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ファンタジーハンター  作者: Who
歴史を回す者
33/49

その7

「さぁな」

「ぇ……?」


一言。それだけを返してきた。

返す俺の言葉は、なんとも間抜けな物。知らないうちに、俺は期待してしまっていたらしい。この人なら、何か答えをくれるかもしれないと。


「ただまぁ、言えることはある」


がりがり、と頭を掻き、俺の所感だがな、と付け加えてから。


「俺たちの手の中に力があった。それはもう疑いようがない」

「……」

「ただ、どんな力を手にしたって、俺たちはただの人間だ。神なんかじゃない。救えない命があれば、届かない手だってある」

「それは……!」


わかっている、つもりだった。けれど、言われてドキリともする。

確かに自惚れはあった。だからこそ、できなくて小さな兄妹の前で醜態もさらした。

その心中を知ってか知らずか、折山さんは言葉を続ける。


「だからこそ、俺たちは手の届く範囲だけでも必死で守り抜かなきゃならねぇ」

「手の、届く範囲……」


理屈はわかる。分かりすぎるほどに。

だって、俺自身がそうすることしかできなかったから。全てを救うことなんてできなかったのだから。

だったらーー。


「だったら、もっと……もっと強い奴が選ばれるべきだったんだ。俺なんかじゃ、手の届く範囲だって、たかが知れてるのに……なんで、俺なんかが」


選ばれてしまったのか、とは口に出ない。言葉が途切れる。

そのことを知ってか知らずか、隣からは変わらずに声が降ってくる。


「だよなぁ。俺もだ」


笑う。

けっして、笑えるようなことじゃないのに、折山さんは『だからこそ』と言わんばかりに声を大にする。


「けどな。その悩みは誰だって感じるんだ。もっとうまい奴が、もっとすごい奴が……ってな。誰だってそうだ」

「…………」

「だからこそ、俺は誰かにこの役目を任せたい、とは思わねぇ」


ふと、声が途切れたので、顔を上げる。あげた先には、もちろん折山さんの顔。


「お前や俺が今感じている悩みや悲しみは、この役に選ばれちまったら、誰だって感じる。だったら、こんな苦しい思いをするのは俺だけで十分だ」


その顔は、さっきまでの気楽なものじゃない。

何かに耐えるようにしかめられ、視線はかなり鋭い。


「憶えておけ。何かを変えるには、変える覚悟と、痛みが伴う」

「覚悟と、痛み……」

「そうだ。歴史を紐解けば、それの繰り返しだ。何かが変わるたびに、たくさんの血が流れてきた……。もちろん、全部が全部たくさんの犠牲者を出したわけじゃない。けれどそれは、一部の、血を肩代わりできる奴がたくさん流しただけに過ぎない」


血を、痛みを肩代わり……。


「待ってください。ということは……」

「あぁ、気がついたか。多分そう言うことだ。今回、俺たちがそれに選ばれちまったんだろうな」

「俺、たちが……」


ふと、手のひらに視線を落とす。

すでに綺麗になっているものの、ドラゴンの血にまみれていた手。

けれど、それを今一度しっかりと握り込む。


「少しはマシな顔になったな」

「……まだ正直混乱してます。けれど、それが今の俺にできることで、俺がやるべきことなら」


やってみせる。

伝えると、折山さんが破顔する。

それは、さっきまでの豪快な笑いではなく、まるで優しい親のような表情で。


「おう、それなら大丈夫だ。お前さんなら決断する瞬間を間違えることもないだろう。そして、それなら、守りたいものは必ず守れるさ」


ぽす、と頭の上に掌が載せられる。

子供扱いされているようなものだが、さっきの表情も相待って、俺にはその手を振り払うことができなかった。


「じゃあな。この騒動が終わったら、一緒に飯でも行こうぜ」


載せた手を離すと、その手を下ろさないまま折山さんは足を動かし始める。

手は落とさないまま、ふらふらと左右に振り回しながら。

遠ざかっていく背に、俺は無言で頭を下げた。

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