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第七話 模擬戦

 号令とともに、鋭一が恐ろしい速度で距離を詰めてきた。


(速っ……!)


 咄嗟にバックステップで後退する


「読めてんだよボケが!」


 速度を落とさずに鋭一は突っ込んでくる


 拳が迫る

 風圧で空間を切り裂くような速度だ


 そのまま鋭一は泰平の腹に拳で強烈な一発を叩き込んだ


「ゲフッ…!」

 衝撃で息が詰まり、背中に鈍い痛みが走る

 泰平はその攻撃を受け、後ろに軽く吹き飛び、腹を抱える


 泰平に鋭一はさらに追撃をしようと拳を振り上げた

 しかしその拳を柊が掴み、自身に寄せる


「馬鹿野郎!寸止めと言っただろ!マジで殴るバカがどこにいる!」


「泰平くん!大丈夫!?」

 燈がうずくまる泰平の近くに駆け寄る

 その後ろから幻花が続いて来る


 幻花は口元を押さえてプルプル震えていた


「だっ、大丈夫?たいへ…ッ…フフッ」


(完全に笑いをこらえてんじゃん!)


 泰平は殴られた箇所を手で抑えながら上半身を起こした


「お腹、大丈夫?他にも怪我とかしてない?」


 燈は心配そうに泰平を見つめる


「だ、大丈夫大丈夫。若干痛むだけ…」


 柊が鋭一の胸ぐらを掴みながら怒鳴る


「鋭一、俺の指示になんで従わなかった!寸止めという指示がなぜ聞けなかった!?」


「当たっちゃったんスよ。次はもうしないんで勘弁してください」


「柊さ〜ん、良かったらあたし変わりましょうか?」

 幻花が柊に提案する

 柊は少し考えた後、答えた


「いや、大丈夫だ。鋭一を続投する。

だが、次同じことをしたら俺がお前をボコボコにする。わかったな?」


「わーったよ」

 不服そうに返事をした


「泰平、やれるな?」

「ウッ、はい…」

 まだ痛むお腹を摩りながらも言葉を発した


「いいか、泰平。負傷しても悪霊たちは待ってくれん。痛みに耐性をつけろ。悪いがここはそういう世界だ」


(ぐうの音も出ない…)


 泰平はまだ痛む腹を抱えながらもなんとか立ち上がった


「無理しないでね…泰平くん」

「おぉ〜がんばれがんばれ〜」

 燈は心配そうな様子だが、幻花は面白がっている


 再び泰平、鋭一が向かい合う

「何度やっても結果は同じ。また一瞬で終わらせてやるよ」


 泰平は先ほどの戦いを思い出していた


(開始とともに、一気に加速して距離を詰め、的確に攻撃。シンプルだけど強い。正直、工夫無しで真正面からやりあって勝てるような相手じゃ無い。どうしたら…)


 その時泰平はあることを思い出す


(俺の腹に攻撃する瞬間、あいつの視線が俺の腹に落ちた。視線を読めば攻撃先が分かる!?)


 泰平は何かを掴みかけていた


(人は何か行動を起こす時、必ず予備動作がある。

柊さんの言っていた相手をよく観察するってのはこれのことか…!)


 泰平が戦闘体制をとる


(カラクリは分かった。後はこれをどう実践するかだ…!)


「改めて…模擬戦開始!」

 声が響く


 また鋭一が距離を詰めてきた。泰平はまたバックステップで後退する


「また同じパターンか。ならとっとと死ね!」


 そう叫び、鋭一が拳が握る


(よく見ろ。まだだ、まだ引きつけろ)


 瞬間、鋭一の目線が先ほどと同じく、腹部に落ちた


(ここ…!)


 鋭一の拳が泰平の腹部に直撃する寸前、泰平はその拳の側面を両手で押し出し、その反動で右に攻撃をかわした


 押し出した反動で体勢を崩し、転がるもすぐに立ち上がる


(できた…! 今の俺の身体能力じゃ、ギリギリまで引きつけて避けるなんて流石に無理。だからあいつの攻撃の軌道を視線で読んで利用した! 上手くいくかは博打だったけど、試した甲斐があった…!)


 おぉ…! 観戦していた柊たちがどよめく


「泰平くんすごい! 今日が初めてなのに…!」


「へぇ〜、やるねぇ…」


「大したもんだ。最初はどうなるかと思ったが、こりゃあ心配する必要はないかもしれんな」


(この短時間で柊の言葉の意味を理解し、実践して成功…興味深いな)

霞は冷静に分析をしていた


(身体能力だけで見れば鋭一の方が現時点では高い……おそらく相手を見る力、観察眼が優れているからこそ今のを可能にした……泰平の強みはここだな)

柊が泰平の本質を見抜く


 鋭一は最初こそ、驚いた表情をしたものの、すぐに悔しげな表情を浮かべ、泰平を睨みつけた


(いくら同じ攻撃とはいえ、さっきは反応できずに喰らってたじゃねぇか! この短時間で何を掴んだのか知らねぇが、気にいらねぇ…!)


 鋭一が拳をより一層強く握る


「さっきと同じ攻撃を"まぐれ"で避けたことがそんなに嬉しいかよ」


「なっ…! まぐれじゃ…!」


「なら次も避けてみろよ、今度は"まぐれ"は通じねぇぞ…!」


鋭一は重心を低くし、両手の拳を後ろに引いた


力強い踏み込みでまた一瞬で距離を潰される


そこから鋭一は後ろに引いた右の拳を振るう


(顔…!)


泰平は顔を左に逸らす。拳は顔を掠め、空を切った


……が、鋭一はすぐさま、左の拳を振るう


(視線が落ちた。脇腹にくる…!)


 その攻撃も泰平はなんとか外すも、鋭一のラッシュは止まらない


 左右の拳を次々と繰り出す攻撃に、泰平は必死で避けるしかなかった


 その様子を見ていた岳が口を開く


「おい、柊。もうやめさせた方がいいんじゃねぇのか? 鋭一の野郎、寸止めする気ねぇぞ。」


「……いや、続行する。」


「正気か!? 初回の稽古からあれでは、トラウマになるぞ!」


「……まぁ見てろ」


(息が切れてきて、胸が苦しい。このままじゃ、いずれどこかで…!)


 その時、模擬戦の前の柊の言葉が脳裏に浮かぶ


 "相手の動きをよく観察し、ここだと思ったタイミングで一撃を入れろ。最悪、寸止めじゃなくてもいい"


(観察……)

 泰平は鋭一の動きを冷静に観察する


(……こいつのラッシュ、凄いけどパターンが単調だ…右の後は必ず左……でも左は打つまで右に比べて遅い…この隙をうまく利用すれば……!)


 泰平は僅かな希望を見出した


(…でも俺にできるのか?そんなことが)


 鋭一の嵐のようなラッシュを視線を読んで避けながら必死に頭を回す

 体力の限界も近く、もはや選択の余地はなかった


(いや! やるしかない! ここで何も出来ないで、悪霊になんて勝てるわけがない…!)


 泰平は拳を強く握りながら決意を固める


 そしてあえて泰平は更に間合いを詰める

 肘が曲がる程度に手を伸ばせば互いに触れる距離


(これだけ間合いを詰めれば回避はその分難しくなる…! でも俺の反撃なんて今までの間合いだったら避けられる…! だったらリスクを取って確実に反撃が通じる距離で勝負する!)


 鋭一が右拳を泰平に振り上げる


(これを避けた瞬間が勝負……! 視線を読め……! どこだ、どこにくる…!)


 鋭一の視線が下がった


(視線が落ちた……!腹だ!)


 案の定、腹部に攻撃がきた


(よし、狙い通り。後は避けた後に一発喰らわすだけ…!)


「舐めんなよ雑魚が」

 直後、突如鋭一の右手が軌道を変え、一気に上に昇った


(まずい! アッパーカット!)


 それは完全に意識外だった


 なんとか顔を逸らして避けようとするも、勢いあまって、体勢が後ろに崩れる


 転倒の反動で、右足が自然に跳ね上がる

 身体は縮まり、足先はちょうど鋭一の顎のラインに届いた


 ゴンッ…!

 鈍い音が鳴る


 泰平が後ろに倒れたことにより、右足が上に跳ね上がり、至近距離にいた鋭一の顎に直撃したのだった


 鋭一は後ろに少しよろめきながら顎を押さえた

 そして怒りで震える声を絞り出す


「てめぇ…ぶっ殺してやる…!」

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