その8
右、左また左。曲がったと思えば前進し、真っ直ぐな道に出たかと思えば直後に体ごと中に浮く。
最初の接敵以降、すでに何度もドラゴンどもはやってくるが、その度に煙幕を貼り、時にはそれを利用して奴らをその辺の瓦礫に突っ込ませつつ、撒いていく。既に俺たちを追いすがってくるのもそれほど数がいるわけじゃない。
このまま行けば、十分繭までたどり着けるだろう。そう、その道のりは俺たちにとって決して楽なものじゃないが、ひどく、順調だった。
そう、不自然なほどに。
「うぉ!!」
「うわぁ!!!」
「あいた!」
「おわわわわ……わ」
そう思った直後、耳をつんざくようなブレーキ音とともに、体が前につんのめる。周りに座っていた人たちも、例外なく体が投げ出されている。
幸い、誰かに押し潰されることもなかったので、車が落ち着いてから体を起こす。
「ちっ、さすがにそう簡単にはいかないか……」
「これは……」
正面、後ろ、右左。向く方向全てにそれはいた。
「囲まれてやがる」
誰かが愚痴ったその言葉通り、俺たちはドラゴンどもが集まる場所に出てしまっていた。いやおそらく、そうなるように誘導されたんだろう。他でもない、あのトカゲに、だ。
「ちっくしょう!! 後少しだってのに!!」
『落ち着け! これも想定の内だ。予定通り戦闘準備を始めろ』
がつん、と何かを殴り付けるような音。
それに続くように、通信機からナツメの冷静な声がする。その言葉の通り、この展開自体は予想された物だった。自ら招いたとはいえ、何も障害物がない、と言うことは考えられない。むしろ、それすらなければ余計に罠を疑っただろう。
だが、今目の前に奴らは現れた。ならば。
「踏み越えるだけ、だな。ちょうど暴れたいと思い始めていたところだ」
ナツメの指示通りに一度車を降りる。すると、同じタイミングでこちらにやってきたのか、そんな折山さんの声が聞こえてきた。
にやり、と笑いかけてくるその人に、頷く。
そうだ、たどり着きたい場所にたどり着くために、踏み越える。
「ちょ、俺たちの目的は分かってますよね? 頼みますから、こんなところで全力なんて出さないでくださいよ」
「ははは! もちろん、俺たちの目指す場所はさらに先だからな」
すぐ横から渡辺さんの声もしてくる。そんな、ある意味でいつも通りの二人に、少し安心する。
そして。
『戦闘、開始!!』
ナツメの号令で、俺たちはそれぞれ目の前の脅威に飛びかかった。
ーーーーー
前回の襲撃で分かったことがある。俺たちの中で奴らに傷をつけることができる者と、そうでない者がいる、ということだ。
無論、俺と折山さん、それから渡辺さんは傷つけることができる。が、それ以外の、マークやナツメを含む他の人達には一切それができなかった。
それは抵抗できる人間が限られている、と言うことでもあるが、そのことが分かったなら、それはそれで対処できるのも事実だ。要は役割分担をそれに合わせればいい。
「よいしょ、っと!!」
「次、行きますよ!!」
「はい!」
まず、俺たち以外の人がドラゴンを押さえ込む。それ自体はロープでもなんでも使ってこれまでもできていた。そこに俺たちが片っ端からナイフを突きつけていく。もちろん、そのあとでナイフの柄を押し込むのも忘れない。
そうして不純物を送り込んでやれば、あとはそいつに雷撃を浴びせるだけ。竜の体自体に傷はつかないが、それでも奴らの意識を刈り取るには十分だ。
敵の数もそれほど多くなかったのもあり、ものの数分でその場を制圧することに成功した。
「……こんなもんか」
「おう、お疲れ」
「お疲れ様でした。怪我はないですか?」
体を落ち着かせるために、言葉と息を吐き出すとちょうど折山さんがやってきた。その後ろには渡辺さんの姿もある。
手には傷を塞ぐ用の包帯と、簡単な薬を手にしている。そして、その包帯は折山さんの肩付近にも巻かれていた。
「俺は……大丈夫です。それより折山さん、怪我したんですか?」
「ん、まぁな。俺も少しばかり年だからなぁ。いつまでも現役ってわけにゃいかねーや」
「そんなこと言って、真っ先に飛び込んで行ったのは誰でしたっけ?」
渡辺さんからのツッコミをうけて、頭を掻く折山さん。その光景はいつも通りで、周りにも一戦終えた安心感が広がっていく。が、それもすぐのことだった。
「……?」
す、と空気が変わるのを感じる。周りを見渡してみても、特に変化はない。それでも、何か感じる。
そしてその勘はすぐに的中した。
「あれが……」
にわかに周りが騒がしくなる。さっきまでの嬉しそうな声とは違い、どこか戸惑うような、思わず生唾を呑み込んでしまうような、そんな騒がしさ。
一体何が、と誰かに問うまでもなく、すぐに通信が回ってきた。
内容は。
「あれが、繭……。あいつのいる、場所」
「…………」
今回の目的地である繭が。ついに、目に見える距離にまで近づいてきていた。




