その1
「へぇ、そいつは本当かい?」
「らしいですよ。って、折山さん! なんて格好してるんですか!?」
扉を開けると、そこには半裸の男がいた。いやもうほんとに。
「何って、見りゃわかるだろ。筋トレだよ」
「だとしてもですよ! いいから、服を着てください」
「わーった、わーった。流石にこのままじゃあれだから、シャワーでも浴びてくるわ」
そう言って、目の前の半裸男こと、折山さんが風呂場へと消えていく。その間に少し資料の整理でもしようと、手持ちの紙をめくってーー
「お前も入るか? 静也」
「入りません。いいから早く入ってきてください!!」
それでもまだぶつくさと呟く折山さんを、なんとか風呂場に押し込むと、ようやくため息を落とした。
そうして数分後。
「で、これがその集団です。『桜花戦線』、と名乗っているそうですよ?」
「へぇ、なかなかいい名前じゃないの。…にしても俺たち以外も、こうして討伐に成功するなんてなぁ」
俺、渡辺静也と、その上司である折山光は向き合って、椅子に腰を下ろしていた。手にはさっきまで俺が持っていた資料がそれぞれ握られている。
「なぁ、静也。お前さんこのことについてどう思う?」
「どう、って何がです?」
「この状況についてだ。現状、俺たちと、この集団でからしか、ドラゴン討伐の話を聞かない。それはなぜだと思う?」
「なぜ、と言われても……。単に成功していないからでは? それか成功してもこうして周知する方法がないとか」
「そうか」
「折山さんは違うんですか?」
「いや、俺も大体似た意見だよ。ただ……」
そこで折山さんは一度言葉を切った。そうして、少し声の大きさを落としてから。
「俺たちの中でも、実際に討伐したのは俺とお前だけだ。他の奴らには傷一つ付けられなかった。それがどうも気になってな」
「何か理由がある、ということですか?」
「そんな気がする、レベルだがな。ただ、そこにこうして他の討伐者が現れたんだ。これはもう」
「会ってみるしかない、ですよね? ええ、それぐらい予想してましたよ」
ため息と一緒に、言葉を受け継ぐ。が、確かに会ってみるのは悪くないはずだ。
そこが持っている情報と、こちらの情報を交換することも視野に入れられる。その条件でなら、向こうも首を縦に振るだろう。
「一度、こちらから打診をかけておきました。今は返事待ちですが、もうすぐにでも返事が返ってくるんじゃないでしょうか」
「おう、ありがとな」
ーーー
ところ変わって『桜花戦線』地下シェルター。
ようやく歩けるまでに回復した俺は、リハビリもかねて散歩に精を出していた。そんな折。
「お、裕二。ちょうどいいところに」
「なんだ、マークか」
廊下の向こうからは、最早見知りすぎた顔。その顔が、どんどん、と近づいてきた。
「なんだ、とはご挨拶だな。まぁいいや、ナツメさんが呼んでるんだ」
「ナツメが…?」
「そ。だから、ご同行願おうか。ほれほれ、歩け歩け」
「ちょ、まてまて。自分で歩けるから…」
あっという間に後ろに回り込んだマークに、肩を掴まれる。そのままぐいぐいと押されてしまえば、嫌でも体は前に進んでいく。
そうして、俺たちは二人揃ってナツメのいる作戦室にたどり着いた。
「連れてきたっすよ」
「ご苦労」
くるり、と椅子が回転し、ナツメの顔が現れる。
前回、ドラゴンが接近していた時の顔は真剣そのものだった。が、今回は焦りも気迫も感じない。どうやら、呼び出された用事は前回とは違うようだ。
「ああ、そう言えば須野はまだ回復したてだったな。そこにかけてくれ」
言われて、目の前にある椅子に腰掛ける。マークも合わせて着席した。
それを確認してから、ナツメが再度口を開く。
「実は、お前たちに会いたい、という人が現れてな」
「会いたい?」
「っすか?」
「そうだ。まずはこれを見てくれ」
これ、と指差されるのはお馴染みのモニター。そこには、いつか見た掲示板と似たような物が映し出されていた。
が、色合いなんかが微妙に違う。
「これは?」
「実はあれから、少し世界のネットワークが復興を始めてな。これは、他のコミュニティとの会話なんだ」
「他、ってことは……俺たち以外にもこうして生き残ってる人たちがいるんすね!?」
「その通り。それこそ、前回の柚木博士たちのように隠れるだけでなく、我々と同じく、抵抗を続けているような集団もいくつか確認できた」
おおー、と手を叩くマーク。確かにこれは喜ぶべきだ。俺たち以外にも、こうして活動している集団があった。ということはもしかすると、妹もその集団に逃げ込んでいる可能性もあるってことだ。
「そこで今回、我々はドラゴンの討伐に成功したことを公表した。こうして死骸のサンプルも一緒にしてな」
ぴ、と画面が切り替わる。映ったのは、俺たちが倒したドラゴン。その巨体が倒れている写真だった。
「随分と太っ腹だな」
「私もそう思う。ただまぁ、状況が状況だ。こうして、情報は広く共有していくべきだという考えになったからな」
なったから、ということはナツメの考えというわけではないのだろうか。
もしかしたら、会議で決まったことなのかもしれない。
「それで、これと俺たちに会いたい人がいるのと、どういう関係があるんだ?」
ぴ、と今度は無言で画面が切り替わる。
映り込んだのは、一つのメッセージ。何も言わないということは読んでみろ、ということなのだろう。一先ず、その文章に目を通し始めた。
「……」
「………」
「わかったか?」
数秒後。俺たちの視線が動かなくなったのを確認してから、ナツメから声がかかる。
もちろん読み終わっていた。要約すると。
「俺たち以外にもドラゴンを倒した人たちがいる」
「そうだ。付随している資料も検査したが、まず間違いないだろう」
「で、その人たちが、俺たちに会ってみたいと?」
「らしいな。名目上は情報交換、となっている」
なるほど。これは確かに、俺たちを名指ししているようなものだろう。『俺たちに会いたい』というのも頷ける。
「私は会ってみてもいいと思っている。情報交換の機会なんて、そうそう訪れるとも思えない。が、倒したのはあくまで君たちの活躍あってこそだ。判断は任せるよ」
手のひらをひらひらと振って、軽い調子でナツメが言う。
が、そう聞かれる前から、俺の答えは既に決まっていた。




