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ファンタジーハンター  作者: Who
暗闇に響く咆哮
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その5

「…い、おい!! しっかりしろ、マーク!!」


がくがく、と肩を揺さぶってみるも、目の前の奴からは反応がない。かろうじて息だけは感じるが、肝心の意識は完全に持っていかれているらしい。

あの後。ロープが弾け飛んだあたりで、俺の体も吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。その直後は体も動かせない状態だったが、ようやく体が動かせるようになった。

が、行動を起こそうと思ったらこれだ。奴は更なる咆哮をあげ、目の前にはその咆哮で吹き飛ばされた人たちが転がってきた。その中には見覚えのある顔も混じっていたため、こうして今揺さぶっている。


「おい、ナツメ! どうなってやがる!? まるで効いているように見えないぞ!?」

『落ち着け。さっきのは怒りの咆哮だ。それだけ奴にダメージが入っている証拠だ』

「チッ」


思わずぶつけた言葉に、正論が返ってくる。が、その正論で少しばかり頭が冷えた。

確かに、今まで奴はこちらから何をしても無反応もいいところだった。それが、今や怒りの感情を剥き出しにしている。それが、敵意なのか、それとも鬱陶しい虫に向ける感情に似たものなのかは分からないが。


(だが、どうする? このままだと、全滅もあり得る…!)


周りを見ても、倒れている人がほとんどで、意識を保っている人は幾人もいないだろう。これでは作戦も何もない。

幸か不幸か、先ほどの電撃で神経の一部が痺れているのか、ドラゴンの動きは今だ鈍いままだ。ロープの拘束力がないにも関わらず、こちらを襲ってくる気配がない。強く睨みつけたまま、その場でもぞもぞと蠢くのみだ。

と、辺りを忙しなく見回していた視界に、きらりと光るものが映り込む。ドラゴンの背からだ。その背には、最初に俺が突き刺したナイフが一本。スイッチを押し込んだそれは、その時点で役目を終えている。たとえそれを抜いてもう一度刺したところで、大したダメージにはならないだろう。


(……待て)


もう一度突き刺す……?

何を? 何処・・に?

考え始めると、一息に頭が周り始める。まるで、堰を外した水が一気に流れ込むように、考えが進んでいく。

そうだ。俺のナイフはもう使った。だが、目の前にはマークがいる。そしてその腰には。


(未使用の、ナイフ)


腰にあったそれを、手に取る。スイッチは…押されていない!


「ナツメ、確認したいことがある。確かこのナイフはスズメバチナイフとやらをベースにしたと言っていたな? なら、本来の使い方をすることはできるか?」

『ーーしてくれ、急げ!! で、なんだ? 本来の使い方?』


どこかに指示を出していたのだろうか。息も切れ切れのまま、インカムから答えが返ってくる。


『ならできなくもない。基本的な部分は変わっていないからな。それで何を……いや、待てそういうことか』


言葉の途中で立ち上がり、階段に向けて走り出す。本来の使い方ができることが分かれば、それで十分だ。

途中、落ちているナイフを拾っていく。俺たち以外の人たちにも念のため、と持たせていたナイフだ。もちろん、未使用のまま。

本当なら走り回って、できるだけかき集めたいところだが、今は時間がない。


(四本か)


それでも、道中に落ちている物を三本拾い集めて階段を駆け上る。たどり着いたのは、作戦開始前と似たような場所。下を覗き込める、廃ビルの二階。

そのまま、駆け抜ける。そうして、二回目の飛び降りを敢行した。眼下には当然、ドラゴンの背中。果たして。


「うぉ…! くっ!!」


狙い通り、その揺れる足場に着地する。体はそろそろ悲鳴をあげているが、構ってられない。

鎌首のようになっている、長首を少しずつ頭まで登っていく。もちろん、足場は揺れ続けている。が、それは最初と比べて弱々しい。こんなんじゃ、振り落とされない。振り落とされるわけにはいかない。


「っぁ! 着いた…」


そうしてようやくたどり着いた頭。そこで座り込み、足を首に巻きつける。まるで、アスレチックの丸太から落ちないようにする子供のようだ。それでも今は、落ちなければそれでいい。

そうして体を固定してから、ようやく腰に手を伸ばす。そこには、さっき拾った分を含めてナイフが四本。


「……っ! ぐ、この!! 大人しくしてろ!!」


突き刺す。今度も、刃が完全に埋まるまで深く。

一本刺すたびに、頭は暴れ回るが、それも足で固定した以上、振り落とされることはない。電撃による麻痺も、まだ機能しているようだ。

それを確認しながらも、二本三本、と差し込んでいく。そしてついに。


「っこれで、ラスト……!!」


四本目を刺しこむ。だんだん慣れてきたのか、それはほとんど抵抗なく、頭に進入した。

だが、これで終わりじゃない。なにせこれは『スズメバチナイフ』。その真価を発揮するために、スイッチに手を伸ばす。


「チッ!」


足が痺れてきた。気を抜くと、振り落とされてしまいそうになる。手の感覚も薄れてきている。視界なんかは、どんどん狭くなってきている。正直、きつい。だけど、それでも!!


「ここまで、来たんだ!!」


ともすれば落ちそうになる体に喝を入れる。手を伸ばし、刺したナイフの一本に手をかける。そしてーー。

ぷし、と相変わらず気の抜けたような音がする。同時に少しだけ、頭が膨らみ。


がぁあああああああ”あ”あ”!!


初めて聞くような、まるで苦しんでいるような咆哮。それがすぐそばから聞こえてくる。

苦しんでいる? 何が? こいつが?

どろり、とまた黒いものが心から溢れてくる。瞬間、意識が遠ざかる。

まるで、どこか別の場所から、自分の体をリモコンか何かで操っているような感覚。俺の意識は確かにその瞬間、俺の体を離れていた。

先ほどまでより激しい揺れ。頭の上の何かを振り落とそうとする、怒り狂ったような振動。それをほとんど意識しないまま、俺は二本目のナイフに手を伸ばす。


ぷし


三本目、ぷし


もう手の感覚はほとんどない。視界も残るナイフを映すのみだ。

それでも、手を伸ばす。残った、四本目のそれに。

掴む。その時点で、視界はほとんど暗闇に埋まる。

ほとんど見えていない視界の中、響いてくるのは下からくる振動のみ。それもいつの間にかほとんどなくなっている。


ぷし


相も変わらず、気の抜けた音を最後に、俺の意識は完全に闇に溶けた。

最後に、どこか遠くから、咆哮が響いていた。

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