第四話 影僧団
部屋に残っているのは不思議な女性。
泰平はその女性のことについて少し興味が湧いてきたので何個か質問することにした。
「あの、さっき僧殿って呼ばれてましたけど、“僧”って名前なんですか?」
「いいえ、私たち影僧団の団員に対する呼び名です。」
「影僧団?零影隊とはまた違うんですか?」
「派生した部隊です。主な役割は、悪霊に関する調査や記録、怪我した隊士達の手当て、そして先程見せた影転移による隊士の現場への転送、送還です」
(影転移…さっきの瞬間移動みたいなやつか…あんなことが現実でできるなんて…)
「影転移というのは影を媒介にして空間を瞬時に移動する能力で、私たち影僧団の団員全員が所持している影能力のことです。
影能力は一人につき一つしかありませんので使えるのはこれだけです。
概要としては、影を操ったり、影を媒介にして何かを生み出す能力です。
…まぁ私達の影能力は少し特殊なんですが」
「え?特殊?それはどんな風に…」
「…長くなるので。いずれ知ることになります。とりあえずあなた達隊士達の持つ影能力とは別物とだけ」
「そ、そうですか…わかりました…」
その次に泰平はずっと疑問だったことを尋ねる。
「あの、この場所は一体どこなんですか?」
「ここは影島と呼ばれる島です。」
「影島?聞いたこともないですけどどこにある島ですか?」
「正確な位置に関しては公言することは許されていないのでお答えすることはできません」
「そ…そうですか…」
「…お答え出来る範囲で言うならば、普段は完全に隠されており、外部の人間には存在すら確認できないこと、日本の領土の中にある離島であることのみです。
なので出入りしたい時は私たちに頼ってください」
泰平は息を呑む。影の力によって隠されており、特定の影能力でしか出入りが困難な離島――まるで現実とは隔絶された場所だった。
「それと、零影隊について詳しく教えてくれませんか?悪霊を倒す組織ということ以外は全く知らなくて…」
「彼から何も聞いていないのですか?なのにあなたは零影隊に入隊することを決めたと?」
と、ここまで無表情だった彼女が目を目開き、驚きの表情を浮かべた。
女性団員は軽くため息をした後、また元の表情に戻り、淡々と話し始めた。
「零影隊の歴史は古く、奈良時代まで遡ります。
突如として悪霊が現れ、人々を襲い、命を奪っていきました」
「な、奈良時代!? 今が2050年だから…えっと….」
「1340年ですね」
「1340年!?そんな昔からいたんですか!?」
「はい。私も最初は驚きました。
そして、朝廷はその事態を重く受け止め、本拠地を影島に構え、当時の神祇官のトップ、神祇伯であった"神楽"という人物を隊主に任命し、悪霊を無に帰す影の部隊という意味で、【零影隊】と名付けられ、結成しました。これが始まりです」
「悪霊を無に帰す影の部隊…あの、神祇官って何ですか?」
「神祇官とは、朝廷で神々に関わるすべてを司っていた役所です。
祭祀、神社、占い――国が神の意思に従って動くための中枢です。
神祇伯は、その神祇官の長。
つまり“神の側に最も近い立場にいた人間”です」
「よく分からないけど、とりあえず偉い人なんですね…?」
「はい。そして後に我ら影僧団も結成され、悪霊の出現原因や弱点などの調査が進められました。
…ここでは省略しますが、紆余曲折あり、今の零影隊があります」
その話を聞き泰平は震えた。
なにせ遥か昔から続く歴史があり、尚且つ政府直属の組織であったからだ。
「……今日はもう遅いです。
明日には稽古場に行くのでしょう?
もう寝た方が良いです」
そう言って影僧団の女性団員は近くにあった敷き布団を敷いてくれた。
そして泰平に布団に横になるよう促す。
泰平が横になった後、女性団員は掛け布団を泰平に掛けた。
「またの機会があれば今日の続きをしてあげますよ」
と言い、寝室の襖を開けた。
「あ、待ってください!」
泰平が呼び止めた。
「あの…学校とかは…?ここから通うことになる…んですかね?」
「……なるほど」
女性はそう呟くと泰平の方に体を向けた。
「結論から申し上げます。あなたは退学扱いになります」
「…え?」
その言葉に泰平は困惑が隠せなかった。
「ど、どういう……退学……?」
「はい。あなたはこれから影島に住んでいただきます。そしてこの島の外で暮らすことは一生許されません」
「……え…な…なんで…?」
「悪霊の存在、そして零影隊の存在を知ってしまった者はもれなく全員そうなります。なにせこの二つは極秘扱いですから。申し訳ないですがそういう決まりなんです。
明日、あなたの代わりに退学の手続きが行われる予定です」
「そんな……なんで…俺が…」
呆然とする泰平に一礼をする。
「稽古…頑張ってくださいね」
そう言い残し、影僧団の女性団員は部屋を後にした。
行灯の朧げな光が寝室を照らす。
その光にしばらく照らされていたが、徐に泰平はポケットに入れていたスマホを取り出すと電話をかけ始める。
「どうしたこんな時間に」
泰平が電話を掛けた相手は友人だった。
しかし泰平はまだ放心状態であり、言葉を発さない。
友人が電話口で「もしもし」や「どうした」などと話していた。
しばらく経ち、友人が電話を切ろうとした時、泰平が重く口を割った。
「高校……退学することになった」
「……は?」
泰平が深く息を吸う。
「……もう…会えない。せめてお前には…自分から話しておこうと思って」
「…冗談、じゃないんだよな?」
「………うん…」
「…事情は聞かねぇ。でも、そのかわり――」
「?」
「――元気でな、泰平」
「っ――! うん…! うんっ……!!」
目に涙を浮かべながら力強く頷く。
何度も、何度も。
電話を終えた後、布団に潜り込み、目を閉じる。




