その7
がたん、と一際大きく車が揺れる。その揺れで倒れ込まないように、体を保ってからふと外に視線を向ける。
相変わらずの瓦礫の山で、一言で言えば酷い有様だ。その向こう側を見ても、まだ繭は見えてこない。
「なぁ……。本当に勝てると思うか?」
その一言をこぼしたのは誰だったのだろうか。誰とはわからなかったけれど、その言葉はすぐに車の中に伝播した。それぐらいに他の人は不安に感じているんだろう。
それに対する、誰かなりのフォローや励ましがないのも、それが理由だろう。
「…………」
かと言って俺が何かを言えるわけもなく、窓の外、並走している車を見る。それには折山さんが、ここからは見えないがもう一つの車には渡辺さんがそれぞれ乗っているはずだ。それぞれの車でも同じ言葉が出ているのだろうか。あの人たちなら、気の利いたことが言えているのかもしれない。
柄にもなく、そんなことを考えていた時。
「あれは……」
「そーら、おいでなすったぜ」
運転手と助手席の人が口を開いた。覗くようにしてフロントガラスから前を見ると、ほとんど肉眼では見えないような距離に、小さな点が浮かび始める。
この方向、このタイミングで、しかも空中からやってくるなんてそんなものは決まっている。
ドラゴンだ。
「こっからは少し荒い運転になる。しっかり掴まってろ!!」
運転手はそれだけ言うと、押し黙ったままアクセルを踏み込む。同時にぐい、と体が後ろに引き寄せられる感覚。それから車が音を立てて加速し始めた。
「まだだ……まだ引きつけろ……」
加速する車と、飛んでくるドラゴン共。お互いの距離はどんどん縮まっていく。
そうしてその巨体がはっきりと目視でき、さらにはその動きさえ捉えられるようにまでなった頃。
「今だ、一斉射!!」
「りょうかい!!」
運転手が叫び、助手がその声に応える。直後にかちり、と微かな音。
車の上から発射された、黒い塊のようなものはドラゴンの顔面近くまで一息に飛翔すると、そのまま爆散した。
とはいえ、爆炎も激しい衝撃も起こらない。ただただ黒い煙だけが吹き出し、奴らのあたり一面を黒く暗く、塗りつぶしていく。煙玉だ。
「よっし、炸裂確認!」
「各車両、速やかに煙の下を潜り抜けて、目的地へ前進してください」
助手席の人が無線に向かって声を出すと、車はさらに加速を始める。煙から抜け出てくるドラゴンは未だいない。
そのことに若干の違和感を覚えながらも上空の様子を眺めていると、隣から肩を小突かれた。
「不安そうな顔だな、どうした兄ちゃん」
「……不安というか、あれぐらいでドラゴンが足止めできるのか?」
「なんだ知らないのか? ってお前さん……」
何かに気がついたのか、顔を間近で覗き込まれる。
「……そうかお前さんが。なら知らなくても当然だな」
覗き込んだままそうこぼすと、すぐに顔が離れていった。どうやら勝手に何かを納得したらしい。
「あれは最近になってようやく完成した物でな。ほれ見てみろ」
言われるまま、窓の外に視線を投げる。ちょうど少し先の上空では新しく煙玉が炸裂するところだった。
「ああ、違うそっちじゃなくて」
「?」
今度は指差されるまま後ろの方、ちょうど最初に煙玉が炸裂したあたりに目を向ける。
「なっ!」
「へへ、驚いたか?」
思わず声が上がる。驚いた、なんて物じゃない。さっき炸裂したはずの煙が、未だに宙を漂っている。こんな密室でもない場所で、それほど拡散もせず、未だにドラゴン共の視界を覆っていた。
「あの煙は空中でも、開けた場所でもああして留まる性質を持っているんだ。さらにはこれぐらいのちーっこいものが大量に混ぜてあるんだが……そいつが音を乱反射させるんだよ」
「……ということはあの中は」
「ああ。視界を塞がれ、四方八方から音が鳴り響く、ということだ」
視覚と聴覚を塞ぎ、さらにはその二つで補っているような方向感覚さえ、奪われていく。なるほど、確かにこれなら。
「ま、もちろん完全に無力化できるわけじゃないがな」
そんな言葉と同時に、煙からドラゴンが脱出、いや落ちてくる。
「そりゃ煙も自分たちも空中にいるんだから、飛ぶのをやめて落ちれば当然、ああして脱出できるわな」
けれど、すでに俺たちはドラゴンどもを素通りし、先に進み始めている。
足止めとしては十分、というわけだ。
そんな考えを代弁してか、煙から抜け出して俺たちを追い始めるドラゴンにも煙玉が飛んでいき、炸裂。またしても煙の餌食になった。




