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無事に勝利することができた綾乃たちは、胸の奥から熱いものがこみあげていた。
「よかった。ミヨリに何かされる前に倒すことができた」
「ミヨリくんの活躍を見られなかったのは残念だが、怖い目にあわずに済んでホッとしているよ」
「やった! やったよぉ! ミヨリちゃんにひどいことされる前に倒せた!」
綾乃、玲奈、小春が歓喜しているのを、美鈴と涼子は困惑した表情で見ていた。
「このパーティ、いろいろと反応がおかしいわよ」
「ボスを倒せたことよりも、ミヨリさんに何もされなかったことを喜んでいるという異常な状況ですね。まぁ、わたしもホッとしていますが」
:確かに喜び方おかしいなwww
:みんなにとってはボスよりもミヨリちゃんのほうが脅威だったwwww
:パーティ内にボスよりも恐れられてる存在がいる時点でおかしいだろwww
:てかムラサメちゃんの配信のほうで、めっちゃスパチャが送られとるwww
:ホンマやwww コメント欄が真っ赤に染まってるwwww
:がんばったからねwwww
「ムラサメちゃんに、たくさんスパチャが投げられてるみたい」
そのことをミヨリが教えると、綾乃は自分のスマホを取り出して確認する。
コメント欄が、血の河みたいに赤くなっていたのだろう。綾乃はスマホ画面を見るなり、目を丸くしていた。
小春も浮き浮きしながら、自分のスマホを取り出して確認していたけど、あからさまにガックリしていた。スパチャがもらえなかったようだ。
:小春ちゃんスパチャがもらえなくて悲しそうだwwww
:これがファンの数という格差wwww
:一番の功労者はボスのギミックを見抜いたムラサメちゃんだから仕方ないwwww
:ミヨリちゃんも不服そうだなwww
:何かする前にムラサメちゃんたちがボスを倒しちゃったからねwwww
:ミヨリちゃんガッカリしないで! ミヨリちゃんはそこにいるだけでいいんだよ! 神なんだから生きてるだけで正義なんだよ!(大親友)
:そこにいるだけでいいってwwww
:大親友ちゃん必死になぐさめようとしてるwwww
:……今度ムラサメちゃんがミヨリちゃんに追いつめられて、ムチャクチャにされたあげくに、精神崩壊しまくる小説を書きたいと思います(先生)
:先生www
:ミヨリちゃんの活躍を見られなかった鬱憤を創作にぶつけないでくださいwwww
:行き場のない感情を作品にぶつけるのは創作者としては正しいんだろうけどもwwww
どうやら暗い顔をしていたようだ。配信を見てくれている視聴者を心配させてはいけない。
ミヨリはフゥと息をこぼすと、気持ちを切り替える。
モヤモヤとした感情を胸中から追い出して、疑問に思ったことを聞いてみる。
「ムラサメちゃん。どうしてボスのギミックがわかったのかな?」
「それはわたしも気になっていた。綾乃、よくあのボスの能力を見抜けたな」
「あっ、いや、その……」
ミヨリと玲奈が問いかけると、他のメンバーたちも綾乃に注目する。
綾乃はしどろもどろになって言葉をつまらせると、恥ずかしそうに目をそらした。
「獣王たちの弱点を見抜けたのは、たまたまなんですけどね。このまえプレイしていたダンジョンブレイドに、似たようなギミックのボスがいたので」
:ここでまさかのダンジョンブレイドだったwwwww
:そういやそんなボスいたなwww
:二体同時にライフをゼロにしないと倒せないボスがいたwwww
:それでムラサメちゃん獣王のギミックを見抜けたのかwwww
:またしてもアビスのおかげで勝機を見出せたwwww
:ムラサメちゃんもアビスのおかげで助けられたwww
:アビスソフト……一体何者なんだ!
:↑社員さんがかわいそうだからやめてあげろwwww
:ただのゲーム会社だよwwww
:またしてもアビスへの風評被害がwwww
どうやら綾乃がボスに勝てたのは、ダンジョンブレイドをプレイしていたおかげのようだ。
それ自体は喜ばしいことだ。喜ばしいことなのだが……。
「……ムラサメちゃん。わたしまだ、そのボスと戦ってないよ」
枯れた井戸の底から響いてくるような、ほの暗い声をミヨリが発すると、綾乃はビクリとする。
他のメンバーたちも、空気が冷たくなるのを感じて身体を竦めていた。
:あっ!
:ネタバレ……!
:あ~ぁ! ムラサメちゃんやらかしたぁ~!
:そういやミヨリちゃん、まだ最初のボスを倒したばかりだったwwww
:これはネタバレをかましたムラサメちゃんが悪いのか、それともゲームが下手すぎて進むのが遅いミヨリちゃんが悪いのかwwww
うっかり地雷を踏んでしまったことに気づいた綾乃は、慌てて手をバタバタと振りながら高速で口を動かす。
「そ、その、つまりだな! わたしがこうして勝てたのは、ダンジョンブレイドをプレイしていたからだ! ダンジョンブレイドがあったから、この先に進むことができるようになった! ぜんぶアビスのおかげということだ!」
綾乃は思考を高速で働かせながら、言い訳を並べる。
ミヨリはジーッと綾乃の顔を見ていたが、「アビスのおかげ」という言葉を聞くと、唇を持ちあげた。
「ムラサメちゃんにも、アビスの良さをわかってもらえてうれしいよ」
さっきまでのほの暗さはどこへ行ったのか、ミヨリは穏やかに微笑んでくる。
その表情を見て、綾乃は溜飲を下げる。どうにか一命は取りとめたようだ。そんな失礼なことを考えていた。
:ミヨリちゃんチョロいwwww
:チョロかわいいですミヨリ様wwww
:ムラサメちゃん必死すぎてワロタ!
:そりゃ命がかかってるからねwwww
:選択ミスすればバッドエンド直行だったwwww
:ムラサメちゃんミヨリちゃんの扱いが上手くなってきたなwww
:なんか恋人のご機嫌を取ってるみたいだwww
:ミヨリ使いとしての腕があがったな、ムラサメ(師匠面)
「ムラサメちゃんは、ダンジョンブレイドのおかげで救われたんだね」
「……そうだな」
ミヨリの言うことは正しいんだろうけど、遊んでいたゲームに救われたというのはなんだか複雑というか、綾乃としてはすっごく釈然としなかった。
「それはそれとして、ネタバレしたのは許さないよ。マイナス8000点だね」
「……そのポイントなんなんだ?」
上手くごまかせたと思っていたが、ごまかせていなかった。綾乃はガクリと背中を丸める。
:ご機嫌を取ったけど、やっぱダメだったwwww
:なんだよそのポイントwwww
:謎のポイント制が設定されましたwwww
:残りポイントいくつなんだwww
:めっちゃマイナスされたなwwww
:持ち点がゼロになったらどうなってしまうんだwwww
:死にますwwww
:さすがに殺されはしないだろwwww ……え? 殺されないよね?
:視聴者も戸惑ってて草
:ゲームのネタバレで命の危機に立たされるのおかしいだろwwww
コメントのほうでは、ミヨリの言動について、いろいろとイジられている。
ミヨリは地面に転がっている二体の獣王たちを一瞥すると、足元にある影を左右に向けて伸ばしていった。
ミヨリの影が拡張するのを見ると、美鈴と涼子はゾッとして肌をあわ立たせる。
戦闘で活躍できなかった不満をぶつけるように、ズズズズズズッと二体の獣王を影のなかに引きずり込んでいく。
「配信で見て知っていましたが……生で見るとおぞましいですね」
「っ……!」
双子の獣王たちが影のなかに沈んでいく光景を、涼子は息を飲みながら眺める。美鈴は口元を手でおおって、悲鳴がもれないようにしていた。
新参の二人はビビっているが、古参の三人のほうは異なるリアクションをしていた。
綾乃は心を無にして、光のない虚ろな瞳になっている。
玲奈は腕組みをして、ウンウンとうなづいていた。
小春は「イツモノコトダヨー」とカタコトの喋り方をしている。
:腹黒さんとツンデレちゃんだけが正常な反応www
:当たり前のようにモンスターを食べ始めるミヨリちゃんが怖すぎるんだがwwww
:ムラサメちゃん感情が死んだ顔になっててオモロイ!
:ムラサメよ、ついに無の境地に達したかwww
:代表が彼氏面で見守ってるぞwww
:アイドルのライブとかで、後ろのほうにこういうドルオタいるなwwww
:また小春ちゃんがロボットになってますがwww
:ロボになることで自分の心を守ってるんだwww
:ぐっ……っ……!(父より)
:お父さんが胸を押さえて苦しんでるwwww(母より)
:配信で父親を苦しませる娘wwww
:どんなモンスターも更にミヨリちゃんを崇高な存在にするための生け贄にすぎないね!(大親友)
:ミヨリちゃんがモンスターでお料理をする話とか書いてみたいわ。できあったお料理を無理やりムラサメちゃんに食べさせて、精神崩壊させるやつ(先生)
:モンスターでお料理って怖ぇえよwww
:ムラサメちゃんに食べさせるなwwww
:なんで先生そこまでムラサメちゃんを精神崩壊させたいのwwww
:スラスラとやばいこと言ってるな先生wwww
ミヨリは双子の獣王たちを完全に取り込むと、伸ばしていた影を足元まで縮小させる。
そして浮かんでいるドローンカメラを見あげた。
「ここから先は未知の階層だけど、無料公開するよ。もちろんさっきのボスの攻略方法についてもね」
そのことは綾乃たちと事前に話し合っていたので、誰も異議を唱えてこなかった。
:ついに未到達の階層に行くのか!
:誰も踏み込んだことのない階層に突入じゃあ!
:このまま新ダンジョンを踏破しちゃうぞwwww
:相変わらず情報という価値に無頓着なミヨリンは素敵だwwww
:未到達階層の映像も獣王たちの攻略方法も情報としては貴重なのにwwww
:むきいいいいいいいいいいいいいいいいいい!(母より)
:ミヨママwwwww
:怒ったオサルさんかな?
:この配信はオサルさんが出るんだなwwww
:ブレイドマスターを極めし悪の勢力の首領ですwwww
:お金がほしいんだねwwww
コメントで香奈子が奇声を発しているようだけど、放置しても大丈夫だろう。
ミヨリはワクワクとしながら、ボス部屋の奥にある通路に向かって進んでいった。
ここからは、まだ誰も踏み込んだことがない未知の階層だ。




