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ファンタジーハンター  作者: Who
幻想を狩る者
38/49

その5

「…………、……。……って、おい!」


ぐい、と後ろから首筋を掴まれる。

前に一歩進もうとしていた体は、そのせいで一歩を踏み出す前に止まった。

何事かと前を見ると、目の前には壁。どうやら知らないうちに壁にぶつかる直前だったらしい。


「あぶねーな、どうしたんだよ?」

「いや、なんでも……とにかくありがとな」


そのことを確認してから首元にあった腕の主、マークに向き直る。

同じタイミングで、向こうもこちらの顔を覗き込むようにしていたからか、真正面から視線がぶつかる。


「いや、それはいいけどよ。何か考えごと……って、そんなもの妹ちゃんのことに決まってるか」

「…………」


質問の途中で思い至ったのか、言葉が途中で止まる。

もちろん図星なので、無言を返す。


「まぁでもびっくりだったよな、まさかあんなことになってるなんて。今でも信じられねーよ」

「正直、俺もだ」


肯定してから、改めてさっきまでのことを思い返す。

まず外部から通信が入った。

それ自体は、折山さんたちのこともあって特に珍しいことではなくなっていた。が、問題はその相手。

通信を開くと映っていたのは一人の少女。俺の妹たる、白奈の顔だった。

桜花戦線としては初めてのコンタクトであり、さらにその少女は、白奈であって白奈ではなかった。いや少女ですらなかった、というべきか。

モニターの彼女は自らのことを、俺の近くにいたトカゲであったと自白した。しかも、自分の顔を変えることでその証拠にするというおまけ付きで、だ。


「で、あいつがこの世界に存在するために、えっと……よりしろ、だったか? にしているのが妹ちゃんだっけか」

「らしいな」


ぎり、と歯に力が入る。

そうだ。妹は今、そんなトカゲなんかに利用されてしまっている。

おそらく、白奈の体をそのままトカゲが動かしている、ということなのだろう。……そんな話がこの国にもあったな。


「で、妹ちゃんLOVEなお前は何としても助け出したい、と」


かく、と足から一瞬力が抜けそうになる。

確かにほぼ間違っていないのだが、こいつが言うと相変わらず緊張感がなくなる。いや確かに助けたいし、妹のことは親愛の意味で好きだが。そう言う意味も込めて視線を送ると。


「なんだよ、別に間違ってないだろ?」


口を尖らせてそんな言い訳が返ってくる。

もちろん間違ってない。間違っていないのだが……。


「お、戻ってきたな」


そんな少しもどかしいような感覚を転がしていると、随分と歩いたらしい。廊下の少し先には俺の部屋が見えている。


「じゃあ、いったんここまでだな」

「あ、ああ」


すちゃ、と音がしそうな勢いで略礼をするマーク。

その勢いのまま足を早めて俺の部屋の前を通り過ぎて行った。……最後の俺の返事はあいつに聞こえたんだろうか。

が、そんなことを確認する間も無くマークの姿は廊下の向こうに消えて行った。残されたのは俺一人。


「さっきまでの煩さが嘘みたいだな」


マークがいなくなると、突然周りが静かになる。当然、こぼれ落ちる独り言に返ってくるツッコミもない。

それ以上の言葉は飲み込み、部屋の扉をくぐる。


「遅かったナ」

「っ!!」


瞬間、誰もいないはずの部屋から声が聞こえ、とっさに視線を向ける。だが、向けた方向には誰もいない。もしや後ろかと、振り返ってみるも、普段と変わらない壁が目に入る。他には何も見つけられない。

それでも、往生際悪く周囲を睨みつけつつ眺めてみるが、やはり何もおかしなところはない。人影も見当たらない。


「気のせい……か」


無意識のうちにそんな言葉が溢れる。それはほとんど、自分を納得させるためのような言葉で。


「くそっ!!」


思わず壁を殴った。そうでもしないとおかしくなりそうだ。

なぜ、どうして。言葉にすればキリがない。なぜ、俺は奴に気が付けなかったのか。どうして、妹が陥っている状態に気がついてやれなかったのか。


「くそぅ……」


そのまま、擦るようにして手を下げる。

悔しさに、体をかきむしりそうになる。が、そんなことをしても何にもならないと、頭の中ではわかっている。

今はそれすらも、活力にして奴のもとへ向かう。そして妹を……。

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