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「グオオオオオオオオオオォォォォォ!」
二体の獣王が怒気をほとばしらせて、全身の毛を逆立てながら咆哮をあげる。
そばで聞いていた綾乃たちは耳が痛くなり、ピリピリと皮膚に痺れが走った。
双子の獣王は筋肉の塊である巨体を躍動させて、殴りかかってくる。
「っ……」
綾乃たちは攻撃の手を止めて、回避に舵を切った。
バックステップで獣王の打撃をかわした綾乃は強烈な風圧をあびせられる。それだけで仰け反りそうになった。
凄まじい膂力だ。鎧を装着しているとはいえ、殴られたら重傷はまぬがれない。
間髪入れずに拳を振るい、爪で切りかかり、牙で噛み砕こうとしてくる獣王の連撃を、玲奈も冷や汗を流しながらかわしていた。
美鈴たちのほうも、反撃に転じてきたもう一体の獣王の攻勢を回避に神経をそそぐことで、辛うじて避けている。
:あの獣たちデカイくせにめちゃくちゃ速ぇぇ!
:パワーもえげつないぞ!
:重装備で固めた探索者が軽々と吹っ飛ばされてた!
:ムラサメちゃんたちがすげぇ速く動いてよけてる!
:一発でももらえば瀕死になる可能性がある!
:見てるだけで心臓が止まりそうになる映像なんだが!
暴れまわる獣王たちと、その猛攻をしのいでいる綾乃たちの戦いを、視聴者はハラハラしながら見守っていた。
いい感じに盛りあがっている。ミヨリは余裕のある表情で微笑んだ。
「小春くん!」
「はい! 任せてください!」
玲奈から呼ばれると、小春は口元に弧を描く。必要とされることで、承認欲求が満たされていった。
小春は左右の獣王たちに手を向けると、光の弾を何発も撃ち込む。
綾乃たちは射線上から離れて、光の弾が通れる道をあけた。
複数の魔力の光が飛んでくると、二体の獣王は体毛を変色させる。黒く染まっていた全身の毛が、雪のような白色へと変化する。
爆音が立て続けに響いた。小春の放った光の弾幕が、二体の獣王に命中する。
どちらにもダメージはない。獣王たちは全身を白色にすることで、魔法攻撃を無効化する能力を発動させていた。
その直後、「グオオオオオオオ!」という痛みをともなった悲鳴があがる。
体毛を白色に変化させたのを視認すると、すかさず綾乃は距離を詰めていき、握りしめた剣で斬撃を叩き込んだ。
全身を黒色に染めていた先ほどまでとは違い、獣王の胴体に刀傷を刻みつけて、確かなダメージを与える。
ダンジョンに入る前に、玲奈が考案していた作戦通りに事が運んだ。
「わたしも行かせてもらうよ。わたしのスキルは、このボスとは相性がいいからね」
玲奈は握った剣に魔力を流し込んでいく。そそがれた魔力が変質していき、バチバチッと音を立てて、雷撃が剣をつつみこみ。
:代表のエンチャント!
:これなら物理と魔法、どっちの攻撃判定も兼ねてるから獣王が黒いときでも白いときでもダメージを与えられる!
:マジで代表のスキル有能だな!
:伝説のパーティにいた探索者だからね!
玲奈は綾乃に続くように、雷撃を付加された剣で獣王に斬りかかる。
玲奈のエンチャントを目にして獣王は戸惑っていたが、体毛を白色から黒色へと変化させる。
だが、剣の斬撃は無効化できても、雷の斬撃は無効化できず、その肉体に新たなダメージが加えられる。
綾乃と玲奈が攻めかかる一方で、美鈴たちも攻勢に転じていた。
白色になったもう一体の獣王が殴りかかってくるが、美鈴が軽快な立ち回りでかわしていき、その拍子に二本のダガーで斬りつける。
そして隙を見ては、涼子が破壊力抜群の戦鎚を打ち込んで甚大なダメージを与えていた。
よろめいた獣王は、また体毛を黒色に変化させて物理攻撃を無効化しようとするが、その瞬間に遠距離から小春が光の弾を発射する。
魔力の光を浴びせられると、獣王の肉体から煙があがりダメージを負う。小春を狙おうにも、美鈴と涼子がはばんでくるので、どうすることもできなかった。
獣王は怒声をあげると、また白色に戻って反撃してきた。
猛然と振り下ろされる拳を、美鈴は軽やかなステップでよけつつ、その拍子に二本のダガーで斬りつける。
「涼子」
「えぇ」
名前を呼ばれると、拳を空振りして無防備な体勢になった獣王の真横に涼子が踏み込んでいた。
真下からすくいあげるようにして、戦鎚をフルスイング。猛烈な破壊音を奏でて獣王の下顎に直撃し、顔面を粉砕する。
トドメを刺された獣王は前のめりに傾いていって、地面に沈んだ。
:ツンデレちゃんと腹黒さん強ぇ!
:この二人の実力は本物だからな!
:長くパーティを組んでいるだけあって、コンビネーションばっちりだ!
:片方の獣王が動かなくなったけど?
:倒したのか?
:そう思うじゃん!
獣王が地面に倒れても、美鈴と涼子は警戒を解かなかった。このボスが持つ、もう一つの厄介な能力を知っているからだ。
ダァンと音が鳴る。死んだはずの獣王が、地面を思いっきり両手で叩いていた。腕に力を込めると、突っ伏していた巨体が起きあがる。
破壊されはずの顔面は元通りに再生しており、美鈴がダガーで斬りつけた肉体の切り傷もたちどころにふさがっていく。
「グオオオオオオオオオオォォォォォ!」
ボス部屋を震撼させる咆哮をあげて、死んだはずの獣王は無傷の状態で復活を果たす。
:よみがえった!
:なんだよこれ! どうなってんだ!
:コイツらどういうわけか死なないんだよ!
:殺してもすぐに復活してくる!
:残機がある系のボスなのか?
:たぶん違う! シルバーダスクの精鋭が、この二体のボスを何度も倒したけど、それでも復活してきた!
:試しにアンデッドに効く聖属性魔法とかでトドメを刺してた探索者もいたけど、それでもよみがえってたぞ!
:不死身のボスだ!
:倒しようがねぇじゃねぇか!
:だから厄介! 探索者たちがここより先に進めてないのは、このボスが無敵だから!
:ジリ貧になって撤退するのがお決まりの流れになってる!
「やはり死なないか……」
綾乃はもう片方の獣王と交戦しつつ、美鈴たちが仕留めた獣王が復活したのを見て渋面になる。
綾乃のなかで、焦燥感がこみあげてくる。
それは、戦っている双子の獣王に対してのものではない。
綾乃が恐怖心を向けているのは……。
「そろそろ、出番かな?」
クスリと唇の端を持ちあげて、ミヨリが薄笑いを浮かべる。
綾乃たちが戦っているところもカメラに映せたし、もう十分だと判断する。
ミヨリが微笑むと、綾乃はゾクッとした。他のメンバーたちも悪寒を感じたようで、身震いしている。
「まずい! ミヨリが何かしようとしている!」
綾乃は上擦った声で叫んだ。獣王たちを相手取っているときよりも、よっぽど切迫した表情になっていた。
:いやなんで味方に警戒してんだよwwww
:みんな警戒する方向性がおかしいだろwwww
:まぁこれまでのミヨリちゃんの配信を見てればねwwww
:ボスよりもミヨリちゃんのほうが危険視されてるwww
:ムラサメちゃん気をつけるんだ! ミヨリが何かするつもりだぞ!(父より)
:おとんwww
:娘が危険な存在であることを必死に推しに伝えてるwwww
:どんな父親だよwwww
:ついにミヨリちゃんの活躍が見られるんだね! わたしも人形たちもこのときを待っていたよ!(大親友)
:ミヨリちゃんミヨリちゃんミヨリちゃんミヨリちゃん! ミヨリちゃああああああああああああああああああああああああん!!!(先生)
:先生落ち着いてwwww
:オヤツを前にしたワンコみたいに興奮してる先生www
:大親友さんが人形をスタンバらせてるwwww
ミヨリが動き出そうとすると、コメント欄が騒然となる。綾乃たちがボスと戦っているときよりも焦っているのは、ミヨリとしては腑に落ちないが。




