その6
ふと、目が覚める。どうやらまたも気絶していたらしい。
「いづ…!!」
「気が付いたか!?」
目が覚めた瞬間に襲ってくるのは、全身を貫くかのような痛み。まるで、全身が筋肉痛にでもなってしまったかのような痛みに、思わず声が漏れる。
その声に、近くにいたであろう人影が近づいてくる。
シャッ! という軽快な音ともに、周りを囲んでいたカーテンが開かれ、そこにいたのは。
「ナツメ…?」
「ああ、その通りだ」
ナツメがいる、そしてその後ろに見えるのは、見慣れたシェルターの壁。
ということは、間違いない。
「帰ってきたのか、俺」
『桜花戦線』、その地下シェルターの医務室に、寝かされていた。どうやら、あの作戦から帰ってきたらしい。
こうして命がある程度には無事で。
「お、なんだ目が覚めたの?」
ついで、カーテンからマークが顔を覗かせる。その顔には、湿布なんかが貼られているものの、顔色は決して悪くない。どうやら、無事らしい。
「どう…なったんだ? あの後」
体を起こして、そう問いかける。
「どうって……。ねぇ?」
が、マークは言葉に詰まった後、ナツメに託す。そのナツメは頷き、そして。
「ああ、倒したんだ。我々、いや、今回はほとんど君のおかげだが……」
「たお、した…?」
言葉を飲み込むのに時間がかかる。うまく整理できない。
それでもようやく、噛み砕いて飲み込んで。
「おうよ。俺たち人間がついにドラゴンを倒したんだ!!」
マークの言葉に、ようやく意識が追いついてくる。
そう、ついに俺たちはやり遂げた。たった一体だけど、それでも、確かな一体。
絶対に敵わないと思っていた相手に、一矢報いた。ようやく。
ーーー
「なるほど。それは、ぞっとしないな」
「だろう? 俺も聞いた時は背筋が凍るかと思ったぜ」
その後。
妙にハイテンションになるマークを宥め、俺が意識を失う直前から、今までの経緯を聞くことができた。
なんでも、四本目のナイフを起動させた直後。一瞬震えた後、ドラゴンは首を高く伸ばし、最後の咆哮をあげたらしい。
そしてそのまま。まるで重力を突然思い出したかのように、首を地面に叩きつけた。当然、首に張り付いていた俺も巻き添い。そして、地面に着いた俺の体は跳ねるボールよろしく、少しばかりの空中散歩を行った後、背中から地面に再びたどり着いたらしい。
もし、そこで地面に着いたのが背中から出なく、頭だった場合、あっけなく死んでいただろう。意識がない間のこととは言え、いやむしろ、そうであるからこそ、そんな死の可能性に今更ながらぞわりとする。
とにかく、そうして転がった俺たちを、ナツメが手配した回収班が運んできた、というわけだ。
「で、俺が先に目が覚め、お前の話を聞いたってわけだ」
「そうか」
「ったくよぉ! おいしところ持っていきやがって」
短く返すと、マークの腕が伸びてくる。伸びる先は、首。が、ベッドの上である上に、体も動かない状態では、避けることもできない。
そのまま、首に腕が巻きついてくる。皮肉にも、俺がドラゴンにしていたような状況だ。
「聞いた時はびっくりしたぜ。まさかお前がそんな無茶をするなんてな」
無茶ではあるが、無理じゃなかった。と言っても、目の前の奴には通じないだろう。諦めてその言葉を受け止める。
まぁ確かに。思い返してみれば随分な無茶だ。それでも、こうして結果がこうなのだから、今回は許してもらおう。
ーーと。
「そのドラゴンの死体はどうなった?」
「ん? ああ、死体か。それなら、まだあの場所に横たわっているよ」
ようやく出てきた疑問に、今度は傍らのナツメが答えた。
「横たわ、ってことは放置、ってことか」
「そうだ。動かなくなったとは言え、死んだとは断言できなくてな。まだここに運び込むことはできない。センサをありったけ貼り付けた後は、その場で放置している」
「そうか」
「といっても、検体として、いくつかは採取させてもらったがな」
言いながら指を折って、何かを数える。どうやら思っているより多くの検体が手に入ったらしい。
そんなことを考えていると、ぱんぱん、と手を打ち合わせる音。目の前ではちょうどナツメが手を合わせているところだった。
「さて。お前が目を覚ましてくれて嬉しい限りだが、今日はここまでだ」
ナツメの一言で、場は解散となった。マークも、流石に文句なく出ていく。
残されたのは、俺一人。他に同室の人もいないのか、部屋は一気に静かになった。
「そうか。やったんだな」
そうしてようやく、俺の復讐、その一回目はこうして幕を閉じた。




