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ダンジョン内に出現するモンスターたちを瞬殺して突き進むミヨリたちは、第八階層まで降りてきていた。
多くの探索者たちが『明星の導き』に挑戦したが、この第八階層よりも先には進めていない。
:もう第八階層www
:速すぎるwwww
:このまま未知の階層まで行っちゃうのか!
:てかミヨリちゃんの配信が同接二百万いってる!
:「ムラサメちゃん人形」「おかんゼンラになる」がSNSでトレンド入りしてるぞwwww
:ムラサメちゃん人形www
:おかんゼンラになるなwwww
:ちゃんと防具つけろよwww
:ダンジョンブレイドには防具を外して全裸プレイしている変態さんがいるのでwwww
「二百万……!」
予想していたとおり、同接が更に伸びていた。
その数字を目にすると、身体の動きが硬くなる。それでもどうにかミヨリは手足を動かして、前に進んでいった。
しばらく歩いていると、前方に重厚な大扉を発見する。
:ボス部屋だ!
:このなかにいるボスが倒せなくて、みんな先に進めてない!
:シルバーダスクの精鋭でも倒すことができなかった!
:他にも腕利きの探索者たちがここまで来たけど、ボスを倒せずに撤退してたな!
コメントの流れが加速して、視聴者たちの興奮が伝わってくる。
仲間たちのほうも緊張感が高まっているようで、五人とも厳しい顔つきになっていた。
「まだこのなかにいるボスは誰も倒せていない。気を引き締めるとしよう」
玲奈が微笑みながら呼びかけてくる。みんなの緊張をほぐそうとしてくれているみたいだ。
「それじゃあ行きますね」
ミヨリが確認を取ると、五人ともうなづいた。
手を伸ばして大扉に触れると、ほんの少しだけ力を込める。音を立てて扉が開くと、ボス部屋のなかに踏み込んでいく。
視線の先には、広大な空間がひろがっていた。
その中央には、強い存在感を放ってくるモノがいる。
筋肉の鎧をまとった身体は黒い体毛におおわれていて、大きな口からは鋭い牙を覗かせている。大樹のように太い手足からは、長い爪が伸びていた。
三メートルはある巨体の獣が、二本足で立っている。
ソレが二体。まるで合わせ鏡のように鎮座していた。
:でっかい獣!
:二体もいるのかよ!
:ここにもボスが二体!
:あの二体のボスは双子の獣王って探索者たちから呼ばれている!
ドローンカメラに双子の獣王の姿が映し出されると、コメント欄が色めき立った。視聴者たちは二体の獣王を目にして恐怖している。
「戦闘準備だ」
玲奈がそう口にするのに先駆けて、みんな身構えていた。
綾乃と玲奈は腰から剣を抜き放ち、小春は両手を前に突き出して魔法を発動できるようにする。
美鈴は腰の左右からダガーを抜くと、逆手に握って構える。
涼子も背負っている大きな戦鎚を抜き取って、構えていた。
「小春くん。頼む」
双子の獣王たちの情報はある程度は得ているので、玲奈は小春に指示を出す。
小春は「はい」と応えると、両手に魔力を集中させていき、二連続で光の弾を放った。
発射された二発の光弾は、双子の獣王たちを狙って直進する。
獣王たちは低い唸り声をもらすと、左右へと横っ飛びして光弾をかわした。
「今だ!」
玲奈の掛け声と共に前に出る。
綾乃と玲奈は右側にいる獣王のもとに、美鈴と涼子は左側の獣王のもとに、それぞれ躍りかかっていった。
綾乃と玲奈は呼吸を合わせて剣を振るい、斬撃を叩き込む。
美鈴は素早く動きまわりながら両手のダガーで切りきざみ、涼子は握りしめた戦鎚に力を込めて叩きつける。
……が、どちらの獣王も無傷だ。どんなに斬っても、叩いても、出血どころか傷一つつかない。
攻撃を仕掛けた綾乃たちも、手応えというものをまるで感じていなかった。
:ダメージがないぞ!
:なんでや!
:腹黒さんの戦鎚なんて重量のあるモンスですら吹っ飛ばすのに、どうなってんだ!
綾乃たちの攻撃がまったく効かない二体の獣王に、視聴者がうろたえる。
:双子の獣王は体毛の色を黒バージョンと白バージョンに変えてくる。そのときの色によって、通じる攻撃が異なる(父より)
:現在の黒バージョンのときは物理攻撃が通じない。だから剣やダガーで物理攻撃を仕掛けても、ダメージが通ることはない(父より)
:逆に白バージョンになったときは、魔法攻撃が通じなくなる(父より)
:いきなりおとん解説www
:おとん解説すんなwwww
:いや、情報を知らない視聴者からすればありがたいけどもwwww
:マジで探索者やダンジョンのことに詳しくなってんなwww
:お父さんの解説が隣で聞いててうざい件wwww(母より)
「へぇ。おもしろいギミックを持ってるんだね」
茂則の書き込みによって、双子の獣王の能力を知ったミヨリはクスリと笑いながら、目の前の戦闘を観察する。
せっかくのボス戦だ。もうちょっとだけ、カメラに映しておきたい。




