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「グゥゥッ!」
追いつめられたデーモンウィザードは顔をしかめると、大量の魔力を放ってくる。周りの地面にいくつもの魔法陣が描かれていき、そこから次々とミヨリや綾乃のニセモノが何体も召喚された。
:ミヨリちゃんやムラサメちゃんたちがいっぱいおる!
:ニセモノをたくさん出してきやがった!
:ダメ……! あれはニセモノ……! ミヨリちゃんがいっぱいで幸せだなんて! そんなこと思っちゃダメ! ミヨリちゃんはこの世にただ一人なのよ!(先生)
:先生がなんか葛藤してるwwww
:ミヨリちゃんがたくさんいて幸せを感じそうになってるwwww
:実際にミヨリちゃんがたくさんいたら、世界が終わりそうだけどwwww
「いっぱい出てきたね。それじゃあ」
大勢のニセモノたちを見ながらミヨリは微笑むと、漆黒の杖を横薙ぎに振るった。
ミヨリの目の前にある空間に、いくつもの穴があく。同時にニセモノたちの周りにある空間や天井や地面にも、穴があいていった。
ミヨリは漆黒の杖を構えると、目の前にある複数の穴に向けて、連続で魔弾を撃つ。放たれた赤い光が、穴のなかに吸い込まれていく。
そしてニセモノたちを取り囲むようにあけられた穴から、何発もの魔弾が飛び出してきた。
無数の赤い光が飛びまわり、爆音を轟かせて、ニセモノたちを吹き飛ばしまくる。逃げようとするニセモノもいたが、魔弾は一体たりとも逃さずに襲いかかった。
ミヨリや綾乃たちのニセモノが、次々と粉砕されていく。その光景を、本物の綾乃たちは震えながら見ていた。
「魔弾と空間に穴をあけるやつのコンボを使えてよかったよ」
二つの能力を組み合わせた技を見せることができて、ミヨリは上機嫌に鼻を鳴らした。
:よかったよ、じゃないよwwwww
:殺戮ショーだよwwww
:ニセモノたちが大パニックで逃げまわってるけど魔弾に撃ち抜かれてる!
:いろいろヒドすぎるwwwww
:ミヨリちゃんやムラサメちゃんたちのニセモノが吹き飛んでいく!
:絵面やばすぎんだろこれ……(震え声)
:俺、今日のこれがトラウマになっちゃったよ……
:よし! 今夜は悪夢決定だな!(白目)
:ミヨリちゃんはなんか誇らしげですがwwww
:仲間たちのSAN値が激減してるwwww
:デーモンウィザードさんも「うそやん」って驚いてるよwwww
「な、なんでだミヨリ? なんでそんな、ためらわずに殺せるんだ? ニセモノとはいえ、アレはわたしたちに見た目がそっくりなんだぞ?」
瞳に涙をにじませながら、綾乃が恐る恐る尋ねてくる。
ミヨリはゆるやかに唇を曲げて、微笑んだ。
「これが、はじめてじゃないからね」
「はじめてじゃない……?」
「うん。アビスゲーでは、プレイヤーの選択次第でパーティキャラが裏切ってきたり、友好的なNPCが狂って襲いかかってくるのは常識だからね。それにわたし、二周目の世界に行く前に、ちゃんと味方のNPCをぜんぶ殺してから、アイテムを回収するようにしてるんだ。仲間を手にかけるのは、別にこれがはじめてじゃないよ」
:ちょっっ待ってwwww なんでここでいきなりゲームの話をぶっ込んでくるんだwwww
:なんでこの子いきなりゲームの話はじめてるんですか? バカなんですか?
:新規の視聴者が混乱しとるwww
:海外勢もパニックになっとるでwwww
:ミヨリちゃんはバカじゃないよwww 頭がおかしいだけだよwwww
:↑フォローになってないwwww
:てかアビスゲーやべぇなwwww なんでパーティキャラが裏切ってきたり、友好的なNPCが狂って襲いかかってくるんだよwwww
:アビスではよくあることだ!(アビス信者)
:周回前に味方を全員殺してアイテムを回収するのもいつものことだ!(アビス信者)
:なんなら意味もなく衝動的に味方NPCを殺すときだってある!(アビス信者)
:だめだこいつら…… 早くなんとかしないと……
:この配信をアビスの社員さんが見てたら胃が壊れちゃうなwwww
:ミヨリちゃんの話を聞いて、ムラサメちゃんがまったく理解できないって顔してるぞwwww
ミヨリの説明に、コメント欄が騒がしくなっていた。綾乃も唖然としている。
「だからわたし、頭のなかでは何度も仲間と戦うイメージトレーニングをしているよ。涼子さんと美鈴さんも、パーティを組むことが決まったから何度か想像で倒しているし、玲奈さんや小春ちゃんも倒している。ムラサメちゃんにいたっては、もう千回以上はやっつけてるかな」
「せ、千回……!」
日頃からイメージトレーニングを欠かさないことを微笑みながら伝えると、綾乃がギョッとしていた。他の仲間たちも顔を青くしている。
:ミヨリ様、頭のなかで千回以上もムラサメちゃんを殺害してることが判明wwww
:仲間の倒し方を考えんなwwww
:なんでそんなに仲間を倒したいんだよこのやべぇ子はwwww
:アビスゲーでは仲間のNPCと戦うのはよくあることだからwwww
:なら仕方ない(断言)
:仕方なくねぇよwwww
:そういやムラサメちゃんたちがマダラグモの幻惑にかかったときも、容赦なく拘束してたもんなwww
:あのときは仲間の身動きを封じただけで、殺してはいないだろwwww
:拘束するのと殺害するのとは大違いwwww
:ミヨリ、友達は大切にしなさい!(父より)
:大切にするどころか頭のなかで何度も倒してるようですがwww
:ミヨリンにとって大切にするとは、戦って壊すということなんだwwww
:ミヨリちゃんを悲しい怪物みたいに言うんじゃないwwww
:ニセモノの友人たちとのバトル! 熱い展開ね!(母より)
:これはバトルじゃなくて、虐殺ですwwww
:そんなことまで考えちゃうだなんて、さすがミヨリちゃんだね!(大親友)
:シンプルにミヨリちゃんがパーティメンバーを倒していく物語とかおもしろそうでいいわね(先生)
:先生やめなさいwwww
:目の前の殺戮ショーが繰り返されることになるからwww
「それに黒野スミレちゃんなら、どんな相手が立ちふさがってきても、迷わず手にかけるはずだよ。例えそれが無二の親友であろうともね。わたしもそういう探索者でありたいんだ」
:また黒野スミレちゃんに対して勝手な解釈をwwww
:好きなゲームキャラに一方的な幻想を押しつけるのやめてくださいwwww
:黒野スミレちゃんを無慈悲なキャラに仕立てあげるんじゃないwwww
:黒野スミレちゃんのイメージが、ミヨリちゃんのせいで邪悪なものになっていくwwww
:そういう探索者であろうとするなwwww
:スミレちゃんのことを話してるときのミヨリちゃんの顔やべぇなwwww
憧れの黒野スミレちゃんについて恍惚としながら語っていると、いつの間にかニセモノたちは全滅していた。
空間にあけていた複数の穴を閉ざすと、ミヨリはデーモンウィザードに視線を向ける。
地面を蹴って、一瞬で距離を詰めていき肉薄する。
いきなり目の前に現れたミヨリに、デーモンウィザードはおののいた。
「ありがとう。キミのおかげで、現実でもムラサメちゃんたちを倒すことができたよ」
薄笑いを浮かべて感謝すると、握っていた漆黒の杖を振りあげる。
思いっきり杖を振り下ろし、ドゴッっとブッ叩いた。
頭部を破壊されたデーモンウィザードの身体は地面に倒れていって、動かなくなった。
:杖で殴ってトドメ刺したwwww
:魔弾で倒すかと思ったら、杖で殴りおったwwww
:その杖そうやって使うものじゃないだろwwww
主人が絶命すると、周辺に転がっていた多数のニセモノたちの死体も霧散していき、跡形もなく消滅した。
戦闘を終えると、ミヨリは右手に握った漆黒の杖をジーッと見つめる。
「うん。この使い方が一番しっくりくる」
:死神&闇の商人「オイ!」
:魔弾や空間に穴をあける能力があるのに、ブッ叩くのが一番しっくりくるってwwww
:物理攻撃が最強の杖だったwwww
:材料にされたであろうイレギュラー二体の犠牲はなんだったのかwwww
ミヨリに対するツッコミのコメントが勢いよく流れてくる。スマホ画面を見下ろしたミヨリはそのことに気づくと、ちょっとだけ考えた。
そしてドローンカメラを見あげながら口を開く。
「杖で殴ったのも、闇のセールスマンの能力だよ」
:うそつけwwww
:ちがうだろwwwww
:杖で殴るってどんな能力だよwwww
:そんな能力あるわけねぇだろwwwww
:杖で殴ったのはミヨリちゃんの腕力でしょwwwww
:なんでそんなバレバレのウソが通用すると思ったのかwwww
:ていうかもう闇の商人のことをふつうに闇のセールスマンって言ってるなwwww
ごまかそうとしたけど、視聴者たちには見抜かれてしまった。




