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「どうやらわたしのファイアーボールを当てたことで、虫さんにコピーされちゃったみたいだね」
「だね、じゃないだろ。どうするんだ?」
綾乃が困った顔をして聞いてくる。
その問いかけに答えようとしたら、インセクトファイターが左腕からファイアーボールを連発してきた。
高火力の火の玉が一斉に飛来してくるが、影から伸ばした触手を振るい、全弾とも弾き飛ばす。
狙いがそれた火の玉があちこちで爆破を起こし、赤い荒野を破壊していく。その光景に、綾乃たちは身を硬くした。
:ミヨリちゃんにあたらねぇ!
:周りで爆発しまくっとる!
:画面越しでもすげぇ爆音が連続してるのが聞こえてくる!
:ミヨリちゃんのファイアーボール凶悪すぎんだろwwww
:もうファイアーボールじゃないよこれwwww
:ムラサメちゃんたちがビビってるwwww
インセクトファイターが連発してきたファイアーボールを防ぐと、ミヨリは右手を前に向かって伸ばし、足元の影に声をかける。
「ダーくん。出番だよ」
その呼びかけに応えるように、影のなかからナニカが浮上してくる。
飛び出してきたのは、漆黒の短剣だ。表面にはたくさんの目玉がついていて、ギョロギョロと動いている。
影のなかから出てきた不気味な短剣を、ミヨリは右手でつかみとる。
:ぎゃあああああああああああああああああああ!
:怖い短剣を取り出してきたあああああああああああ!
:ミヨリちゃんの不気味装備シリーズwwww
:目ん玉いっぱいついてて恐ろしい!
:あの短剣で虫を倒すのか!
漆黒の短剣にリスナーたちが怖気立っている。それは仲間たちも同様で、ダーくんを見て慄然としていた。
ミヨリは微笑みながら、くるりと反転。後ろにいる綾乃を視界におさめる。
いきなりミヨリと目があうと、綾乃は「えっ……」と間の抜けた声をもらした。
「それじゃあムラサメちゃん、頼んだよ」
ドスッ。
部屋にある電気のスイッチでも入れるような自然な動きで、ミヨリは握った短剣を綾乃の左腕に突き刺した。
:なっ……!
:ちょっ!
:え? 刺した?
:ムラサメちゃんの腕を刺したぁ!
:ミ、ミヨ、おまっ、なにを……!(父より)
ミヨリの行動に視聴者たちは当惑する。仲間たちも硬直し、刺された綾乃も何が起きたのか理解できない顔をしていた。
ミヨリはニッコリとしたまま、短剣を引き抜く。
不思議なことに、刺されたはずの綾乃の左腕には傷一つなかった。装着していた手甲にも、刺された跡は残っていない。それどころか、綾乃は刺された痛みすら感じていなかった。
だが、異変は生じる。
綾乃の左腕が装着した手甲ごと、ブクブクブクッと膨らみはじめた。皮膚も紫色に変わっていき、五本の指先にある爪が急激に伸びていって鋭利なものになる。
綾乃の左腕が、身長よりも大きな禍々しい悪魔の腕へと変貌を遂げる。
肉体の一部が人外のものになったのを目にすると、綾乃は凍結した。そして涙を浮かべながら絶叫する。
「うひゃあああああああああああああああ! わ、わた、わたしの、わたしの、う、うで、わたしの腕がああああああああああああああああ!」
:ムラサメちゃんの腕が変身したあああああああああああ!
:なんだよこれぇえええええええええええ!
:ムラサメちゃんの左腕がバケモノになったああああああああ!
:冗談抜きでこわすぎんだろ!
:うおおおおおおおおおおおおおおい! ミヨイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ! なにムラサメちゃんの腕を魔改造してんだあああああああああああああああああ!(父より)
:ミヨリは小さい頃よくプラモを魔改造してたものね(母より)
:おかんこのタイミングで昔を懐かしむなwww
:プラモを魔改造してたからって、友達の腕をあんなのにしちゃうのはおかしいだろ!
:かっこよくなったね! わたしのムラサメちゃん人形も魔改造しないとね!(大親友)
:すんなwwww
:今さらだけどムラサメちゃん人形ってなんだよwwww
「ダーくんは刃に触れた対象に変身魔法をかけるんだよ。斬っても刺しても、傷がつくことはないから大丈夫。だからムラサメちゃんの腕に傷跡が残ることはないから、安心していいよ」
「う、うで、わたしのうで! わたしのうでがああああああああああああ!」
「……ムラサメちゃん、聞いてる?」
:説明www
:短剣の能力を説明してるwwww
:当たり前のように短剣の説明をしてくるミヨリちゃんwwww
:ムラサメちゃんぜんぜん聞いてないwwwww
:この状況でちゃんと聞けるわけねぇだろwwwww
:ムラサメちゃんがパニックから抜け出せてないwwww
:自分の左腕がバケモノになっちゃったからねwwwwww
ミヨリはムムッと唇を上向きに曲げると、悲鳴が止まらない綾乃に声をかける。
「左腕が悪魔の腕に変身するのって、かっこいいよね」
「かっこいいとか、そういう問題じゃないから!」
:確かにゲームとかならかっこいいけどもwwww
:現実でやられたら怖いことを、ムラサメちゃんが証明してくれたwwww
:ミヨリちゃん、少年のように目をキラキラさせてるなwwww
:ムラサメちゃん少しだけ冷静になってツッコんだwwww
「さすがにこれは遠慮したいね……」
泣き叫ぶ綾乃をそばで見ていた玲奈は頬をヒクつかせる。小春もアワアワとしていた。
「確かに見た目はおぞましいですけど、その悪魔の腕からは底知れない魔力を感じます。美鈴さんも、どうです?」
「絶対にイヤよ!」
:オススメするなwwww
:なにツンデレちゃんに勧めてんだよwwww
:ツンデレちゃんの腕も悪魔の腕に変えようとしてる腹黒さんwwww
:腹黒さんのオススメは悪魔の腕wwwww
涼子が軽口を叩いてくると、美鈴がギロリと睨み返していた。
綾乃は徐々にまともな思考ができるようになってくると、瞳を揺らしながら変身した自分の左腕を見る。
「こ、この腕で、ど、どうすればいいんだ……?」
「あの虫さんに向けて振るだけでいいよ」
ミヨリはかなりゆる~い感じで、使い方を教えてくる。
「振るだけ? それだけでいいのか?」
「うん。簡単だよ」
「えっと……こうか?」
綾乃は言われたとおり、インセクトファイターに向かって、悪魔の左腕を軽く振ってみた。
――その動作が引き金となり、悪魔の腕に宿った魔力が炸裂する。
鋭利な五本の爪から激しい光の斬撃が放出され、目の前にある大地を焼き焦がし、ズゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンという凄まじい破壊音を響き渡らせる。
光の斬撃をあびせられたインセクトファイターはラーニングすることもできずに、飛んできた五本の斬撃に呑み込まれて消滅する。
残されたのは、赤い大地を深々とえぐった爪跡と、立ちこめる黒煙の焦げ臭さだけだった。
「…………」
想定以上というか、ぶっとびすぎなその破壊力に、悪魔の腕を振るった綾乃はガクガクと震えて腰が抜けそうになっていた。
「ね、簡単だったでしょ」
インセクトファイターを撃破したのを見届けると、ミヨリはニコやかに微笑みかけた。
:うぇえええええええええええええええええ!
:なんだよこの火力ううううううううううううううう!
:ね、じゃないよ!
:すっごいゆる~い感じで振るだけでいいよって言ってたけど、出てきた火力がエグすぎたwwww
:なんちゅう火力の腕を持たせてんだよwwwww
:ムラサメちゃんの左腕に搭載されたのは破壊兵器だったwwww
:ミヨリ! ちゃんと説明してからムラサメちゃんにやらせなさい!(父より)
:ムラサメちゃんにはやらせるのかよwwww
:説明されたらされたでイヤだろwwww
:だけど虫を倒せた!
「相手がこっちの攻撃を真似してくるのなら、一撃で倒せばいいんだよ。つまり火力が大事ってことだね」
まだ震えが止まらない綾乃をよそに、ミヨリは一人で勝手に納得している。
他の仲間たちも、悪魔の腕の破壊力に言葉を失っていた。
そしてミヨリは口元をゆるめながら、辺りに視線をめぐらせる。
「どうやら、他にもいるみたいだね」
ミヨリがそう言うと、いくつかの物音が同時に鳴った。




