その3
「ナツメさん! これは!?」
がたっ、と音を立てて渡辺さんが立ち上がる。その質問には答えないまま、ナツメは現状の確認をし始めた。
モニターには、もすごい勢いで動く点が複数。それも、一直線にこちらに向かってきている。
「空から接近する生物多数……、反応からドラゴンだと推測できます!!」
「高度、下がり始めてます!! コンタクトまで3、2、1……」
ぜろ、とカウントダウンがいうのと同じタイミングで、シェルターそのものが揺れる。それも一度じゃない。二度、三度と揺れ続ける。立っていられないほどの揺れじゃないけれど、それが一向に治らない。ついで、上からは、重圧。
「ぁ、ぐ…」
何もないはずの頭上に、突然重りが出現したようにさえ感じる。足がふらつき、頭は揺れる。そうして、いつの間にか、俺の体は地面に手をついていた。ーーと、そこに手が差し伸べられる。
「どうした、裕二。情けねぇぞ」
「立てますか?」
手の主は渡辺さん。そしてその側には武人の姿もあった。二人とも、揺れも重圧も感じていないように、平然としている。
「ありがとう、ございます」
ぱし、とその手を掴み体を起こす。未だ重圧は消えていないが、一度立ち上がれば少しマシになった。
「…っく! 『桜花戦線』、動けるものは市民の安全を確保しろ!! シェルターの奥に避難させるんだ!!」
こちらもなんとか立ち上がったナツメが、マイクに向かって叫ぶ。その声に、廊下からは誘導を促す声が聞こえ始める。少しもすれば、その声と足音は遠ざかっていった。
「これで、一旦はしのげる。後は上の連中だが……」
珍しくナツメが口籠る。だが、少し考えれば、それも納得だ。
前回は一応の作戦があった。が、今回はそれすらない。そんな状況で奴らに対抗できるのか、そう考えているんだろう。
そこに言葉を投げ込んだのは、武人だった。
「それなら、俺たちに任せてもらおうか」
「っ! それは、ありがたいが…いいのか?」
「困った時はお互い様だ。な、いいだろ? 静也」
「はいはい、そう言うと思ってましたよ」
ため息をつきながらも、渡辺さんもそれに倣う。が、その体は自然体そのものだ。突然襲われたというのに、一切の緊張がない。
「わかった。なら、足止めはこちらが担当する。二人は今すぐ必要な準備をして、戦闘を開始してくれ」
手段があった場合の、ナツメの判断はやはり早い。あっという間に、方針を大まかに決定し、二人にそれぞれインカムを渡した。
それを受け取った後、思い出したかのように俺の方に向き直る。
「そういうわけだ。これから、俺たちはあのドラゴンどもとらんでぶーかますわけだが……お前さんも来い」
そうして、そんなことを宣った。
「ちょ、折山さん!? 急に何言ってるんですか、危険ですって!!」
「これから先、俺たち二人で全国のドラゴンを殺して周るわけにもいかんだろ。若い力は多いに越したこたぁない」
「……私も反対だ。そいつはまだ、回復しきっていない。危険すぎる」
ヘラヘラとした声を出しながらも、その顔は真剣そのものだ。この人は、冗談を言ってるわけじゃない。
「もちろん、無茶はさせない。が、これぐらいの危険は渡っておいた方がいい。それこそ、現状をどうにかしたいって思うのなら、これは絶好の機会だ」
二人に反対されてもなお、武人はそう言う。相変わらず、真剣な顔で。
その顔につられるように、俺の口からは自然と言葉が漏れた。
「……正直、俺には現状をどうにかしたい、とか他の人を守りたい、とかはまだよくわかりません。けれど、それが俺にできることなら、やってみせます!!」
そうだ、俺は白奈の敵を…。そのためにもこの機会を逃すわけにはいかない。
俺の頭上にかかっていた重圧は、既に消えて無くなっていた。




