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美鈴をおちょくって満足すると、涼子は思案げな表情になってミヨリを見る。
「おそらくミヨリさんは、規格外の才能を授かった探索者なのでしょう。頭のおかしな言動のせいで怪物扱いされていますが、モンスターの類ではありません」
:さりげなく毒を吐いたなwww
:言ってることは的を射てるけどwwww
:褒めてるのかと思ったら、毒吐いてきたwwww
:ミヨリちゃんが頭のおかしな行動を取ってなかったら、もっと真っ当に評価されてただろうなwwww
涼子の考察を聞かされると、ミヨリは不思議そうに首をかしげる。
「わたしは普通の探索者ですけど?」
そう答えると、他の五人は黙ってミヨリのことを見つめてきた。五人の瞳には「そんなわけないだろう」という強い意思が込められている。
:ムラサメちゃんたちが、すっごい一体感を出して何か言いたそうな顔してるwwww
:普通の探索者ではないからねwwww
:ミヨリちゃんは普通の意味を調べてきなさいwwww
:ミヨリちゃん人形「ミヨリちゃんは神です! 神なんです! 神神神神神神! 神なんです神なんです神なんです! 神なんですうううううううううう!」(大親友)
:こわいよ、大親友ちゃんwwww
:人形を暴走させるんじゃないwwww
:……ホッ(先生)
:先生はホッとしないでくださいwwww
:やっぱり大親友ちゃんと一緒に配信を見ないでよかったねwwww
なんだか綾乃たちも、コメントを書き込んでいるリスナーたちも、納得がいってないようだ。
ミヨリは胸の前でグッと拳を握って、自分の考えを伝える。
「もしもわたしと他の探索者との間に違いがあるとすれば、それはアビスソフトのゲームにかける情熱だよ! たくさんのアビスゲーをプレイしたことで、わたしは強くなれたからね!」
アビスソフトへの愛を熱く語ってみせる。
だけど、綾乃たちにはまったく響いてないようで、さっきよりも疲れた顔をしていた。
:この子なに言ってるのwwww
:いや、ミヨリちゃんこれ本気で言ってるんだよwwww
:アビスソフト「もうやめて……」
:アビスゲーをやり込んでも強くなれなかった探索者がいるので、これ以上の被害者を増やさないでくださいwwww
綾乃たちには、アビスへの愛を理解してもらえなかった。ミヨリは無念だと言わんばかりに首を振って、握った拳を下ろす。
ミヨリの意味不明な発言に困惑させられていた美鈴は肩を落とした。
「わたしがあなたのことを気にしていたのは、昔のことがあったからよ。もっとも、あなたはわたしのことなんて、これっぽっちも覚えていなかったでしょうけどね」
美鈴は自嘲するように、唇の片端を持ちあげる。
スネている美鈴の横顔を、ミヨリはジーっと見つめる。
「あのとき、真っ先にわたしのことを庇おうとくれましたよね」
「え?」
ミヨリが過去の記憶を掘り起こしながら喋ると、美鈴はキョトンとしていた。
「自分が時間を稼ぐからここから早く逃げるようにって、美鈴さんは身を挺して新人だったわたしを守ろうとしてくれましたよね」
「どうして、そのことを……」
ミヨリは美鈴のほうに向き直って、微笑みかける。
「美鈴さんのことは、ちゃんと覚えていますよ。このまえダンジョンで釣りあげたときに、すぐに思い出しました。まだわたしが配信をはじめていない、探索者になりたての頃に会ったことのある人だって」
「あ、あなた、わたしのこと覚えて……」
かつての出会いを忘れていなかったことを伝えると、美鈴はポカンとして声を震わせていた。
だけどすぐに美鈴は我に返ると、フンと鼻を鳴らして顔をそむけてくる。
「とにかく、今回あなたとパーティを組んだのは、あのときのリベンジを果たすためよ。もう昔みたいな醜態はさらさないわ。わたしが成長したことを、証明してやるんだから」
「助けてもらったときのお礼を言いたいのだと、素直になったらどうでしょうか?」
「う、うるさいわね!」
涼子が横から口をはさんでくると、美鈴はムッとしながら余計なことを言うんじゃないと睨みつけていた。
やれやれと涼子は首を振って、ミヨリのことを見てくる。
「今回の新ダンジョン攻略に同行したのは、そういった理由からです。わたしは美鈴さんのリベンジを見届けるために、付き合わされています」
:腹黒さん、ツンデレちゃんのためにわざわざ攻略に同行したのか!
:ミヨリちゃんがいるのに、ツンデレちゃんに付き添ってくれたんだな!
:やさしいな腹黒さん!
相棒のことを思いやる涼子に、視聴者たちも胸を打たれたようで、賞賛のコメントが書き込まれていく。
「それに個人的にも、ミヨリさんとはお近づきになりたいので。精神に負担がかかるデメリットはありますが、ミヨリさんとパーティを組んで配信すれば、チャンネル登録者数の大量増加が見込めますからね」
:……ん?
:おや?
:あれあれ?
クスッと怪しい笑みを浮かべる涼子の発言を聞くと、さっきまでとは打って変わって、疑問のコメントが流れていく。
「国内トップクランであるシルバーダスクの代表の玲奈さんは、ミヨリさんにご執心なので、実質シルバーダスクはミヨリさんの従者も同然です。ミヨリさんの協力があれば、そのうち国内すべての探索者を支配下に置くことも可能でしょう。いずれは世界征服だって、夢ではありません」
「あなたね……」
邪悪な野望について流暢に述べてくる涼子を、美鈴は呆れた目で見ていた。
:腹黒さん打算的すぎるwwww
:ミヨリちゃんと手を組んで世界征服しようとしてるwwww
:どうやらやさしい人だと思ったのは、ワイの勘違いだったようだwwww
:まぁ代表はミヨリちゃんに夢中だから、実際シルバーダスクはミヨリちゃんの配下のようなものだけどwwww
:くっ! このままでは世界がミヨリ軍の手に落ちてしまう!
:ミヨリちゃんが頂点に君臨する世界! それはきっと楽園だよ! ミヨリちゃん人形がいっぱいいるよ!(大親友)
:いや、ミヨリちゃん人形はいっぱいいなくてもいいだろwwww
:世界征服しなくても、もうミヨリちゃん人形はいっぱいいるよwwww
:ミヨリちゃんが悪の組織のリーダーになって世界征服して、ついでにそれに立ち向かうムラサメちゃんが精神崩壊するのね!(先生)
:世界征服だけでええやろwwww
:ついでに精神崩壊させられるムラサメちゃんwwww
よこしまな欲望を抱えている涼子の話を聞いても、ミヨリはいまいちピンとこなかった。無関心な顔をしたまま、前方にある道をチラリと見る。
「とりあえず、先に進みましょうか。配信をテンポよく進めていきたいので」
「まさかここまで相手にされないとは、驚きですね」
見事なまでにスルーして配信を優先してくるミヨリに、涼子はかすかに目元をピクピクさせていた。
:腹黒さんぜんぜん相手にされてないwwww
:ミヨリ様は世界征服などという小さなことに興味はないのだよwwww
:ミヨリちゃんが興味があるのはゲームのことだけですwwww
:それはそれでどうなんだwwww
美鈴と涼子の話を聞いて、この二人が今回の攻略に同行してきた理由がわかった。
胸に引っかかっていたことが一つ氷解すると、ミヨリはダンジョンの奥に向かって進んでいく。




