ! バンバン悲鳴をあげちゃってください! 大丈夫大丈夫! ミヨリちゃん経験者のわたしがついてますからね!」
小春は上から目線でアドバイスすると、自慢げに胸をそらす。
その物言いにイラッとした美鈴は、片眉をヒクつかせる。
:小春ちゃんマウント取ってきたwwwww
:どんなマウントの取り方だよwwww
:ミヨリちゃんとパーティを組んだことがあるからって、調子に乗ってるなwww
ほがらかに笑っている小春を見ながら、涼子は世間話でもするみたいに軽い口調で問いかけた。
「そういえば先ほど仰ってましたけど、ミヨリさんとパーティを組んだおかげで小春さんはチャンネル登録者数がとても増えたそうですね。いまどれくらいなのか、尋ねてもいいでしょうか?」
質問を受けると、小春は目尻を下げてとろけそうな笑みを浮かべた。
「えぇ~、それ聞いちゃいますぅ~! このまえ超高難易度の伝説のダンジョンを攻略しちゃったからなぁ~! わたしもそこそこ人気が出てきたんですよぉ! なんとチャンネル登録者数が5万人を突破しちゃいましたぁ~! いや~、もうこれ人気配信者の仲間入りしちゃったかなぁ~!」
うへへへ、すみませんねぇ、と小春は笑いながら頭の後ろをかいてくる。
:うっっっっざwwwww
:相変わらずのウザさwwww
:がんばったからね、相応の報酬があってもいいだろwww
:実際『常闇の迷宮』の攻略以降、小春ちゃんの配信は視聴者が何倍にもふくれあがったからなwww
:それでもっと視聴者を増やしたくて、怖いけどがんばって今回のダンジョン攻略にも来たわけかwww
「まぁ! 5万人だなんて驚きです! なんてすごい数なんでしょう!」
涼子は大きく目を見開いて、ちょっとオーバーなくらいリアクションをしてみせる。そしてすぐに平静な面持ちになると、美鈴のほうを横目で見てきた。
「ところで美鈴さん。わたしや美鈴さんのチャンネル登録者数は、いまどのくらいでしたっけ?」
「二人とも、30万人くらいはいるわよ」
それを聞いた途端、小春は「がはっ!」と吐血はしてないけど、それっぽい音を口から出して、ガクリと膝から崩れた。
「そ、そんなバカな! チ、チャンネル登録者数30万だとぉ!」
小春は四つん這いになって全身をわなわなと震わせると、地面に向かって叫んだ。
:小春ちゃん敗北www
:めっちゃダメージ受けてるwwww
:【注意】血は吐いてません
:チャンネル登録者数は別に戦闘力の高さじゃないぞwwww
:小春ちゃん戦闘力を測る装置が壊れたときみたいなリアクションwwww
:ミヨリちゃんの戦闘力を測ったら壊れそうだがwwww
:ミヨリちゃんの戦闘力は高すぎるので、その数字を目にしたら発狂しますwwww
「ふふっ、スッキリしました。とてもよい気分です」
地面に崩れた小春を見下ろしながら、涼子はツヤツヤの笑顔を浮かべる。
さすがに子供相手にやりすぎたかと、美鈴は苦い顔をしていた。
:腹黒さん良い笑顔だなwww
:人の不幸が大好物なのかな?
:それもう悪魔じゃねぇかwww
:ツンデレちゃんみたいに良心の呵責をまったく感じてないなwww
スマホ画面を見下ろしてコメントをチェックしていたミヨリは、地面に四つん這いになって「うぅ……」と嘆いている小春に声をかける。
「小春ちゃん。落ち込んでいるところ悪いけど、立ってもらえるかな? あんまりここで長話していたら、視聴者が飽きちゃうからね。そろそろダンジョンにもぐりたいんだ。一人で立てないようなら、わたしが立たせてあげるけど?」
ミヨリの足元にある影が、さざ波のように揺らめく。
それを見た小春は背中に冷たいものを感じて、シュバッと立ちあがった。
「そ、そうだね! いつまでもここで長話してちゃいけないよね! は、早くダンジョンにもぐらないとだね!」
小春は額に脂汗をにじませながら、ぎこちなく笑う。それを見ていた綾乃は「容赦ないな」と思った。
:小春ちゃんめっちゃ速く立ちあがったwwww
:こんなにきびきび動けたんだな小春ちゃんwwww
:強制起立www
:もう小春ちゃんは調教済みなのでwww
小春が問題なく動けそうなので、ミヨリは安心する。
ダンジョンの入り口であるゲートに足先を向けようとしたら……近くから視線を感じた。
美鈴が何か言いたそうに、ジーッとこっちを見ている。
気になったので目を向けてみると、すぐに美鈴はプイッと顔をそむけてきた。
「……やれやれですね」
涼子が首を振って呆れていた。
引っかかりはするものの、今は配信のほうが優先だ。
「それじゃあ行きましょうか」
一緒にダンジョンにもぐる仲間たちに呼びかけて、ゲートに歩み寄っていく。
他の五人も、ミヨリに続くようにゲートに近づいていった。
綾乃は緊張しているけど、気を引き締めている。
玲奈はまたミヨリの活躍を見られるのがうれしいのか、余裕のある笑みを浮かべていた。
小春はチャンネル登録者数のことをまだ引きずっていて、少しだけションボリしている。
涼子は呼吸を落ち着けて、冷静な表情で歩みを進めていく。
そして美鈴は「今度こそは……」とミヨリの背中を見ながら、つぶやいていた。
先頭に立つミヨリは空間にあいた大きな穴の前まで来ると、胸を高鳴らせながら踏み込んでいく。
新たに出現したダンジョン『明星の導き』の攻略を開始する。




