その4
「っと。君たちとの話は楽しいから、随分と話し込んでしまったネ」
「っ!! 待て!」
急にそんなことを言い始めたトカゲに、慌てて声をかける。
だがその制止の声すらトカゲの思惑通りだったらしい。モニターに映る顔は嫌らしい笑みへと変わって行く。
「そんなに慌てなくても大丈夫サ。どうせすぐ会えるんだかラ」
それに、とまたトカゲの顔が歪む。
輪郭が、表情が。顔のパーツの一つ一つが変わって、いや戻って行く。
「それに……ボクらの居場所はもう掴んでるんだろう? 最終決戦といこうじゃないか」
言葉の途中で顔が完全に切り替わる。トカゲから、白奈の顔へと。
「さぁ早くきてくれよ? 兄さん」
最後に、そんなセリフを残して映像が途切れる。
今度こそ、その場にいた全員の声が止んだ。動くものもいない。息を吸って吐くだけの存在がここにいる。
拳を握り締めれば、その音ですら響いてしまいそうだ。そんな中で。
ぎり……。
そんな歯軋りのようが聞こえーー。
「各員、すぐに全居住者の確認を行え! 少しの違和感も見逃すな!!」
ナツメの声が響き渡る。
その声に、部屋にいた半数が了解の言葉を返し、出て行く。
そうして残った半数とは。
「なんだ、お前たちも残ったのか」
「まぁな」
俺とマーク、それから。
「…………」
特に言葉を出さない、偉そうな人たち。
正直、名前も覚えていない。
「後ろの方々はどんな御用かな?」
「…………貴方は!!」
ナツメの、その挑発的とも取れる発言に、白い髭をはやした一人がついに声を荒げた。
目の前に机があれば叩きそうな剣幕だ。
それに対峙するナツメは変わらず涼しそうな顔をしているが。
「こんな不祥事があったのにもかかわらず、まだここの責任者でいるつもりか!?」
「そうだ!」「責任を取れ!!」「交代しろ!!」
「もちろんそのつもりだが? というよりも、今は責任の追求をしている場合じゃない。私たちの命運がかかってしまってるんだぞ! そんなものは後にしろ!!」
髭の言葉に、その後ろにいた連中が声を合わせる。
が、その声もナツメの一言に飲まれてしまった。
正直、ヒゲの目的はその辺りなのだろうと予想していたが、まさにその通りだったとは……。
確かにナツメが判断したことかもしれない。が、その判断をナツメに預けたのは間違いなく彼らなのだから、今更彼らがナツメを非難する権利はない。
その後。二、三の言葉を交わし、髭をはじめとした彼らが部屋から出て行く。
その彼らが出て行くのを見送り、扉が閉まってから。
「俺は妹を助けに行く」
ナツメに振り返り、ただそれだけを言う。
対するナツメも、それがわかっていたように小さく笑いをこぼした。
「ああ、君ならそう言うと思っていたよ。だが、あれを助け出せるのか?」
「……」
あれ、とナツメがモニターを指差す。
それに対する答えは正直、わからない。
それでも、あいつは。あのトカゲは白奈の体を使っていると言った。
であれば奴を引き離すことができれば、体だけでも取り戻すことができるかもしれない。
それでなくても、あるいはーー。
「そうか、ならば君はどうする? マーク」
俺からの答えがないことに何を感じたのか、一つ頷いたナツメは、次いで隣に視線を移した。
「もちろん俺もっすよ。こいつとはなんだかんだ長い付き合いになるっすし、それに」
ちらり、とマークが俺、それからモニーターへと視線を移す。
「それに俺も、あいつには言ってやらないといけないことがあるっすからね」
「そうか」
マークからの返事を聞き、ナツメが少し俯く。
が、それもすぐに顔が上がり。
「では、これより作戦の準備に入る。幸い、奴の言う通り、あちらの場所は掴んでいる」
ぱちりと指が鳴らされると、モニターに色がつき、ある場所の地図が映し出される。
その場所は、公園。俺と白奈が出かけ、ドラゴンと遭遇し、そして別れた場所。始まりの地。
「余裕なのか、奴らもまだ動いてはいない。動き始めるまでそれほど時間はないだろうが、これより二人には1日の休憩を与える。心身のコンディションを万全にまで持っていってくれ」
こくり、と頷く。
「これも奴の言葉で皮肉なものだが、これが最終決戦になるだろう。十分に英気を養ってくれ」
「了解っす!!」
「わかった」
「よろしい、では……解散」
その一言でもって、俺たちは部屋を後にした。




