粛清の時間
俺とスライムは静かに家の中に入った。
中に入るとすぐにまずはリビングのような部屋の扉が横目で見えた。
前には7メートルほど奥に台所のような部屋が見えたが、見切れていてよく見えなかった。
俺のすぐ横のリビングっぽい部屋からは、たくさんの男たちの騒ぐ声が聞こえる。
俺は屈んでゆっくりと扉を少し開け、中を覗き見た。
「「「ヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイ!!フゥーー!!!!」」」
俺の見た視線の先に広がっていた世界は、推定で10人程はいる男たちが、酒を飲んだり頭にかけたりしている、言うなればパーティー会場のようだった。
しかしよく見てみると、部屋の壁には短剣が刃先を上にして立てかけられていたり、クロスボウのようなものを持って騒いでいる輩もいた。
さらに注目すべきは彼らの服装だ。
全員がボロボロの服を着ており、ズボンは短パン、上も汚れが目立っているなど、非常に汚かった。
そして耳を澄ますと、彼らの会話が聞こえてくる。
「案外簡単なんだな!王太子様を誘拐するってのはよ!」
「そうだなあ!でも、もう30分くらい経ったから騎士団がやってくると思うし、最後にあいつ殺しちまってもいいかもしれねえな!」
王太子………確か次に王を継ぐ息子のことを言ってるんじゃなかったっけ?
だとしたら結構こいつら言ってる事ヤバいだろ。
「どうゆう事だ………?」
俺が彼らの言葉を受け入れられずに困惑していた、その時。
「キュイーー!!!!!!」
スライムの喚くような声が俺の耳をつんざいた。
だが恐らくスライムは、俺の後ろにいる気配も隠せていないバカな人間のことを言ってるんだろう。
こんなところで俺に殺されちゃって、残念。
男は、仲間とは一人別行動をしていた。
全員が盗みと戦いを終え、1つの部屋に行こうとしていた時に、彼だけがトイレと言って仲間と別れたのである。
しばらくして戻ると、暗くて見えにくいが一人の小綺麗な男とスライムが仲間がいる部屋を覗き見ていた。
小綺麗ということは、自分達の仲間ではない。
そう判断した男は、懐から静かに短剣を取り出し、忍び足で彼を殺そうとした。
男の下にいたスライムの絶叫を聴きながら。
………現在楓弦が部屋を盗み見ている時に酒を飲んでいたあの男達の本業は、野盗。
その名を、【貪欲の族】という。
彼らに恐れをなした人間たちがつけた名前だ。
盗みも平気でやり、殺しだって、誘拐だってする。
そして彼らが他の野盗たちとは一線を画すその特徴は、残虐性と戦闘能力。
必要であれば拷問もし、さらに彼らの中には腹が減りすぎて近くにいた人間を殺し貪った、などと言う奴も何人か存在する。
当然、そこまですればこの世界の騎士団という警察のようなものも介入してきた。
そこで厄介になるのが、彼ら全員の戦闘能力だ。
騎士団との戦闘ではなんと多少の犠牲も払いながらも、全戦全勝。
ほとんどの場合騎士団の方が数が多いのだが、全ての戦いに勝利している。
その勝利の秘訣は、彼ら一人一人の戦闘能力が野盗としては異常に高く、さらに彼らは致命傷を与えられても、死に物狂いで起き上がり、壁としての役割を最大限果たしながら騎士団の中に突っ込んで少しでも敵を殺す。
それらを数回ほど繰り返しようやく死ぬ。
さらにその隙に他の貪欲の族メンバーが騎士団の数を減らす。
彼らはこのような戦い方をし、幾度となく戦に勝利してきた。
普通の人間であれば、たった1人で彼らに勝つことなど出来ない。
仮にもし勝った場合、その人間は1騎士団以上の力を持っている、ということになる。
だがしかし、どうやら楓弦は、普通の人間ではないみたいだ。
「ッ!?」
「弱いな。気配くらい消せ」
そう言いながら俺は、男の腹に1発パンチをお見舞いする。
「ぐっ………」
「おお、立ってられるのか。じゃ、これはどうだ?」
男の首をナイフで掻っ切る。
ゴトッ、という音が響くと同時に、首から血を流し男は倒れ込んだ。
「あら、流石に耐えれないか」
すると部屋の扉が開き、驚愕した表情の男が問うてきた。
「なっ!?お前、誰だ!?」
あの男が暗がりに紛れようとしながら俺を殺そうとしてきていたから、恐らくこいつも仲間だろう。
現に、俺の後ろにいる男の首なし死体にものともしていない。
つまりは殺しちゃっていいってことだ。
お前らの仲間が俺を殺そうとしてきたんだからな。
久しぶりの人との戦闘に、思わず気分が高揚する。
その気分のせいで自分の表情が微笑んでいるのを心で理解しながら、俺は目の前の男に向かって踏み出し、首を切った。
男が倒れると、先ほどまで隠れて見えなかった部屋の景色が、完全に見えるようになった。
突然明るくなった視界に少しだけ驚き、目を細める。
部屋の中にいる男たちは皆、自分の見ている現実を理解できていなさそうだ。
しかしすぐに彼らは立てかけてあった武器を構え、俺に向かってきた。
でも彼らの走ってくる姿を見るに、個の力はあまり高く無さそうだ。
俺は部屋の壁掛け時計をチラリと一瞥する。
長針は7の少し先を指し示している。
つまりは36分くらいか。
目指すは40分以内に粛清だな。
「行くか」
「「「うおおおおっっっ!!!!!」」」
俺の前を男どもが囲って短剣を振り下ろし殺そうとしてくる。
だが俺は、その攻撃をジャンプして避ける。
避けられるとは思っていなかった男たちは、前傾姿勢になっていたため、勢いを止められずに転んでしまった。
俺は2本のナイフを持った腕を挟むようにして振り、全員の腹を切りつける。
「がああっ!?」
「ぐぼっ!?」
念の為に今度は振り向いて首を切る。
首を切ると、さっきまで呻いていた男たちも動きを止めた。
俺は安心して後ろを振り向き、前を向いた。
もちろんここにいる男たちはまだまだ残っている。
俺は、男たちの間を通り抜け、真っ直ぐ一気に部屋の端まで走った。
ナイフでしっかりと、彼らの首を切りながら。
ドサドサと男たちが倒れ込む。
しかしその中に1人だけ、どれだけ待っても倒れない男が立っていた。
見ると、首が少ししか切れていない。
そして俺が男を見たのと同時に、男の持っていた短剣がパキンと折れ、地面に落ちた。
どうやら剣で俺の攻撃を防いだようだ。
しばらくすると、男が話しかけてきた。
「オイ」
「あ?どうした」
「…………テメー、何モンだ」
「うーん、紹介出来ることが無いな。ま、紹介しなくても大丈夫だろ」
「なぜだ。」
「だって、お前ここで殺すもん」
そう言うと、男は大笑いし始めた。
「ククク……ハハハハハハハッ!!騎士団1つでも全員殺せない俺らを、お前は1分くらいで殺して、挙句の果てにボスの俺を殺すってか!!面白え!!」
「あーそういうのいいから。早くタバコの在り処教えろ」
「…………え?」
「だーかーら!!こっちはさっきからタバコ吸えなくてイライラしっぱなしなんだよ!!!早く教えろやボケ!!!!」
「ヒッ!?」
「ひっ!?じゃねえんだよバカヤロー!!さっさと教えろって」
俺は男の脚を横から蹴って転ばせ、ナイフをすぐ横に突き刺した。
「言ってんだろ!!!!!!!!!」
「ヒエエエ!!!ち、地下室です!!地下室にあります!!こ、これ地下室の鍵です!!許してください!!」
俺は男が差し出してきた鍵を奪い取ると、首を乱暴に切った。
「ごちゃごちゃうるせえんだよ。結論から言え結論から」
俺はそう言うと、立ち上がって部屋を出て地下室を探し始めた。
隣にいるスライムはめっちゃ楽しそうに身体を跳ねさせて歩いていた。
サイコパスかこいつ。
現在俺は地下室に通づる扉を見つけ、鍵を開けて階段を降りていた。
「あー早く吸いたいな。でも取ったら早めに帰らないとなー。ジラから何言われるか分からんし。………あーあ、やっぱりあいつ自我強すぎだろ。すぐに戦おうとしてくるし」
すると、俺の頭に彼女に対する最高の褒め言葉が思い浮かんだ。
「ライオンみたいな女、略してライ女。いいんじゃないかこの名前。今度使ってみるか」
「キュ?」
「大丈夫。お前のことは言ってないさ。言ってるのはさっきまでいたあのライ女の事さ」
「キュキュキュ……。キューイ!」
「やべえ何言ってるか全然分からん」
そうこうしているうちに、いつの間にか地下室の中に入っていた。
そして目の前の視界に映っているあの捨てられている物は。
「おっ、あったあった。タバコゲーット」
「キッユ!」
俺は箱からタバコを取り出しライターで火をつけ、スライムにも1本渡して吸い始めた。
「………ふぅ〜、やっぱこれだな。安心する味だ」
「キュウ〜〜〜」
俺がタバコを満喫していた、その時。
「……………あの〜〜〜」
「んえ?」
「この檻、壊してくれませんかね?」
妙に手の込んだ衣装を着ている15歳くらいの美男子が俺に話しかけてきた。
「ん、了解」
「あ、ありがとうございます!!」
「お礼は後でいいからちょっと下がっとけ」
「分かりました!」
美男子が後ろに下がる。
俺はそれを見ると、拳を構え、檻の耐久が軟そうな所に向いて、正拳突きを放った。
すると檻はバキンという音をたてながら、人1人分くらいの穴が空いた。
「わぁ……凄いですね!」
「そうだろ?」
美男子は檻から出ると、俺にそう声をかけてくれた。
「あ、そういえば申し遅れました」
そう言って彼は自らの名前を言った。
「私の名前は、ベルン・エルミットと申します」
彼はその後、俺の頭に一瞬だけよぎっていた言葉を言った。
「貴方様もお気づきになっておられると思いますが、ここ、王都エルミットの次期王位継承者でございます。何卒」
……あんたやっぱり、王太子だったのかよ。
流石の貪欲の族も首切られると生きられましぇん。




