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ファンタジーハンター  作者: Who
幻想を狩る者
36/49

その3

「お前、誰だ?」


モニターを、そこに映る顔を見つめて言葉を放つ。お前は誰なのか、と。

もちろん、視界にはモニターとそこに映る白奈の顔が見えているし、そこから聞こえてくる声も白奈のものだ。

しばらく会わなかったぐらいでそれを間違えることはない。それでも。それを分かった上で、俺はもう一度口を開いた。


「お前、誰だ?」

「そんな、私の顔忘れちゃったの? 兄さん……」

「忘れてなんかない。俺が白奈の顔を忘れるわけないだろ」

「え……じゃあどうして……?」


悲しんだ顔がモニターに映り込む。

ああ、その顔も見覚えがある。いつだったか、三段に積んだアイスを落としてしまった時も似たような顔をしていた。懐かしくて泣きそうだ。だが。だからこそ。


「下手な芝居はいい。お前は誰だ!」


記憶ではなく、心が、否定する。小さな違和を伝えてくれる。目の前の存在は白奈に見えているだけ・・・・・・・の別物だと。


「……へぇ、やっぱりバレちゃうのか。すごいね」


にやりと、白奈の顔が歪む。それは俺ですら見たこともない表情。醜悪な表情な上、顔のパーツは白奈その物なのが余計に気持ち悪い。


「その通り。ボクは君の妹じゃない。でも、この体は、間違いなく白奈ちゃんだよ」

「なに……?」

「ってまぁそれはバレちゃったみたいだけど」

「っ!!」


ふざけるな、とは声に出ない。出ないというよりは出せないように何かが邪魔をしている感じだ。

見ると、さっきから同じ状態だったのかナツメも苦い顔をしている。


「うんうん、良い顔だね。それでこそだ」


にやり、と今度は嬉しそうに顔を歪める。

そして。


「だからこそ、ばらし甲斐もある」


歪む。今度は表情どころではなく、顔が、輪郭が。

映り込む全てが歪み、変わっていく。白奈から、見慣れた顔・・・・・に。


「……っと。これでどうかな、カナ?」


音が、消える。

もともと口から声が出ないのもあったが、それを除いても空気の震えそのものが変わる。

例えるなら、ただの静寂から、混乱による静寂へ。


「うんうん、いいね。いいよ、その反応。……ほんと、それでこそだ」


ただ一つ、モニターからは変わらないテンションで声が響く。

見慣れた顔、聴き慣れた声。モニターの顔と声はトカゲへと変化していた。


「お、まえ、は……」

「うん、そう。ボクだ」


口を動かすとかすれるような声が漏れ出た。

そのことに気がついてから、さらに言葉を絞り出す。


「ボクには生憎肉体と呼べるものがなくてネ。どうしようかと思っていたところに、ちょうどよくこの体が目の前に転がってきた、というわけサ。君たちの言葉で言うなら……『依代』って言ったカナ?」


ぎり、と歯が軋む。こんな奴が、妹の体を奪っただと?

ふざけるな。

ふざけるな!

ふざけるなふざけるな!!

叫びたい。

叫んで奴を掴み上げ、問い詰めたい。

だが、今それはできない。どんなに詰め寄っても、俺と奴の間にはモニターが挟まる。

この手は、またも白奈には届かない。


「俺たちの、動きを監視してたってわけか」

「おっと、それはまた酷い言われようだネ。ボクを仲間にしたのは君たちじゃなイカ。ねぇ? ナツメ嬢」

「っ……!」


名指しで言われ、ナツメが反応する。

確かにこいつは忍び込んだわけではないのだろう。ナツメの言葉を信じるならば、こいつらは確かにトカゲを引き入れている。

だが、どうして。


「私が……引き入れた……? それは確かにそうだ。だが、なぜ……?」


振り向くと、頭を抱えている姿が目に入る。

ナツメだけじゃない、他にも頭を抱えている人が大勢目に入る。


「まぁ、流石に何の小細工もなしにとはいかなかったけどネ。それでも、何の疑問も持たずに受け入れてくれたのには思わず笑いそうになっちゃったヨ」


くつくつと笑うその姿は、ともすれば無邪気に笑う子供にも感じられてしまう。

こいつの正体、その本質を知ってなお、そう思えてしまう。

つまりは、そういうこと・・・・・・だ。


「お、流石に一番近くにいた君は理解が早いネ。それとも、その影響をより濃く受けたからかな?」

「…………、……。」


どうやら俺にはそれ以上の何かがあったらしい。思い返してみれば、普段の自分とは違う考えを持つこともあった。

まるで黒い何かが心の底から湧き出るような感覚。あれもそういうことになるのだろう。


「反応なしカイ? 詰まらないナァ」


反応がない? なるほど、そう見えているらしい。少なくとも表面上は。

心の内は、これほど荒ぶっているというのに。

気を抜けば拳を握りしめそうになるのを、力を抜いて抑える。


「そ……それで、今更俺たちにそんなことを教えてどうするつもり……っすか」


息を深く吸って吐く途中、横から声が上がる。他でもない、マークの声だ。


「んふふ、最初は一息に君たち人類を餌にしてしまおうと思っていたんだけどネ。君たちってば存外頑張るじゃないカ。だから、少し遊んでみようと思ったのさ」


一呼吸。


「でもそれもお終イ。ちょうど良い具合に食べごろになったからサァ。こうしてそれを宣言しに来たって訳サ」

「そいつは、随分気前のいい話っすね。そう言われて俺たちが何の抵抗もしないと思ったんすか? それとも、これが強者故の奢りってやつなんすかね?」

「まさか。これでもボクは君たちを評価してるんダ。ただの餌だと思っていた生き物が、こうして少ないながらも同胞を脅かすまでになっタ。だからこれはその称賛ダヨ」


今度は、カラカラと笑いながらそんなことを言う。そのセリフに、マークの開いた口が閉まらなくなった。


「そ、そんなことのために俺たちを……生かしてきたって言うんすか!!」

「もちろん。というか勘違いしてもらっては困ルヨ。ここにきたのはあくまで食事のタメ。それが元の目的に戻るだけなんだカラ」


だから何もおかしくないのだと、続ける声に。今までその掌だった俺たちに返す言葉はなかった。

あるわけがなかった。

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