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:ん? ミヨリちゃん?
:どうしたのミヨリちゃん?
:なんかミヨリちゃん変だぞ? いや、いつも変なんだけど
:ナチュラルに失礼wwww
:なんかジーッとボス部屋の奥のほう見てない?
:なにもないけど……
ミヨリは目を凝らして、広間の奥を見つづける。
……そこから濃密な魔力が感じられた。
ミヨリの見ていた場所が不自然に歪むと、突如として光が生じる。ボス部屋全体が明るく照らされた。
そのまばゆい光に、綾乃たちは泡を食う。
光が収束していくと、空間にポッカリと大きな穴が開いた。ダンジョンの入り口であるゲートに似ている穴だ。
大きな穴から暴風が逆巻くと、ブラックホールよろしくこの場にいる者たちを物凄い勢いで吸い込んでくる。
:ちょっ、なんだあれ!
:裏ルートのゲート!
:異界につながってる穴だ!
:異界への道が開かれた!
:でも、なんかおかしいぞ!
:すごい勢いでミヨリちゃんたちを吸い込もうとしてる!
:まさかトラップ!
:探索者だけど、こんなトラップ見たことない!
:普通なら裏ルートは条件を満たさないと開かないはずだろ!
裏ルートへのゲートが開かれると、それがミヨリたちを強制的に異界へと送り込もうとしてくる。
綾乃たちは歯を食いしばってどうにか踏ん張るが、靴底がすり減っていき、見えない力に引っぱられるようにゲートに吸い寄せられていった。
足が地面から離れると、身体が宙に浮かびあがり、異界につながるゲートに呑み込まれそうになる。
咄嗟にミヨリは足元の影から複数の触手を伸ばす。仲間たち五人と六台のドローンカメラに触手を巻きつけると、下半身に力を込めてその場に踏みとどまる。
「うひゃあ!」「うわあっ!」「ぎゃあああ!」「ひぃあ!」「いやああああ!」と触手が身体にからみついた仲間たちの悲鳴が重なって聞こえてくる。
:触手!
:ミヨリちゃんの触手が仲間を助けた!
:みんなもカメラも触手につながれて宙ぶらりんになってる!
:裏ルートのゲートが凄い力で吸い込もうとしてるけど、ミヨリちゃんが踏みとどまってるのか!
:さすがミヨリ様です!
:これで吸い込まれない!
:助けたのに、悲鳴あげられてたなwwww
:まぁ身体に巻きついた触手の感触が気持ち悪いんだろうよwwww
ミヨリの触手につながれたまま、激しい勢いで身体を揺さぶられて宙を泳いでいる玲奈は、広間の奥にあるゲートを横目でうかがった。
「……どうやらボスを倒したら、自動的に発動するトラップのようだね。強制的に異界に送り込もうとしてくるだなんて、長年探索者をやっているけど、あんなトラップを見るのは初めてだよ」
玲奈は端整な顔に冷や汗をかきながら苦笑すると、ミヨリのほうを見てくる。
「ミヨリくんがいてくれて助かった。異界に連れていかれずに済みそうだ。このままボス部屋の外まで、わたしたちを引っぱっていってくれるかい」
玲奈の指示を聞いて、ミヨリはうなづこうとしたが……ハッとして目を見開く。
ミヨリは黙って思考をめぐらせる。
頭のなかで考えをまとめると、シュルシュルシュルシュルとみんなの身体に巻きつけていた触手の締めつけをゆるめていった。
「えっ、ちょっ、ミ、ミヨリ!」
「ミ、ミヨリくん? なんだか触手が……!」
「ミヨリちゃん! 触手! 触手が取れそうになってる!」
「ミヨリさん! どうかわたしの気のせいであってほしいのですが、なんだか触手さんの力が抜けていってるように思えるのですが!」
「な、なんで! なんで触手を外そうとしちゃってるのあなた!」
ミヨリが巻きつけていた触手をほどいていくと、宙を泳いでいる五人は狼狽しはじめる。それはコメント欄も同様だった。
:いやいやいやいやいやいやいやいや! ……は?
:ちょっ! なんでミヨリちゃん触手を外そうとしてるの!
:ダメだから! 触手さんを外したらダメだから!
:ガチで意味がわかんなくて混乱してしまうんだけど!
:ミヨリ様ぁ! 一体なにを考えておられるのですかぁ!
ミヨリは綾乃の身体に巻きつけていた触手をほどいていって、完全に外す。
この場につなぎとめてくれていた触手がなくなると、綾乃は一気に開いたゲートのほうに引きずり込まれていった。
「うひゃああああああああ! なんでだああああああああああああ!」
綾乃はこちらに向かって必死に手を伸ばしていたけど、悲鳴を残したままゲートのなかに呑み込まれて消えていく。
:ええええええええええええええええええええええええええええ!
:ミヨリちゃんなにしてんのおおおおおおおおおおおお!
:ムラサメちゃんがゲートに吸い込まれたああああああああああああ!
:ウッソだろオイ!
:うああああああああああああああああ! ムラサメちゃあああああああああああああああん!!!(父より)
:お父さんが画面に頭突きする勢いで叫んでるwwww(母より)
:いや、冗談抜きでなにしてんッスか、この子?
:先生! なぜか宮本さんが触手をほどきました!
:ちょっと宮本さん、なにをやってるんですか! そんなこと、そんなことしちゃうなんて、先生のしゅぴがとまらにゃいよおおおおおおおおおおおおおおおお!(先生)
:あっ、ダメだこの教師……
:そういえばこの教師、役に立たなかった……
綾乃がゲートのなかに吸い込まれたのを確認すると、ミヨリは他の仲間たちの触手もほどいていく。
「なぜだミヨリくん! なぜこんなわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
玲奈がなにか言いかけていたけど、気にすることなく触手を外した。そのまま玲奈は宙に投げ出されて、ゲートのなかに消えていく。
:だいひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
:代表が……死んだ?
:死んではいないと思う。……たぶん。
:てか喋ってる途中で触手を外したなwwww
:代表の話をもっと聞いてあげてよwwww
:まだ代表が喋ってる途中でしょうがwwww
:ミヨリちゃん、ほんと代表の扱いが雑だなwwww
「いやああああああああああ! はなさな、ばなざない、ばなざないでぇえええええええええええ! いやあああああああああ!」
小春は身体からほどけていく触手をつかむと、泣き叫びながら懸命にすがりつこうとしていた。
:小春ちゃんwwww
:笑っちゃいけないとわかってるのに、必死すぎて笑ってしまったwwww
:すまん、吹いちまったwwwww
:だ、だめだ。まだ笑うな……。こらえるんだ……
:そりゃ必死になるよねwwww
:小春ちゃんが必死になればなるほど、おもしろくなるのはなんでだろうねwwww
:まさか自分からこんな必死に触手にすがりつく日がくるだなんて、思ってもなかっただろうなwwww
:なんかモンスターに食べられそうになってるみたいだwwwww
必死にすがりつこうとしてくる小春を突き放すように、触手を勢いよくブンッと振って、ゲートに向けて投げ飛ばす。
小春は「ぎゃああああああああああ」と叫びながらゲートのなかにスポォンと入っていった。
:ちょっwwwww小春ちゃん最後のほう触手にブン投げられてなかったかwwww
:触手からゲートへのパスだったwwww
:おぉ~、ゴール決まったな(ゲートを見ながら)
:触手に捨てられた女になってたぞwwwww
小春がゲートに投げ飛ばされたのを間近で見ていた涼子と美鈴は、恐怖が湧きあがってきて顔面蒼白になる。
:吸い込まれるほうも怖いけど、残されたほうも怖いなこれ……
:腹黒さんとツンデレちゃんの顔色がヤバいことにwwww
:三人ともゲートに吸い込まれたけど、本当に大丈夫なのか?
涼子は「こほん」と咳払いをすると、顔を青ざめさせつつも冷静な表情を取りつくろう。
「このまえ初めてお会いしたときから、ミヨリさんは小さくて愛らしい方だと思っていました。それにとっても強くて素敵です。もう最強です。こんなにすごい探索者は他に見たことありません。まさに奇跡のような存在です。ミヨリさんこそ、探索者の理想の姿と言えるでしょう」
:おい、なんか腹黒さんが急にホメだしたぞwwww
:ビビりつつも、ミヨリちゃんのことホメちぎってくるwwww
:こっちも助かりたくて必死だなwwww
:この腹黒、全力で媚びを売ってやがるwwww
「ミヨリさんは話せばわかってくれる人だと、わたしは信じています。ですのでどうか、わたしだけは! わたしだけは! 助けてください。お願いします! わたしだけは!」
:腹黒さんマジ腹黒だったwwww
:わたしだけは、の部分をめっちゃ強調してるぞwwww
:知ってる腹黒さん? まだ隣にツンデレちゃんがいるんだよ?
:自分だけ助かろうとしてる腹黒さんwwww
ミヨリは「そうですか」と言って微笑みかけると、涼子の身体に巻きつけていた触手をあっさりと外した。
「……あっ、ダメでしたか?」
唖然としていた涼子は広間の後方まで一気に引っぱられていき、ゲートのなかに呑み込まれていった。
涼子がゲートのなかに消えていくのを、美鈴は「ひぃぃぃ!」と悲鳴をあげながら見ていた。
ガチガチと奥歯を震わせながら、美鈴は涙にぬれた瞳をミヨリに向ける。
「……やりなさい」
:覚悟決めたwwww
:ツンデレちゃん覚悟決めたwwww
:なにを言っても無駄なのは腹黒さんが証明したからねwwww
:なんか悪役に殺される前みたいなセリフだなwwww
:なるほど! これが美鈴ルートか!
:ちゃうわwwww
「美鈴さんが物わかりのいい人でよかったです」
ミヨリは唇をほころばせると、美鈴の身体に巻きつけていた触手をほどいた。
「いやあああああああああああああああ!」
絶叫と涙を散らしながら、美鈴も広間の奥にあるゲートのなかに呑み込まれていく。
:ミヨリちゃん以外全員ゲートに吸い込まれちゃったぞwwww
:一度助けておいて突き放すという、より深い絶望感を与えてくるミヨリンwwww
:なんという裏切り行為wwww
:これ普通にゲートに吸い込まれるよりも怖いだろwwww
:触手に助けられず、最初から普通にゲートに吸い込まれていたなら、ここまでの恐怖を味わうこともなかったwwww
:ホントなにしてんのよ、この子はwwww
:ミヨリ様はいつだって我々の想像を超えてくるwwww
五人の仲間たちがゲートのなかに入ったのを見届けると、ミヨリは下半身の力を抜く。触手で確保している六台のドローンカメラと共に、空間にあいた穴のなかに飛び込んでいった。
:自分から飛び込んだwwww
:ノリノリで入っていったなwww
:そんなことができるのは神であるミヨリちゃんだけだね!(大親友)
吸い込んでくるゲートのなかに突入する。
ミヨリはその先にひろがっている異界へと進んでいった。




