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第六話 同期

 しばらく張り詰めた空気が漂った。

 その空気を切り裂くように柊は泰平の背中を叩く。

「ほら、自己紹介」


(え、今?この空気で?嘘でしょ?)

 意を決して声を張り上げる。


「こ、高坂泰平(こうさかたいへい)です!17歳です! こ、これからよろしくお願いしますッ!!」


「こんな奴が同期? 笑えるぜ」

 前髪をぐしゃりと手で撫で上げながら、少年はそう言った。吐き捨てるような声と鋭い視線が、まるで刃物のように泰平に突き刺さる。


(うわ、絶対友達少ないタイプだ……目つき悪っ! 絶対俺と相性悪いタイプなんだけど!)


「まぁまぁ、そんな言い方しないの。せっかくこれからがんばろ〜って時なのに酷いじゃん」


 ひょっこりと出てきた薄ピンクの髪の彼女は泰平の近くまで来るとこう続けた。


「あたしは早乙女幻花(さおとめまどか)。歳は17で同い年だよ。泰平、だっけ? これからよろしくねッ♪」


 パーマのかかった薄ピンクの短髪が揺れる。ウインクとともに言葉を投げかけられ、泰平は動揺を隠せなかった。


(可愛い……この子も戦うのか……?)


「そしてあのいや〜な奴は鷲尾鋭一(わしおえいいち)。同い年だよ。ほら、鋭一もちゃんと挨拶しなよ〜」


 鋭一という名の少年はその言葉に対し、

「なんでこの俺がそんな奴にご丁寧に挨拶しなきゃいけねーんだよ」

 と、冷たく言い放った。


「ったく……ごめんね?」

 幻花は申し訳なさそうに言った。


 その時、唐突に手を握られた。振り向くと、黄色い髪と琥珀色の瞳をした少女が、泰平の手をそっと包んでいた。


「ちょ、ちょっと!? な、なに!?」

(え、手ぇ握られた!? え、俺これ、女の子に握られたの初めてなんだけど!?)


「手、震えてる…緊張してるの?」


「ま、まぁ少しだけ…」


 すると彼女は優しく微笑んだ。

「同じだね。私も最初は緊張したんだ。

緊張仲間として、一緒に頑張ろう、ね?」


 そう言った彼女の微笑みは聖母のようで見るもの全員を温かく包み込むものだった。


 すると、幻花が口を開く。


「その子は野口燈(のぐちあかり)、18歳だから私たちより一つ歳上だよ。どう? 可愛いでしょ〜♪ 惚れるなよぉ?」


 目を少し細くし、揶揄うように幻花は言った。


「ほ、惚れないよ!」


 顔を赤くし、ムキになりながら泰平は答える。


 その時稽古場に手をパンッと叩く音が響いた。


「まぁ落ち着け、お前ら。とりあえず俺たちも自己紹介を済ませよう」


 咳払いを挟み、柊が話し始める。

「改めて、俺は柊盾一(ひいらぎじゅんいち)。歳は41でこの中では一番年上だな」


柊が隣の男に手を向ける。

「そしてこっちが豪田岳(ごうだがく)だ。立派な髭を生やしてるがこう見えてこいつはまだ34歳だ」


 豪田岳と紹介された人物はあの力士のような男だった。髪は橙色。力士のように横にがっしりした体格だが、背丈は意外と小柄で165cmほどだった。そして立派な髭を持っていた。


「ガッハッハ! いいねぇ、若いってのは! 見てるだけで元気になるぜ! これからよろしくな!」


(見た目は少し威圧感あるけど、意外と気さくで親しみやすそうな人かも)


柊が続ける。


「そしてさっき俺に文句言ってきた女は馬場霞(ばばかすみ)だ」


「おい、文句とはなんだ。遅刻したのはそっちだろ、文句言われても仕方な」

「歳は25だ」

 霞が言い終える前に柊が遮った。


 それに対し霞は頬を少し膨らせ、不満げな様子を見せたものの、泰平の方を向き言った。


「初日から遅刻とは……良い度胸だな。新入り」


 その眼光は鋭く、まるで心の奥まで見透かしていそうな雰囲気だった。


「そうカッカすんなって。せっかくの美人が台無しだ」

 また豪快に笑いながら岳が言う。


「び……! またそんなこと言って、おちょくってんのか!!」

 柊もその様子を見て微笑んだ。


 三人の様子を見て、泰平が不思議そうに尋ねる。

「あの、三人とも、すごく仲が良さそうですけどどういったご関係なんですか?」


 すると柊が答える。

「俺たちも実は同期なんだよ。もう5年ぐらいの付き合いになるかな」


「同期!? 柊さんって41ですよね、そして岳さんが34、霞さんが25……同期ってこんな歳離れてるものなんですか!?」


「なにも珍しいことじゃない。むしろお前たちの代が超珍しいぞ。同期が全員歳が近いなんて異例中の異例だ。零影隊の年齢層は結構幅広いからな」


 泰平は零影隊の年齢層の幅広さに少し驚いた。


「――よし、自己紹介も済んだな。さて、泰平、お前の根性を見せてもらおうか」


 柊がそう言うと稽古場に緊張が走る。


「体づくりといったがな、まずは”今”どれだけのことができるのかを知りたい。だから一回だけ模擬戦といこうじゃないか」


(模擬戦!? 聞いてないってぇぇ…)


「相手は……そうだな、鋭一、いけるか?」


「……ウッス」


(柊さんあんた鬼か! そこはせめて燈さんか、幻花さんにする流れでしょ! 絶対手加減とか知らないタイプじゃんあいつ!)


「模擬戦といっても、いきなりガチの殴り合いをしろというわけじゃない。両者必ず寸止めだ。そして足も使用禁止。いいな、必ずだぞ? 特に鋭一」


「わかってまーす」

ダルそうに鋭一は言う。

(絶対わかってねーだろ)


「泰平、勝とうとしなくていい。鋭一たちとは違ってお前はまだ基礎も教わってない状態だ。だが、相手の動きをよく観察し、ここだと思ったタイミングで一撃を入れろ。最悪、寸止めじゃなくてもいい。いいな?」


「はいッ!!」


「無理だろ」

鋭一が鼻で笑いながら冷たく吐き捨てる。

(やっぱこいつ友達いないだろ…)


 泰平と鋭一の両者が向き合う。

 その二人を他の者は邪魔にならないよう、すこし離れたところから見ている。

 泰平はぎこちなく構えた。

 それを見て鋭一はまた鼻で笑う。


「死ぬなよ〜」

「泰平君、無理しないでねー!」

燈と幻花から茶化しと応援が飛ぶ。


「両者、位置についたな」

柊が軽く息を吸う。

「それでは模擬戦、開始!」


 柊の声が稽古場に響き渡る。

 模擬戦が始まった。

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