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乾いた風が吹きつけてくる赤い荒野を、ミヨリたちは進んでいく。
歩いていたら異界の強化種である真っ赤な体色をしたガーゴイルやバジリスク、それにグレーターデーモンたちが次々と襲いかかってきた。
ドゴッ! ビシャ! バシュッ!
……が、ミヨリがデコピンで弾き、触手を振るうことで、パパッと瞬殺。ハイスピードで光の柱までの距離を縮めていった。
:やっぱ異界の強化種も相手にならねぇwwww
:異界のモンスターたちがこんな簡単に蹴散らされてるのはじめて見たwwww
:初見の海外ニキたちがビビってるようだwwww
:探索者の人がこの配信見てたら頭おかしくなるってSNSに書いてたなwwww
:探索者じゃなくても頭おかしくなりそうだがwwwww
:異界のモンスターから何個か魔石をドロップしてたけど、安定のスルーだったwwww
:周りにも見たことない枯れた植物とか生えてるけどスルーされてるなwwwww
:どの素材も売買したらすごい価値になるだろうにwwww
:さっきから母さんが隣で「むきいいいいいいいいい!」ってわめいてる……(父より)
:自宅で荒ぶるおかんwwww
:おとんの家にもオサルさんが出てきたwwww
:おかん落ち着けwwww
:ミヨリちゃん人形「ミヨリちゃんしゅごおおおおおおおおおおおおおおい!」(大親友)
:いきなり人形に叫ばせるなwwww
:大親友ちゃんも落ち着こうねwwww
:異界も掃除しててミヨリちゃんえらい! かわいい! しゅぴぽっ!
:これのどこにかわいい要素がwwww
:はぁ? デコピンと触手で異界のモンスターたちを消し飛ばしてんだぞ! どう見てもかわいいだろ!(白目)
:「しゅぴぽっ」ってなんッスか先生wwww
異界のモンスターたちを秒殺しながら進んでいくミヨリに、涼子と美鈴は身体を震わせる。
綾乃もそろそろ心を無にすることが困難になってきていて、モンスターたちを消し飛ばす友達に普通に引いていた。
玲奈はうなづいて感心しつつも、「なんだろうこれ?」とビビっている。
「イ、イツもの、いつもの、いつものことダヨー」
小春はロボットみたいになろうとするが、人間の心があるので恐怖を感じずにはいられなかった。
:小春ムリすんなwwww
:もうロボのフリして自分をごまかすことはできないかwwww
:小春ちゃんはロボットにはなりきれなかったwwww
:さすがの代表も異界では彼氏面できずにビビりはじめてるなwwww
:ムラサメよ、まだ無の境地には到っておらなかったか(師匠面)
仲間たちのリアクションに、多くのコメントが書き込まれていく。
前進しつつ異界のモンスターたちを蹴散らしていたミヨリだったが、その足をぴたりと止めた。
:ん?
:どうしましたミヨリ様?
:いきなり立ち止まったけど?
先頭に立つミヨリが停止したので、綾乃たちも歩みを止める。
ミヨリの背中に、仲間たちの疑問の視線が集まった。
「何かいるみたいだね。これまで倒してきた色違いのモンスターたちよりも強いのが」
ミヨリが理由を話すと、視線の先にある岩陰から新たなモンスターが姿を現す。
それはバッタのような顔立ちをした大型の虫だ。二メートルほどの痩せ細った体躯は黒い甲殻におおわれており、二本足で立っている姿は変身ヒーローを彷彿とさせる。
:虫!
:二足歩行の黒いバッタだ!
:インセクトファイター!
視聴者からインセクトファイターと呼ばれた黒いバッタは、大きな二つの眼球にミヨリを映すと、縦開きの口を開けてキチキチキチッと音を鳴らした。
色違いの強化種ではなく、新発見のモンスターの出現にミヨリは唇の端を持ちあげる。
「みんな、ここはわたしに任せてくれないかな? やってみたいことがあるんだ」
「やってみたいこと?」
腰の剣を抜こうとしていた綾乃は手を止めると、眉間を寄せながら聞いてくる。
「うん。ここはあえて『待ち』に徹してみたいんだ。先に相手に攻撃させておいて、それをパリィしてから、隙だらけになったところに反撃する。このまえアビスソフトのイベントで、ムラサメちゃんとダンジョンウェポンで対戦したときに、わたしが使ってた戦法だよ」
「…………?」
:ムラサメちゃんwwww
:ムラサメちゃんぜんぜんピンときてないwww
:ムラサメちゃん「そんな戦法使ってたのか?」
:はたしてアレは戦法と呼べるものだったのかwwww
:その戦法、ゲームではミスりまくって自滅してただろwwww
:ミヨリちゃんはゲームではパリィできないwwww
:ゲームじゃないから大丈夫だwwww
:現実ではミヨリちゃんパリィめっちゃ上手いからwwww
:あえて敵に攻撃をさせる戦法か!
:相手の攻撃をしっかりと弾いてから、攻めていくんだな!
:確かにそれで有利になるときもある!
「ムラサメちゃんとの対戦では、うまくできなかったからね。ここでもう一度チャレンジしたいんだ」
「えっと、ゲームじゃないから心配はいらないと思うが、みなさんはそれで構わないですか?」
「わたしは問題ないよ。ミヨリくんならやってくれるさ」
綾乃が他のメンバーたちに確認を取ると、玲奈はすぐに賛成してくれた。
ゲームの腕前はともかく、現実でのミヨリの実力はイヤになるほど見せつけられてきたので、小春と涼子と美鈴もうなづいて了承する。
「みんなが同意してくれてよかったよ。それじゃあ、あの虫さんの攻撃をしっかりとパリィしないとね」
ミヨリは薄笑いを浮かべると、インセクトファイターがいる正面に向き直る。いつでも足元の影から触手を伸ばせるようにスタンバイして、お互いの視線を衝突させる。
黙ったまま、インセクトファイターとジーッと見つめ合う。
……見つめ合うが、どういうわけかインセクトファイターはなかなか攻撃してこなかった。微動だにせず立ちつくしたまま、ただミヨリのことを見てくるだけだ。
「ぼん!」
「ええええええええええええええええええええええ!」
痺れを切らしたミヨリの指先から超高速ファイアーボールが発射されて、インセクトファイターの右腕を吹き飛ばす。
固唾を呑んで見守っていた綾乃たちは、ビックリして叫んでいた。
:知 っ て た !
:さすがミヨリ様ですwwww
:『待ち』に徹する戦法はどうしたwwww
:そんなもんミヨリちゃんができるわけねぇだろwwww
:おかしいな? ミヨリちゃんがパリィするのを楽しみに待ってたはずなのに、そのミヨリちゃんがいきなりファイアーボールをぶっ放したぞ?
:先生! 宮本さんが約束を破りました!
:脳汁ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!(先生)
:先生wwwww
:おい先生がうれしすぎて脳汁噴き出したぞwwwww
:脳汁噴き出す先生ってなんだwww
:この配信コメントもやばいなwwww
「なんでだミヨリ! パリィしてから攻めるって言ってただろ! なんで先に攻撃しちゃったんだ!」
予想外の展開に、綾乃が慌てて問い詰めてくる。
「……我慢できなくて」
ミヨリが申し訳なさそうに答えると、綾乃をはじめとした仲間たちが呆れた表情をしていた。
:子供かwwww
:我慢できなかったなら仕方ないwww
:神は待てないよね!(大親友)
:ミヨリ、少しは我慢しなさい!(父より)
正面に目を戻すと、右腕を失ったインセクトファイターは身体を傾けたまま立っていた。キチキチキチキチッと口から音を鳴らすと、残っている左腕をミヨリのほうに向けてくる。
閃光がまたたく。その左腕から超高速の火の玉が放たれる。たったいまミヨリが放ったものと同じ魔法が飛来してくる。
ミヨリは瞬時に足元の影から触手を伸ばし、飛んできた火の玉を弾く。近くで爆音が轟き、土煙が噴きあがった。
インセクトファイターが超高速ファイアーボールを使ってきたことに、綾乃たちは目を白黒させていた。
:お、おい、いまのって……
:あの黒い虫、ミヨリ様のファイアーボールを使ってこなかったか?
:まちがいない! ミヨリちゃんのファイアーボールだ! 威力といい、速度といい、いろいろとおかしかった!
:なんでミヨリちゃんのファイアーボールを使えるんだよっ!
:まさか自分が受けた魔法をコピーできるのか?
:ラーニングしたのか!
:コピー能力ね。昔のアニメや漫画の主人公がよく使ってたやつだわ(母より)
:だからさっきミヨリちゃんと睨みあっていたときにぜんぜん攻撃してこなかったのか!
:ミヨリちゃんに先に攻撃させることがあの虫の狙いだった!
:ミヨリ様のファイアーボールが敵の手に渡ってしまったぞ!
:ちょっ、やべぇじゃん!
ザワつきだすコメントを読んでいくと、ミヨリはフゥ~と息を吐いた。
「予定していたとおり、パリィ成功だね」
:なに言ってんだこの子wwww
:確かに虫のファイアーボールを触手で弾いたけどwwww
:今はそういうのどうでもいいからwww
:予定していたとおりではないだろwwww
:さらりと自分の思惑どおりになったみたいに言うなwwww
:これが『待ち』に徹する戦法かwwww
スマホ画面にツッコミのコメントがあふれてくる。
後ろにいる綾乃も肩をプルプルさせて、もの凄く何か言いたそうにしていた。




