ギルドへ
家の屋根を飛び警備員さん達から逃げきった後、俺は今後のことを考えながらジラと話をしていた。
「ふぅ。なんとか逃げ切ったわね」
「そうだな」
「キュ〜〜…………」
スライムは長い間体を思いっきり締め抱えられた為、目をバツ印にしてのぼせたかのように呻いていた。
「そういえばアンタ、これからどうするの?」
「うぐ」
「何?まさかなんにも決まってませんとか言うつもりじゃないでしょうね?」
「………」
「はぁ〜〜。呆れたわ。それじゃあ、ギルドにでも行く?アンタくらいの強さだったら私も安心して戦えるだろうし」
「え?ギルド?」
「アンタギルドが何かも知らずにここにノコノコとやって来たのね………」
「う」
「いい?ギルドっていうのは、アンタの今隣にいるスライムとかゴブリンとかのモンスターを殺してお金を稼ぐ仕事よ。報酬もモンスターが強ければ強い程高くなるわ」
「行きます」
「キュエ!?」
「即決なのね。それじゃ、早く行きましょ!」
ジラが腕を掴んで強い力で引いてきたため、俺は再びスライムを締め抱えた。
「ギュイッ!!!!!」
「痛っ!?待て待て待て待て待て!手を引くな!転ぶ!転ぶ転ぶ転ぶ転ぶ転ぶ!!!!」
「うるっさいわね!男なんだからもう少し静かにできないの!?」
「すいません!!」
「ほら、着いたわよ!」
「キュ………キ………ェ………」
「危ない危ない。肩が脱臼するとこだったぜ。ん?おいスライム?大丈夫かスライム!?スライムぅぅぅぅ!!!!!!」
ジラはギルドの中に入った後、掲示板っぽい所を見つめブツブツ何かを呟いていた。
「どうしようかしら………アイツはもしかしたら10年間修行した私よりも強いかもしれないし………だったら少し上のランクに……デッドセンティピードは私が虫苦手だから無理だし………」
一方俺はというと、ギルド内に設置されていたテーブル席に座り復活したスライムを太ももの上に乗せながら、タバコを吸っていた。
もちろんスライムも一緒にタバコを吸っている。
「ふぅ〜〜」
「キュ〜〜」
そうしてしばらくするとジラが決心したかのような足取りでこちらに向かってきて、1枚の紙をテーブルの上に置いた。
「ナニコレ」
「キングゴブリン討伐。報酬は金貨3枚。ちなみに言っておくけど金貨1枚は銅貨1000枚と同価値ね」
「つまりは報酬がめっちゃ高いってこと?」
「そ。でもその分かなり強いわよ。私一人では致命傷が限界ね」
「なるほど。じゃ、行くか」
「…………最後の確認だけど、恐怖とかは無いの?」
「ん?」
「このクエストのゴブリンキングは今まで59人が戦って少し傷を負わせたくらいで全員が死んだわ。私達も勝てるか分からない。………結論から言うと、死ぬかもしれないのよ?」
死ぬ、か。
「もちろん怖えよ。でもさ、怖がって挑戦しなかったら、何も始まらねえじゃん?」
それにこれは彼女には言えないが、俺は18歳頃からずっと人を殺し続けていたため、今更自分が死に直面したとてなんとも思わない。
強いて言えば、因果応報だな、と思うくらい。
それがいつなのかは分からないが。
「………そう。じゃ、私をしっかり、サポートしてね?」
「分かってる」
「ということで、出発!」
「おーい、ジラー?ジラさーん?」
「何?」
「一体いつ着くんですかねゴブリンキングの元に」
「………分からないわ」
「分からないってなんだよもう〜〜〜!!」
「キュエ〜〜〜!!!!」
「スライムと共鳴しないでちょうだい。もうすぐ着くわよ」
「そう言いながらもう30分歩いてんじゃ〜〜ん!!!」
「キュイエ〜〜!!!!!」
「はぁ。文句が多いわね。……………あら、あれは何かしら?」
「ん?」
ジラが指を指した方向を見ると、でかい棍棒を持った迷彩色の恐らくゴブリンキングだと思われるものがいた。
「………あれってゴブリンキングっすか?」
「ええ、ゴブリンキングよ。でも周りに仲間のノーマルゴブリンを連れていないのが少し不審な点ね」
「そっすか。おいスライム、その辺に隠れてろ。こっから先は、刺激が強いかもしれないからな」
「モンスターに刺激が強いも何もないでしょう」
「そういえばそうか」
「そんなことは置いておいて、早くその腰にある得物構えときなさい。1、2、3で行くわよ」
「はいはい」
そう言いながら腰に差してあるナイフを二本取り出し、1本は腹の前で横向きに、もう1本は頭の上で横向きにして構える。
「………変な構えね」
「よく言われる」
この構えをしないと気分が上がらないからな。
ずっと殺し屋をしている間にいつしかこの構えになっていた。
「ダサいわね……。ま、そんなことはいいわ。」
おい今小声でダサいって言っただろ。
俺は聞き逃さないからな。
そんな俺の思いをよそに、ジラは構えをとると、何かを呟いた。
「リーインフォース」
その瞬間彼女は、身体から青色のオーラのようなものを醸し出した。
どうやら開始するようだ。
「行くわよ…………1、2の………3ッ!!!」
ジラは地面に踏み込むと、凄まじい音をたてながらゴブリンキングへ向かっていった。
「グッ!?」
突然の出来事にゴブリンキングは戸惑っているようだ。
すぐさま俺も地面を踏み込み、走り出した。
「ふっ!!!」
彼女の右ストレートがゴブリンキングの左頬に炸裂すると、ゴブリンキングは少し痛がるような素振りを見せた。
その隙を俺は見逃さず、ゴブリンキングの腹を斬ろうとした………が。
「硬えッッ!!!」
「グオッ!!」
少しだけゴブリンキングの体が裂けた程度で終わってしまった。
俺の無防備な横腹に迫ってきた棍棒をバックジャンプして避ける。
「おい!こいつって勝てんのか!?」
「いけるわよ!少なくとも私とアンタならね!」
「その答えを信用するぜ!!!」
俺がこう言うと、ジラは再びゴブリンキングの元へ向かっていった。
「はぁ………はぁ………」
「ふーっ…………」
「グルル…………グ………」
やっと後一歩の所までやってきた。
2人とも至る所から血が垂れ、呼吸も乱れて肩で息をしている。
満身創痍、という状態だろう。
でもそれは、相手も同じなはず。
「ッ……!!!」
ジラが今日何度目かも分からない踏み込みをし、ゴブリンキングの足に蹴りを入れた。
「グ………アッ!?」
とうとうゴブリンキングが体勢を崩し倒れた。
恐らくそれで、油断してしまったのだ。
「よしっ!!」
「グウウッ!!」
ゴブリンキングは倒れながらも、棍棒をジラの元へと振り下ろしていた。
思わぬ攻撃に、ジラは気付くのが少し遅れてしまった。
「ッ……!」
「チッ!!!」
俺はジラを本能的に手で吹っ飛ばす。
「きゃっ!?」
棍棒が頭上へと迫ってきた。
避けられない。
瞬間、俺の頭を激しい鈍痛が襲った。
じきに意識は途絶えるだろう。
そして、恐らくその意識が途絶えた時が、俺の人生の最後となる。
…………今まで人殺ししかしてこなかった俺が、最後は人を救って死ぬのか。
最後だけ、素敵なヒーローみたいだな。
そう思うと、俺の意識は底へと沈んでいった。
―――。
飛鷹楓弦、生命活動停止。
固有特典【五死六生】、発動。
あなたは、まだ死なない。
「え?」
目を開けると、ゴブリンキングが困惑した表情で目の前に立っていた。
反射的に後ろへ飛び退く。
あれ?飛び退いた距離長くね?
「えっ…………と?」
それは気のせいとして、一体どういうことだ?
俺は今、確かに死んだはず。
混乱していると、頭の中に勝手に文字が浮かんできた。
『※この文はオート入力ですので会話することは出来ません。
飛鷹楓弦さん。
あなたは今、死にました』
そんぐらい分かっとるわ。舐めてんのか?
『ですので、固有特典の1つである【五死六生】が発動いたしました。
この特典は死亡する度に生き返り楓弦さんのステータスが全てランダムで強化される、という特典でございます。
だがしかし、死亡できる回数は五回まで。
その後再び死亡してしまうと生き返ることは出来ません。
ちなみにもう1つの特典は楓弦さんも既に分かっていることでしょうが、ステータスの超強化です。
木を蹴るだけで断つことができます。
この解説でお分かりいただけましたでしょうか?
それでは、異世界をお楽しみください』
そこまで書かれると、文字は一瞬で頭の中から消え去った。
「なるほどね……!」
俺は手をポキポキと鳴らす。
先程の話を要約すると、俺は強くなったということだ。
どれくらい強くなったのかはランダムだから分からないけど。
腕はある。
ナイフも持ってる。
足もある。
もう1回生かされたんだ。五体満足の状態で。
だとしたらまず。
俺を殺しかけてくれたモンスターに、現実を見せてやらねば。
「ガギギアッッ!!!」
ゴブリンキングが棍棒を振り回しながらこちらに走ってきた。
俺はゆっくりと、ジラからダサいと言われた構えをとり。
そして。
「フンッ!!!!」
ゴブリンキングの身体を。
「グ………アアアアッッッッ!?」
切り裂いた。
ゴブリンキングは血を流しながらバタンと倒れる。
俺が近づいてナイフでツンツンしてみても、なんの反応も無い。
ただの屍となったようだ。
俺は一仕事を終えた余韻と共に、ポケットに入っていたタバコの煙をふーっと吐いた。
あぶね。
学校と小説の両立難しくて涙がで、出ますよ………。




