106
軽やかな足取りでダンジョンを突き進むミヨリたちは、第十階層までたどり着いていた。
出現するグレーターデーモンを瞬殺しながら歩いていくと、新たなボス部屋の前まで到着する。
:二つめのボス部屋!
:誰も見たことがないボスがこの先にいる!
:どんなボスが待ってるんだ!
ボス部屋を発見すると、視聴者たちも興奮してコメント量が増加する。
綾乃たちと視線を見交わすと、ミヨリは大扉に触れる。扉を押し開いていき、なかに踏み込んでいった。仲間たちも警戒しながらついてくる。
四方にひらけた広間に入ると、ミヨリは辺りを見まわした。
「先に続く道は、ないみたいだね。ここが『明星の導き』の最深部でまちがいないみたいだよ」
ボス部屋の奥にある壁には、次の階層につながる通路が見当たらない。
ここがダンジョンのゴール地点なのだと、ミヨリは断言する。
:新ダンジョンの最深部まで着たのか!
:てことはもうすぐ『明星の導き』の攻略が完了するwwww
:いくらなんでも速すぎんだろwwww
:この新ダンジョンを苦労して冒険していた探索者たちの心がもうちょっとで折れますwwww
:探索者だけど、もうポッキリ折れとるよ……
:ミヨリちゃんと自分を比べちゃいけないwwww
:新たな偉業達成まであと少しwwww
:もうスパチャ投げる準備しといたほうがいいかな?
このボス部屋が最深部だと判明すると、コメント欄が沸いていた。
もうすぐ『明星の導き』の攻略完了だ。でもそのまえに、片づけなきゃいけない相手がいた。
広間の中央にたたずむモノがいる。それは頭の左右から角を生やして、凶悪な相貌をしていた。小柄な身体には、古びた黒いローブを羽織り、強烈な魔力をまとっている。
魔法使いのような容貌をしたデーモンが、そこにいた。
:デーモンだ!
:魔法使いっぽい格好してるけど……
:魔法使いのデーモンなのか?
:デーモンウィザード!
:情報ゼロだから気をつけろ!
デーモンウィザードと名づけられた悪魔は、鋭い眼光でボス部屋に踏み込んできたミヨリを射抜いてくる。
綾乃たちはそれぞれの得物を手にすると、戦闘態勢になった。
デーモンウィザードはブツブツブツと口のなかで何かを唱えてくる。小さな身体から魔力が放出され、周りの地面に五つの魔法陣が描かれていった。
それぞれの魔法陣が発光すると、そのなかから人影が浮上してくる。
軽装鎧を装着した剣士と、重装備で全身を固めた大剣使い。他にも槍使いやダガー使い、魔法使いがいる。
見覚えがある……なんてものじゃない。魔法陣から召喚された五人は、どこからどう見ても探索者そのものだった。
:ちょっ……なんだよあれ!
:うそだろ! あれってぜんぶ探索者じゃないのか!
:まちがいなく俺らが普段配信で見ている探索者だ!
:もしかしてニセモノ!
:ニセモノの探索者を召喚してきたのか!
:最深部のラスボスだけあって、デタラメなことしてきやがる!
ニセモノの探索者の登場に、綾乃たちはたじろいだ。
その動揺を楽しむように、デーモンウィザードは口元を歪めて笑う。
「グアアッ!」
デーモンウィザードが右腕を前に向かって振るう。それが合図となって、剣士、大剣使い、槍使い、ダガー使いのニセモノたちが一斉に突撃してくる。
「応戦するんだ!」
玲奈が指示を飛ばすと、みんなの意識が切り替わる。ムチに打たれたように、綾乃たちは駆け出していった。
綾乃は突っ込んでくる槍使いと、真正面から衝突する。穂先から繰り出される連続突きは迅速で力強い。握りしめた剣で刺突をさばくと、火花が散った。
凄まじい相手のスピードに、綾乃は苦虫を噛み潰したような顔になる。
だけどそれ以上に厄介なのは……。
「ニセモノだと頭ではわかっていても、外見が同業者そっくりだからやりにくいったらないね」
ニセモノの剣士と交戦している玲奈が眉間をひそめながら、綾乃が抱いていた不満を口にした。
ダンジョンのなかには外見が人間に似ているモンスターも存在するが、このニセモノたちはあまりにも探索者に酷似している。そのせいで、どうしても攻撃をためらってしまう。
それは他のメンバーも同様で、すばしっこく動きまわりながらニセモノのダガー使いと斬り結んでいる美鈴も、いざ決定打を打ち込もうとすると、ためらいを見せていた。そのためらいが隙となり、相手の反撃を許してしまう。
戦鎚を振るってニセモノの大剣使いと打ち合っている涼子も、しかめっ面になっていた。
「せめて気に食わない相手のニセモノなら容赦なくブチころ……………攻撃できるのですが」
:コラ腹黒wwww
:いま腹黒さんスゴいこと言おうとしてなかったかwwww
:はぁ? そんなわけないだろ! 俺たちの腹黒さんがそんなブチ殺すだなんて野蛮なこと言うはずないだろ!(必死)
:腹黒さんはそんな子じゃないってワイは信じてるもん!




